企業の基礎研究、大学依存度高まる。拭えない懸念
共著論文67%に
日本企業が基礎研究で大学への依存度を高めている。文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の調査で、日本企業の科学論文数全体が減少する中で、大学などとの共著論文が3分の2を占めることがわかった。共著論文の割合は1982年には22%だったが2015年は67%まで上昇している。産業界は研究開発を応用側にシフトさせ、基礎研究は大学との産学連携に委ねる格好だ。大学の研究力が低下すると、産業競争力に直接的な影響が出る構図が見える。
NISTEPの定点調査「科学技術指標」で判明した。81―16年に企業研究者が著者として名を連ねる論文を集計した。論文数の3年移動平均を求めると、企業論文全体は97年の1万943件をピークに15年には7901件まで低下した。このうち大学や大学共同利用機関、高等専門学校との産学連携の共著論文は07年の5834件をピークに漸減しているが、15年は5278件を維持。対して産学連携でない論文は96年の6300件をピークとして15年は2623件と、ピーク時の4割に減少している。
企業論文全体が減る中で、企業単独の論文から産学連携の共著論文にシフトしている。NISTEPの伊神正貫科学技術・学術基盤調査研究室長は「企業が製品開発など短期的な開発に研究投資の重心を移し、中長期的な研究は大学との連携を活用しているのではないか」と指摘する。
企業論文が減る大きな要因としては、企業研究の応用シフトと研究成果の秘匿化の二つが挙げられる。NISTEP調査では96年からの約20年間は研究開発費総額は増加傾向にあり、国内外への特許出願数は横ばい傾向にある。投資総額は増えているため基礎研究の規模は維持され、成果を公表しない研究が増えた可能性もある。
だが産業界ではオープンイノベーションが浸透している。企業と大学の1対1の共同研究だけでなく、多対多の産学連携が進んでいる。内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の橋本和仁議員(物質・材料研究機構理事長)は「基礎研究などは、企業単独で進めるよりも大学や国研を中心に業界で連携した方が効率が良い」と強調する。
NISTEP調査でも特許の出願数が維持されており、基礎研究のみで秘匿化が進んだとは言いがたい。企業研究の応用シフトが進んで基礎研究での産学連携への依存度が高まると、大学の研究力低下が企業の基礎研究力低下につながる可能性も高まる。
(文=小寺貴之)
NISTEPの定点調査「科学技術指標」で判明した。81―16年に企業研究者が著者として名を連ねる論文を集計した。論文数の3年移動平均を求めると、企業論文全体は97年の1万943件をピークに15年には7901件まで低下した。このうち大学や大学共同利用機関、高等専門学校との産学連携の共著論文は07年の5834件をピークに漸減しているが、15年は5278件を維持。対して産学連携でない論文は96年の6300件をピークとして15年は2623件と、ピーク時の4割に減少している。
企業論文全体が減る中で、企業単独の論文から産学連携の共著論文にシフトしている。NISTEPの伊神正貫科学技術・学術基盤調査研究室長は「企業が製品開発など短期的な開発に研究投資の重心を移し、中長期的な研究は大学との連携を活用しているのではないか」と指摘する。
企業論文が減る大きな要因としては、企業研究の応用シフトと研究成果の秘匿化の二つが挙げられる。NISTEP調査では96年からの約20年間は研究開発費総額は増加傾向にあり、国内外への特許出願数は横ばい傾向にある。投資総額は増えているため基礎研究の規模は維持され、成果を公表しない研究が増えた可能性もある。
だが産業界ではオープンイノベーションが浸透している。企業と大学の1対1の共同研究だけでなく、多対多の産学連携が進んでいる。内閣府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の橋本和仁議員(物質・材料研究機構理事長)は「基礎研究などは、企業単独で進めるよりも大学や国研を中心に業界で連携した方が効率が良い」と強調する。
NISTEP調査でも特許の出願数が維持されており、基礎研究のみで秘匿化が進んだとは言いがたい。企業研究の応用シフトが進んで基礎研究での産学連携への依存度が高まると、大学の研究力低下が企業の基礎研究力低下につながる可能性も高まる。
(文=小寺貴之)
日刊工業新聞2018年8月23日