MLCCが深刻な品不足。中国勢と競争激化の引き金にも
車・スマホ・IoT向け需要増
産業界で積層セラミックコンデンサー(MLCC)の品不足が止まらない。自動車の電装化やスマートフォンの高機能化、IoT(モノのインターネット)の普及に伴い、汎用性の高い電子部品として需要が急拡大している。MLCCを手がける電子部品各社は増産投資に動くが、それでも対応が追いつかず、顧客に価格是正を求める状況だ。さらに品不足が引き金となり、中国勢との競争も激化する恐れが増している。
「MLCCが来ないから、製品が完成しない」―。自動車部品メーカーの幹部はMLCCの供給不足にしびれを切らす。
MLCCは電流などを整える代表的な電子部品。電源供給を安定化するほか、ノイズを除去できるなど汎用性が高く、ほぼ全ての電子回路に搭載される。特に車向けの需給は逼迫(ひっぱく)しており、独ボッシュや同コンチネンタルなどのメーカーは、各社に急ぎ発注している。米ゴールドマン・サックスの調べによると、2017年度の車向けMLCC市場は1800億円程度だが、年率成長率は23%と大幅に伸びており、20年度以降には約4000億円規模に成長する見通し。ゴールドマン・サックス証券の高山大樹アナリストは、「車向け市場が現状のスマホ市場を抜く可能性が高い」と分析する。
すでに電気自動車(EV)へのMLCC搭載数はスマホと比べて最大6倍の6000個の見込み。電子制御ユニット(ECU)や車載機器でも必須部品であり、電動化や電装化が進む自動車への搭載数が急増している。また、これまでMLCCの搭載数を伸ばしてきたスマホ市場からの需要も衰えていない。楽天証券(東京都世田谷区)の今中能夫アナリストは、「スマホ販売台数は鈍化しているものの、スマホの高機能・高性能化に伴い、1台当たりのMLCCの搭載数は逆に伸びている」と指摘する。
さらに半導体などとセットで搭載されるため、データセンター向けでも需要が底堅く、第5世代通信(5G)や自動運転に関連した需要を吸収するとみられる。このため、現在のようなMLCCの品不足が続けば、こうした技術革新の勢いを鈍らせかねない。
こうした中、各社は需要に対応すべく軒並み増産に動く。村田製作所や太陽誘電は新工場を建設しており、TDKは生産ラインを増設するなど、各社は生産能力を10%以上増強する。だが、それでも足りない。太陽誘電の増山津二取締役専務執行役員は、「(需要は)18年度以降も続く」とさらなる対応を迫られている。
一方で、製造設備に必要な部品や製造に携わる人材の不足もあり、さらなる設備増強にはなかなか踏み込めない。各社は製造設備の多くを内製化している。そのため、独自に選定する部品や材料が足りなければ、設備を完成させることができない。また、極小部品であるMLCCを大量に生産するには、設備のわずかな微調整などノウハウも重要だ。そのため増産投資を行ったとしても、知見や生産技術を持つ人材がどうしても必要だ。太陽誘電の登坂正一社長は、「新工場を建設しても、人材の確保や育成が課題だ」と懸念する。
苦肉の策として、各社はMLCCの値上げを検討している。これまでもMLCCが品不足に陥った際は、世界の“駆け込み寺”として村田製作所が供給してきた。ただ、急な需要にも耐えうる同社の供給力を持ってしても今回ばかりは難しく、「MLCCの値上げを取引先にお願いしている状況」(竹村善人取締役)と話す。太陽誘電やTDKもひとまず価格下落幅の縮小から交渉する考えだ。
中でも、スマホメーカーとの値上げ交渉は難航が予想される。例えば車載向けは、小型化MLCCの提案を進めることで、生産量を増やすことは可能だ。MLCCは積層した誘電体を切断し、製造するため、切断の体積を小さくすれば大量に供給できる。これに対し、スマホ向けはすでに限界まで小型化しており、付加価値の創出が難しい。そのため「スマホ向けはもうもうからない」「車市場の安定性が魅力的だ」と業界関係者からスマホ向けを忌避する声が支配的だ。スマホ販売台数の頭打ちも重なり、電子部品各社の間では受注の“譲り合い”が起きているという。特に中国メーカーが手がける中級機種向けは売価下落が著しく、利益が少ない。
ただ、こうした流れは中国内でMLCC産業の国策化を一層促すという副次効果をもたらしている。中国は国策「中国製造2025」の下、半導体などスマホの主要な電子部品を国内企業が生産しており、水面下ではMLCCの振興も進みだした。液晶パネルや電子部品の製造設備を手がける淀川ヒューテック(大阪府吹田市)。中国政府が液晶パネルの国産化を目指す国策の恩恵を受け、現在は液晶パネルの製造装置をフル生産している。
一方、受注面では中国企業からMLCC関連の装置が急増。19年度のMLCC製造装置の売上高は、18年度比倍増の30億―40億円となる見通しだ。小川克巳社長は、「MLCC製造装置は15年ほど前から手がけているが、ここに来て引き合いが急激に増えた。日本企業が車載向けにシフトする中、中国企業がスマホ向けを取り込むのでは」とみる。
現状、台湾や中国などの電子部品メーカーはMLCCを小型・薄型化する技術や高い品質を確立できていない。そのため、現段階では日本勢が優位だ。しかし、MLCCなど電子部品の重要性が増す中、国の支援を受け中国勢が猛追している。顧客側もこのまま品不足が続けば、スマホメーカーだけでなく自動車部品メーカーも中国勢に発注する可能性がある。日本の電子部品各社はこれまで通り、猛追を振り切れるのか。空前のMLCC不足の今だからこそ商機を捉えるだけでなく、競争力の維持・向上が必要だ。(文=渡辺光太、京都・日下宗大、大阪・平岡乾)
高い汎用性・技術革新に必須
「MLCCが来ないから、製品が完成しない」―。自動車部品メーカーの幹部はMLCCの供給不足にしびれを切らす。
MLCCは電流などを整える代表的な電子部品。電源供給を安定化するほか、ノイズを除去できるなど汎用性が高く、ほぼ全ての電子回路に搭載される。特に車向けの需給は逼迫(ひっぱく)しており、独ボッシュや同コンチネンタルなどのメーカーは、各社に急ぎ発注している。米ゴールドマン・サックスの調べによると、2017年度の車向けMLCC市場は1800億円程度だが、年率成長率は23%と大幅に伸びており、20年度以降には約4000億円規模に成長する見通し。ゴールドマン・サックス証券の高山大樹アナリストは、「車向け市場が現状のスマホ市場を抜く可能性が高い」と分析する。
すでに電気自動車(EV)へのMLCC搭載数はスマホと比べて最大6倍の6000個の見込み。電子制御ユニット(ECU)や車載機器でも必須部品であり、電動化や電装化が進む自動車への搭載数が急増している。また、これまでMLCCの搭載数を伸ばしてきたスマホ市場からの需要も衰えていない。楽天証券(東京都世田谷区)の今中能夫アナリストは、「スマホ販売台数は鈍化しているものの、スマホの高機能・高性能化に伴い、1台当たりのMLCCの搭載数は逆に伸びている」と指摘する。
さらに半導体などとセットで搭載されるため、データセンター向けでも需要が底堅く、第5世代通信(5G)や自動運転に関連した需要を吸収するとみられる。このため、現在のようなMLCCの品不足が続けば、こうした技術革新の勢いを鈍らせかねない。
国内各社、値上げ検討・受注“譲り合い”も
こうした中、各社は需要に対応すべく軒並み増産に動く。村田製作所や太陽誘電は新工場を建設しており、TDKは生産ラインを増設するなど、各社は生産能力を10%以上増強する。だが、それでも足りない。太陽誘電の増山津二取締役専務執行役員は、「(需要は)18年度以降も続く」とさらなる対応を迫られている。
一方で、製造設備に必要な部品や製造に携わる人材の不足もあり、さらなる設備増強にはなかなか踏み込めない。各社は製造設備の多くを内製化している。そのため、独自に選定する部品や材料が足りなければ、設備を完成させることができない。また、極小部品であるMLCCを大量に生産するには、設備のわずかな微調整などノウハウも重要だ。そのため増産投資を行ったとしても、知見や生産技術を持つ人材がどうしても必要だ。太陽誘電の登坂正一社長は、「新工場を建設しても、人材の確保や育成が課題だ」と懸念する。
苦肉の策として、各社はMLCCの値上げを検討している。これまでもMLCCが品不足に陥った際は、世界の“駆け込み寺”として村田製作所が供給してきた。ただ、急な需要にも耐えうる同社の供給力を持ってしても今回ばかりは難しく、「MLCCの値上げを取引先にお願いしている状況」(竹村善人取締役)と話す。太陽誘電やTDKもひとまず価格下落幅の縮小から交渉する考えだ。
中でも、スマホメーカーとの値上げ交渉は難航が予想される。例えば車載向けは、小型化MLCCの提案を進めることで、生産量を増やすことは可能だ。MLCCは積層した誘電体を切断し、製造するため、切断の体積を小さくすれば大量に供給できる。これに対し、スマホ向けはすでに限界まで小型化しており、付加価値の創出が難しい。そのため「スマホ向けはもうもうからない」「車市場の安定性が魅力的だ」と業界関係者からスマホ向けを忌避する声が支配的だ。スマホ販売台数の頭打ちも重なり、電子部品各社の間では受注の“譲り合い”が起きているという。特に中国メーカーが手がける中級機種向けは売価下落が著しく、利益が少ない。
中国勢が猛追、日本勢の品薄で好機
ただ、こうした流れは中国内でMLCC産業の国策化を一層促すという副次効果をもたらしている。中国は国策「中国製造2025」の下、半導体などスマホの主要な電子部品を国内企業が生産しており、水面下ではMLCCの振興も進みだした。液晶パネルや電子部品の製造設備を手がける淀川ヒューテック(大阪府吹田市)。中国政府が液晶パネルの国産化を目指す国策の恩恵を受け、現在は液晶パネルの製造装置をフル生産している。
一方、受注面では中国企業からMLCC関連の装置が急増。19年度のMLCC製造装置の売上高は、18年度比倍増の30億―40億円となる見通しだ。小川克巳社長は、「MLCC製造装置は15年ほど前から手がけているが、ここに来て引き合いが急激に増えた。日本企業が車載向けにシフトする中、中国企業がスマホ向けを取り込むのでは」とみる。
現状、台湾や中国などの電子部品メーカーはMLCCを小型・薄型化する技術や高い品質を確立できていない。そのため、現段階では日本勢が優位だ。しかし、MLCCなど電子部品の重要性が増す中、国の支援を受け中国勢が猛追している。顧客側もこのまま品不足が続けば、スマホメーカーだけでなく自動車部品メーカーも中国勢に発注する可能性がある。日本の電子部品各社はこれまで通り、猛追を振り切れるのか。空前のMLCC不足の今だからこそ商機を捉えるだけでなく、競争力の維持・向上が必要だ。(文=渡辺光太、京都・日下宗大、大阪・平岡乾)
日刊工業新聞2018年8月21日