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見える人も見えない人も、同じ文字を読める“ちょっといい未来”

地方自治体や企業での利用目指す
見える人も見えない人も、同じ文字を読める“ちょっといい未来”

Braille Neueのデザインが配置された壁の前に立つ高橋鴻介さん(黒い点が点字)

 デザイナーの高橋鴻介さんは、点字と墨字を重ねて一体にしたユニバーサルな文字(写真)を広めるプロジェクト「Braille Neue(ブレイル・ノイエ)」を主宰している。目の見える人も見えない人も、同じ文字を読める。隣にいても少し遠い存在だった見える人と見えない人が、近づけそうだ。

どうして自分は読めないんだろう?


 「点字の原形は、目の見える人向けだったんですよ」と、高橋さんは意外な歴史を語る。約200年前にナポレオン軍で夜間に命令を伝えるために考案された。その後、墨字と点字は別々に使われ、今では見える人と見えない人は互いが読んでいるものがわからない。「それが一つになるってよくないですか?」と、高橋さんはうれしそうに話す。

 開発のきっかけは、同世代の視覚障害を持つ友人がとても速く点字を読んでいて、驚いたことだった。同時に2行を読める子どももいる。「どうして自分は読めないんだろう、読みたいと思った。最初は社会課題の解決は狙っていなかった」(同)という。この文字なら、読みながら点字の勉強もできる。

 最初はアルファベットのデザインから始めた。既定の点字の点の上に墨字の線を重ねて、形を決める。点字対応の商品をアピールしたいメーカーが採用しやすいように、かっこよさにもこだわった。2017年9月から始めて、10月の終わりには英語版が完成した。

 同年12月に神戸市中央区の眼科専門施設「神戸アイセンター」で開かれたイベントでロゴとして使ってもらったところ、「日本語版もほしい」とリクエストがあった。カタカナはアルファベットと同じように点の上に線を重ねるのではうまくいかず、中心を白抜きした文字にして外枠の線を点に重ねた。

 この文字は、「ツイッター」で公開したほか、パナソニックの起業家支援施設「100BANCH」(東京都渋谷区)の手すりなどに付けて実証実験をしている。Braille Neueは、次の100年を目指す100BANCHのプロジェクトに選ばれている。

カタカナ版(上)と白抜きのアルファベット版

東京五輪で世界へ


 目の見える人がこの文字で点字をわかると、いいことがいくつもある。どこに点字があるかわかるため、目の見えない人に点字の場所を教えられる。点の一部が取れたり、逆向きに貼られたりしていると、墨字も変わるため間違いに気づく。例えば、目の見えない人がエレベーターで21階のボタンを押したつもりでも、それは1個の点が取れた23階のボタンかもしれない。こういった問題を防げる。

 目の見える親と目の見えない子どもが親子一緒に同じ絵本を読んだり、レストランで同じメニューを見て選んだりもできる。神戸アイセンターのイベントでは、見える人も見えない人も同じ文字の書かれたカードを使い、「どうやって点字を読んでいるの?」と話が始まるきっかけになった。

 また、点字を知ること自体がおもしろい体験になる。「ア」と「A」、「1」は、同じ『左上に点1個』という点字。アルファベットの文章の時は最初に外国語を表す外字符という点字が付き、数字の時は数符が付くため、読み分けられる。「情報」を点字で書くと、「ジョウホウ」ではなく、「ジョーホー」とされる。音に合わせた表記の方が読むスピードを上げられるという。

 今後、多様な人たちがともに暮らし、働く「インクルージョン(包摂)」や「ダイバーシティー(多様性)」を目指す地方自治体や企業などに、この文字を利用してもらうことを目指す。オリンピックは、文化や発明を世界へ発信する重要なステージだ。1964年の東京五輪では、トイレや非常口マークなどをシンプルなデザインの絵で記号化した「ピクトグラム」が世界に発信された。「2020年の東京五輪・パラリンピックの時に、この文字が文化や発明の一つとして広がればうれしい」(高橋さん)と期待する。
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梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
高橋さんは、現在勤める会社の研修がきっかけで、1日に1個のアイデアを出す活動を始めた。Braille neueも、そうして生まれたアイデアの一つ。「いろんなアイデアを世の中に出していきたい」と“発明家”として活動を続けていく。

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