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産学連携のオープンイノベーション、カギは病院?

ユーザーを巻き込みながら実証環境で技術開発
 産学連携やオープンイノベーションは連携の枠組みが拡大している。従来は大学や国立研究開発法人などの公的研究機関と民間企業の連携が中心だった。近年この産学連携に公的な事業機関が加わった。公共工事やインフラを支える国土交通省の地方整備局、厚生労働省が管轄する病院などが現場を提供する。ユーザーを巻き込みながら開発した技術を商品として売れるレベルにたたき上げる。

 技術開発の早い段階から現場でマーケティングを並行して進め、社会実装の確度を上げる。同時に次のイノベーションのタネをまく狙いがある。この民間企業と公的研究機関、公的事業機関の3者連携について、民間企業にアンケートした。

 

 まず公的研究機関に期待するリソースを尋ねると、回答企業の91・4%が「技術」を挙げた。対して公的事業機関に「技術」を求めたのは24・2%と大きく差が開いた。「人材」に対しても研究機関へは58・4%で、事業機関へは24・2%と2倍以上にのぼった。「技術実証環境」に対しては研究機関は28・5%で、事業機関へは62・6%と逆転した。

 技術や人材、計算資源などは研究機関に求め、技術実証環境や橋渡し機能、暗黙知、課題は事業機関に求める企業が多い。公的機関の役割分担は明確に認知されている。

 一方で公的事業機関へ技術や人材を期待する企業は、「データ」を求める企業よりも少なかった。公的事業機関に「課題」を求めた企業も、データよりも少なかった。3者連携や社会実装に向けてユーザー側の技術への洞察や優れた人材が不可欠になっている。実証環境を提供するだけでなく口も出す必要がある。3者連携は始まったばかりだが、公的事業機関のプレゼンスを高める必要がある。

 

 3者連携の課題や展望を自由記述式で聞いたところ、スピードが課題として多く挙げられた。「海外に負けない開発スケジュールの共通認識」(ADEKA)「公共機関のもつ具体的な課題に対する解決策をクイックに検証できる環境や柔軟な規制緩和・予算」(富士ゼロックス)「複数省庁が関わる場合に、擦りあわせよりもスピード感、リーダシップを重視してほしい」(横浜ゴム)。

 同時に公共がもつデータや、業界をまとめたデータ整備への公的機関のリーダーシップについて求める意見も多かった。「公的機関が中心となり、データや機能などを共有して活用できるような体制作り」(味の素)「インフラ整備を伴う社会課題に対し、社会的価値の評価手法の確立および評価データの整備」(デンソー)。開発加速とデータ整備の両面で公的機関の連携が望まれる。

 改めて公共部門が強化すべきポイントを聞くと、回答企業の61・3%が「実証環境」を選んだ。これは30・2%だった「研究体制」の2倍にあたる。2番目は「実証予算」が57・5%で、「規制緩和」が54・7%と続いた。前の問いでは技術や人材、実証環境への期待が大きかったが、具体的に強化すべき要素は社会実証関連の環境整備と予算、規制緩和だった。

 そして民間にできる推進策を自由記述式で聞くと回答企業87社中55社が産学連携やオープンイノベーションの強化を挙げた。具体策としては「設備やデータなど保有するリソースの提供」(中国電力)「公的研究機関の人材を一定期間企業へ受け入れ、研究に対する経営的発想を組み込む。民間が期待するフィードバックを明確化する」(住友大阪セメント)「課題提供、サプライチェーン連携」(日産自動車)「産学コンソーシアムへの積極参加、サプライヤーなど関連企業の参加働きかけ」(日野自動車)など、企業の抱える実証環境やデータの提供、関連会社を巻き込んで産学連携にあたることが挙げられた。

 自社での推進策を自由記述式で問うと、回答企業158社中141社が産学連携やオープンイノベーションの強化・推進を挙げた。連携自体は広く推進されている。そして柔軟な連携を担保するために、社内の組織体制に手を入れる企業が目立つ。「スピーディーな課題解決を図るためのタスクフォースの設置」(JR東日本)「各連携に応じたチームの組成」(東芝)「連携への経営層のコミット、継続的な連携取り組みによる風土の醸成」(東レ)。さらに「IoT、AI専門の人材配置」(三井化学)など、新分野の人材強化や環境整備など進める企業もあった。

 公的研究機関と民間企業の産学連携は広く定着し、人材交流やニーズとシーズの交換などさらなる深化が進む。一方、公的事業機関への具体策はなかった。「実証環境」へのニーズは大きいが、連携の推進方法はまだ模索中であることがうかがえる。公的事業機関への橋渡し窓口を設けたり、産学コンソーシアムに公的事業機関を組み込むなど、すでに機能している枠組みから連携を立ち上げていく必要があるだろう。

 

【R&Dアンケート 協力企業(順不同)】
日立製作所、東芝、三菱電機、富士電機、明電舎、安川電機、シンフォニアテクノロジー、NEC、富士通、日本ユニシス、OKI、日本無線、岩崎通信機、パナソニック、ソニー、JVCケンウッド、TDK、シャープ、パイオニア、アルプス電気、太陽誘電、ルネサスエレクトロニクス、京セラ、村田製作所、ローム、日本電産、ジャパンディスプレイ、任天堂、オムロン、横河電機、島津製作所、アドバンテスト、堀場製作所、アズビル、東京エレクトロン、日本電子、キヤノンメディカルシステムズ、ディスコ、シスメックス、テルモ、日立ハイテクノロジーズ、アルバック、富士フイルムHD、キヤノン、コニカミノルタ、リコー、カシオ計算機、ニコン、シチズン時計、オリンパス、富士ゼロックス、フクダ電子、セイコーエプソン、セイコーインスツル、ヤマハ、グローリー、日本光電、三菱重工業、川崎重工業、IHI、日立造船、三井E&SHD、住友重機械工業、荏原、クボタ、コマツ、日立建機、コベルコ建機、豊田自動織機、日本車両製造、月島機械、日揮、東洋エンジニアリング、千代田化工建設、ダイキン工業、アマダHD、東芝機械、DMG森精機、オークマ、日本精工、NTN、ジェイテクト、不二越、ブラザー工業、JUKI、THK、ダイヘン、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、三菱自動車、三菱ふそうトラック・バス、マツダ、SUBARU、スズキ、ダイハツ工業、日野自動車、デンソー、トピー工業、ニッパツ、曙ブレーキ工業、アイシン精機、トヨタ紡織、豊田合成、日本特殊陶業、ヨロズ、ブリヂストン、横浜ゴム、住友ゴム工業、東洋ゴム工業、NTT、NTTドコモ、NTTデータ、KDDI、ソフトバンクグループ、大日本印刷、凸版印刷、清水建設、鹿島、大成建設、大林組、竹中工務店、前田建設工業、西松建設、戸田建設、五洋建設、大和ハウス工業、ミサワホーム、積水ハウス、AGC、太平洋セメント、住友大阪セメント、TOTO、LIXIL、YKK、三協立山、不二サッシ、日本ガイシ、三和シヤッター工業、文化シヤッター、新日鉄住金、JFEHD、神戸製鋼所、日新製鋼、住友金属鉱山、三井金属、日本軽金属HD、日立金属、大同特殊鋼、愛知製鋼、東洋製缶グループHD、リョービ、住友電気工業、古河電気工業、フジクラ、昭和電線HD、三菱ケミカルHD、旭化成、三井化学、昭和電工、DIC、東ソー、サカタインクス、JSR、日本ゼオン、クレハ、信越化学工業、関西ペイント、日本ペイントHD、トクヤマ、デンカ、住友化学、宇部興産、大陽日酸、エア・ウォーター、積水化学工業、日立化成、東京応化工業、三洋化成工業、ADEKA、日本触媒、岩谷産業、武田薬品工業、第一三共、アステラス製薬、エーザイ、塩野義製薬、大正製薬、中外製薬、田辺三菱製薬、大日本住友製薬、日本化薬、協和発酵キリン、MeijiSeikaファルマ、大塚HD、杏林製薬、参天製薬、小林製薬、花王、ライオン、資生堂、タカラバイオ、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング、ラクオリア創薬、アンジェスMG、小野薬品工業、東和薬品、コーセー、東レ、クラレ、日清紡HD、帝人、東洋紡、ユニチカ、王子HD、日本製紙、三菱製紙、キリン、アサヒグループHD、サッポロHD、サントリーHD、味の素、日清製粉グループ本社、日本ハム、JT、JXTGエネルギー、コスモエネルギーHD、出光興産、北海道電力、東北電力、東京電力HD、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、Jパワー、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州(HDはホールディングス)
日刊工業新聞2018年8月7日から抜粋
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
サプライヤーなどビジネスパートナーを巻き込んでオープンイノベーションに取り組み企業が目立つようになりました。いいシーズを見つけて事業化を進めると、協力会社の力が必要になる場面が必ず出てきます。成功体験が増えるほど、初めから協力会社と一緒にオープンイノベーションに取り組みたいと思います。こうした企業はオープンイノベーションが軌道にのっているといえると思います。一方、公的事業機関を含めた3者連携は立ち上がったばかりです。アンケートでは公的事業機関への期待は高いものの、具体策は乏しい結果になりました。高速道路会社など、現場を提供して技術開発を促してきた企業の知見を公的事業機関に渡してうまく連携が進めばと思います。

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