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便秘は死に至る病、治療のゴールはどこ

 便秘は主に若い女性の悩みとみなされ、病気として捉えられることは少ないかもしれない。だが年齢が高くなると男女ともに有訴者数は増える傾向にあり、高齢化に伴って患者の増加が懸念されている。専門医からは他の疾患との関連性が高い上、従来の治療では患者満足度が低くなっているとの声があがる。医療関係者は便秘治療のゴールを明確にした上で、適切な診断や処方、服薬管理のあり方を追求する必要がある。

 「便秘は単に生活の質を下げるだけでなく、あらゆる疾患に関係する。場合によっては死に至る」―。横浜市立大学大学院医学研究科の中島淳主任教授は警鐘を鳴らす。

 例えば「(ロック歌手の)エルビス・プレスリーは排便時の“いきみ”で血圧が上がり、亡くなったと報じられた」(中島主任教授)。また、糖尿病患者の約60%は便秘症を合併しているとの研究結果もあるという。高血圧や糖尿病自体の治療のあり方は度々論じられるが、便秘は無関心の人が多いと中島主任教授は懸念する。

 便秘症治療薬の選択や服用にも注意が必要だ。中島主任教授によると刺激性下剤は快便が得られない上、依存性や耐性などの問題もある。中学1年生から刺激性下剤を服用してきた患者の例では「私のところに来た29歳時点で、1回60錠を飲むこともあった。こういう方はザラにいる」(同)。この患者は31歳のとき、大腸の蠕(ぜん)動が極端に低下する結腸無力症のため、大腸全摘手術を行った。

 昨今は大腸に流入する胆汁酸の量を増加させ、水分分泌と大腸運動促進によって自然な排便を促す新薬が登場した。だが、医師が適切な診断や投薬をできるかという問題は常につきまとう。

専門医は語る「便秘薬が続く人は3割」


横浜市立大学大学院医学研究科肝胆膵消化器病学教室主任教授 中島淳氏

 便秘は寿命を縮めるが、医者も患者も便秘を病気だと思っていない。医師の診断力にも問題がある。我々が医学部のとき、授業で便秘を習ったことはない。分厚い内科の教科書でも便秘の項目は数行なのが現実だ。

 インターネット調査を行うと、医療機関で治療中の患者さんの便は、薬を飲んでいても大半が硬いか下痢。こんな質の悪い治療では患者さんは愛想を尽かす。血圧や糖尿病の薬を処方された人の約9割は次も来るが、便秘薬は3割程度の方しか続かない。紛れもなく満足度が悪い。治療のゴールは、ただ出すことではなく、バナナ状の便を出して満足度を上げることだ。

 胆汁酸の量を増やす新薬は、効きに応じて適宜増減が可能。臨床試験でも満足度が高いことが分かっており、既存薬とは違う使い方ができる。(談)

 
日刊工業新聞2018年8月30日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
医療関係者には治療の質の向上に向けた、総合的な取り組みが問われている。 (日刊工業新聞社・斎藤弘和)

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