猛暑の夏商戦を総決算、売れたモノと売れなかったモノ
家庭用エアコンの出荷数は過去最高
記録的な猛暑になった平成最後の夏商戦は盛り上がりを見せた。スーパーマーケット、コンビニエンスストアで飲料やアイスクリームなどの売り上げが伸びたほか、7月の家庭用エアコンの出荷台数は過去最高だった。9月も厳しい残暑が続くことが予想され、売り上げが伸びそうだ。一方で秋以降の反動減を懸念する声もあがる。
日本フランチャイズチェーン協会によると、コンビニでは、飲料や冷やし麺といった夏物商材が好調だった。ファミリーマートではフラッペ(かき氷)の売れ行きが伸びた。
食品スーパーで構成する日本スーパーマーケット協会などの調査では、「スポーツドリンクなど熱中症対策用商材は特需となったが、欠品で“チャンスロス”があった店舗もある」という。梅干しを中心に、漬物の特需もあった。一方で気温上昇が影響し、パン類の売れ行きは不調だったとしている。
総合スーパーなどが加盟する日本チェーンストア協会の井上淳専務理事は、「猛暑は夏物需要のプラスと客足のマイナスの両面があるが、どちらかといえばプラスだった」と見る。
ユニーは食品だけでなく「衣料品・住居関連品も夏物商品がけん引した」としており、7月は「衣」「食」「住」すべてのカテゴリーで既存店売上高が前年を上回った。
一方で猛暑は小売店の客足には悪影響だった。日本百貨店協会がまとめた7月度の百貨店の既存店売上高は前年同月比6・1%減、入店客数は同3・9%減にとどまった。同協会は「連日の酷暑で、百貨店の主要顧客である年配者の足が止まってしまった」点を不調の一因に挙げる。
また、日本フードサービス協会がまとめた外食業界の客数は同1・1%減だった。喫茶業態で冷たい飲み物が売れるといった効果はあったが、ビアガーデンなどの不調が響いた。
7、8月と猛暑が続いた日本列島。噴き出す汗と渇いた喉を癒やすため、さぞかしビールなどが飛ぶように売れるだろうと思われた。実際にはビール類(ビール、発泡酒、第三のビール)はまだら模様の売れ行き。それ以外の缶チューハイなどは販売を伸ばし、飲用需要の多様化が顕著となった。
キリンビールが際立って元気だ。7月はビール類が前年同月比15%増の伸びで、うち第三のビールが同53%増の大幅増だった。8月も中旬まででビール類が同約10%増、第三のビールで同約40%増と好調を維持する。「第三のビール『本麒麟』のヒットが大きく貢献している」(コーポレートコミュニケーション部)。
このほか、サントリービールのビール「プレミアムモルツ 香るエール」が8月に前年比で約20%増と好調。また、サッポロビールも主力ビール「黒ラベル」を中心に前年を上回りそうだという。ビール類全体では猛暑の恩恵をそれほど受けていないようだが、“ビール離れ”が言われる昨今としては堅調といえる。
ビールに対して割安感もあり、好調なのが缶チューハイや缶ハイボール。アサヒビールは果汁感が特徴の「アサヒ贅沢搾り」の年間販売目標を前年比約33%増の400万ケースに引き上げた。
サントリーは8月の缶ハイボールと缶チューハイがそれぞれ前年に比べ2ケタの伸びになりそう。キリンとサッポロも缶チューハイは2ケタを確保できる見通しだという。
猛暑はエアコン生産に特需をもたらした。日本電機工業会(JEMA)によると、7月のエアコン出荷台数は前年同月比10・9%増の176万3000台と、1972年の統計開始以来、過去最高となった。
実際、三菱電機はエアコン生産拠点の静岡製作所(静岡市駿河区)で、前年比1―2割増のフル生産で対応してきた。
パナソニックは例年、7月以降に生産調整するが、今年は同月中旬に増産へ転じた。また、販売面では量販店以上に「『パナソニックショップ(系列店)』での販売が伸びた」(高木俊幸常務執行役員)という。顧客とのつながりが密接な系列店は、エアコンを購入したい来客に即対応できるからだ。
ダイキン工業は8月下旬に入っても、滋賀製作所(滋賀県草津市)にある一部のラインでエアコンをフル生産する。「発注から3日後に生産量を変更できる」(小倉博敏滋賀製造部長)柔軟な生産体制が構築できており、ぎりぎりまでフル生産を続けられる。
エアコンは、気温と天候次第で販売が浮き沈みする。大量の在庫を抱えたり、逆に品切れを起こして機会損失を被ったりするといったリスクを常に抱える。そのため製品の性能に加え、販売や製造での迅速さが、各社の競争力に直結しているようだ。
資生堂では、日焼け止めブランドの「アネッサ」シリーズや制汗剤「シーブリーズ」「エージーデオ24」など夏向けの商品が全般的に好調。特にボディーシートの売れ行きが良かったという。ただ、今年は梅雨明けが早かったこともあり、「猛暑が要因で売り上げが上がったかどうかまでは分からない」(広報部)。
一方、アース製薬では5月の低気温に加え、夏は猛暑が続いたため、殺虫剤など虫ケア市場が低調だった。一般的に気温が35度C以上になると、蚊やゴキブリも活動を止めてしまうことがある。また蚊が成虫になるには水たまりなどが必要だが、猛暑で水場が少なくなった影響も考えられる。ヒアリ需要は若干あったという。
今夏は男性も使う人が増えるなど、日傘の売れ行きが好調だった。中でも東レの遮熱、遮光、紫外線カット機能を持ち合わせた日傘用生地「サマーシールド」を使った日傘は、定価が1万円を超えるが、盛況だった。同傘を製造販売するオーロラ(東京都千代田区)によると、記録的猛暑の影響を受け、今夏の販売本数は前年比約20%増だという。訪日外国人のお土産需要としても人気で、売り切れ状態が続いた。
東レは今シーズンから本格的に、サマーシールドを集会用テントやオーニング(日よけ)向けに提案を始めた。高速道路のサービスエリア内にある休憩スペースや、幼稚園内の日よけテントなど、熱中症対策を意識した採用が多かったという。
個人消費が昨年から緩やかに伸びる中、今夏の猛暑は消費喚起につながった。清涼飲料やエアコンなど家電の出荷が大きく伸びたが、暑さで外に出たくない人が宅配や出前を多く利用したり、外出先でタクシーの乗車を増やしたりと思わぬ好影響も出たようだ。
一方、百貨店やテーマパークは外出を避けたために出足が鈍り、売り上げは落ち込んでいる。ビールの消費も思ったほどは伸びなかった。しかし、トータルに見たら猛暑は経済にはプラスに働いたとみている。
ただ、秋口以降に反動減が来る可能性は高そうだ。企業全体の賞与が増えたことで一時的な消費押し上げは期待できるが、月例給が伸びていない現状を考慮すると、賞与の中の一定額は貯蓄に回るだろう。個人消費の伸びが再び緩慢に戻ることを懸念している。
小売り 熱中症対策で特需 酷暑、客足にはマイナス
日本フランチャイズチェーン協会によると、コンビニでは、飲料や冷やし麺といった夏物商材が好調だった。ファミリーマートではフラッペ(かき氷)の売れ行きが伸びた。
食品スーパーで構成する日本スーパーマーケット協会などの調査では、「スポーツドリンクなど熱中症対策用商材は特需となったが、欠品で“チャンスロス”があった店舗もある」という。梅干しを中心に、漬物の特需もあった。一方で気温上昇が影響し、パン類の売れ行きは不調だったとしている。
総合スーパーなどが加盟する日本チェーンストア協会の井上淳専務理事は、「猛暑は夏物需要のプラスと客足のマイナスの両面があるが、どちらかといえばプラスだった」と見る。
ユニーは食品だけでなく「衣料品・住居関連品も夏物商品がけん引した」としており、7月は「衣」「食」「住」すべてのカテゴリーで既存店売上高が前年を上回った。
一方で猛暑は小売店の客足には悪影響だった。日本百貨店協会がまとめた7月度の百貨店の既存店売上高は前年同月比6・1%減、入店客数は同3・9%減にとどまった。同協会は「連日の酷暑で、百貨店の主要顧客である年配者の足が止まってしまった」点を不調の一因に挙げる。
また、日本フードサービス協会がまとめた外食業界の客数は同1・1%減だった。喫茶業態で冷たい飲み物が売れるといった効果はあったが、ビアガーデンなどの不調が響いた。
ビール類 缶チューハイ伸長 ビール離れ一休み
7、8月と猛暑が続いた日本列島。噴き出す汗と渇いた喉を癒やすため、さぞかしビールなどが飛ぶように売れるだろうと思われた。実際にはビール類(ビール、発泡酒、第三のビール)はまだら模様の売れ行き。それ以外の缶チューハイなどは販売を伸ばし、飲用需要の多様化が顕著となった。
キリンビールが際立って元気だ。7月はビール類が前年同月比15%増の伸びで、うち第三のビールが同53%増の大幅増だった。8月も中旬まででビール類が同約10%増、第三のビールで同約40%増と好調を維持する。「第三のビール『本麒麟』のヒットが大きく貢献している」(コーポレートコミュニケーション部)。
このほか、サントリービールのビール「プレミアムモルツ 香るエール」が8月に前年比で約20%増と好調。また、サッポロビールも主力ビール「黒ラベル」を中心に前年を上回りそうだという。ビール類全体では猛暑の恩恵をそれほど受けていないようだが、“ビール離れ”が言われる昨今としては堅調といえる。
ビールに対して割安感もあり、好調なのが缶チューハイや缶ハイボール。アサヒビールは果汁感が特徴の「アサヒ贅沢搾り」の年間販売目標を前年比約33%増の400万ケースに引き上げた。
サントリーは8月の缶ハイボールと缶チューハイがそれぞれ前年に比べ2ケタの伸びになりそう。キリンとサッポロも缶チューハイは2ケタを確保できる見通しだという。
エアコン フル生産続く 7月出荷台数過去最高
猛暑はエアコン生産に特需をもたらした。日本電機工業会(JEMA)によると、7月のエアコン出荷台数は前年同月比10・9%増の176万3000台と、1972年の統計開始以来、過去最高となった。
実際、三菱電機はエアコン生産拠点の静岡製作所(静岡市駿河区)で、前年比1―2割増のフル生産で対応してきた。
パナソニックは例年、7月以降に生産調整するが、今年は同月中旬に増産へ転じた。また、販売面では量販店以上に「『パナソニックショップ(系列店)』での販売が伸びた」(高木俊幸常務執行役員)という。顧客とのつながりが密接な系列店は、エアコンを購入したい来客に即対応できるからだ。
ダイキン工業は8月下旬に入っても、滋賀製作所(滋賀県草津市)にある一部のラインでエアコンをフル生産する。「発注から3日後に生産量を変更できる」(小倉博敏滋賀製造部長)柔軟な生産体制が構築できており、ぎりぎりまでフル生産を続けられる。
エアコンは、気温と天候次第で販売が浮き沈みする。大量の在庫を抱えたり、逆に品切れを起こして機会損失を被ったりするといったリスクを常に抱える。そのため製品の性能に加え、販売や製造での迅速さが、各社の競争力に直結しているようだ。
化粧品 ボディーシート好調、虫ケア市場は低調
資生堂では、日焼け止めブランドの「アネッサ」シリーズや制汗剤「シーブリーズ」「エージーデオ24」など夏向けの商品が全般的に好調。特にボディーシートの売れ行きが良かったという。ただ、今年は梅雨明けが早かったこともあり、「猛暑が要因で売り上げが上がったかどうかまでは分からない」(広報部)。
一方、アース製薬では5月の低気温に加え、夏は猛暑が続いたため、殺虫剤など虫ケア市場が低調だった。一般的に気温が35度C以上になると、蚊やゴキブリも活動を止めてしまうことがある。また蚊が成虫になるには水たまりなどが必要だが、猛暑で水場が少なくなった影響も考えられる。ヒアリ需要は若干あったという。
日傘 高機能品が盛況 おみやげ需要も
今夏は男性も使う人が増えるなど、日傘の売れ行きが好調だった。中でも東レの遮熱、遮光、紫外線カット機能を持ち合わせた日傘用生地「サマーシールド」を使った日傘は、定価が1万円を超えるが、盛況だった。同傘を製造販売するオーロラ(東京都千代田区)によると、記録的猛暑の影響を受け、今夏の販売本数は前年比約20%増だという。訪日外国人のお土産需要としても人気で、売り切れ状態が続いた。
東レは今シーズンから本格的に、サマーシールドを集会用テントやオーニング(日よけ)向けに提案を始めた。高速道路のサービスエリア内にある休憩スペースや、幼稚園内の日よけテントなど、熱中症対策を意識した採用が多かったという。
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個人消費が昨年から緩やかに伸びる中、今夏の猛暑は消費喚起につながった。清涼飲料やエアコンなど家電の出荷が大きく伸びたが、暑さで外に出たくない人が宅配や出前を多く利用したり、外出先でタクシーの乗車を増やしたりと思わぬ好影響も出たようだ。
一方、百貨店やテーマパークは外出を避けたために出足が鈍り、売り上げは落ち込んでいる。ビールの消費も思ったほどは伸びなかった。しかし、トータルに見たら猛暑は経済にはプラスに働いたとみている。
ただ、秋口以降に反動減が来る可能性は高そうだ。企業全体の賞与が増えたことで一時的な消費押し上げは期待できるが、月例給が伸びていない現状を考慮すると、賞与の中の一定額は貯蓄に回るだろう。個人消費の伸びが再び緩慢に戻ることを懸念している。
日刊工業新聞2018年8月31日