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「アイフォーン6」の増産要請に唯一応えた村田製作所の作れる力

基幹部品「MLCC」のマザー工場はブラックボックスの塊
「アイフォーン6」の増産要請に唯一応えた村田製作所の作れる力

うぐいす色の設備は自社開発(福井村田製作所)

 スマートフォンに何百個と搭載される積層セラミックコンデンサー(MLCC)。そのマザー工場である福井村田製作所(福井県越前市)には、うぐいす色をした設備がずらりと並ぶ。この色は自社開発の設備を意味するという。「源流から手がけることが、他社にまねされないブラックボックスとなる」と常務執行役員生産本部長の小島祐一は断言する。材料から工法、設備に至る製造プロセスの大半を自前で作り出す。

 村田製作所のMLCCは業界トップで、世界シェアは約35%。徹底的に技術を内製化して競争力を高め、韓国メーカーの追い上げも突き放した。製造装置メーカーにノウハウが移った結果、韓国勢や台湾勢の投資攻勢にすっかり影が薄くなってしまったわが国の半導体産業とはあまりに対照的だ。

 調合した材料をシート状に加工し、電極を形成して多層に積み重ねる。それらをプレスして焼き上げる。一見するとシンプルなプロセスだが、中身はアナログそのもの。およそ3日間におよぶ焼成工程では「焼き加減一つで特性がころっと変わってしまう。何十年続けていても新しい発見がある」(小島)という、究極のすりあわせ技術だ。

 ただブラックボックス化だけで競争力につながるわけではない。「弱いブラックボックスは意味がない。自社技術へのこだわりは、もろ刃の剣にもなる」(同)からだ。

 【増産に応える】
 韓国サムスン電子傘下のサムスン電機(セムコ)が日本勢を追い上げ、業界2位に躍り出た数年前。半導体業界と同じ敗北のシナリオが繰り返されるかに見えた瞬間があった。同社もセムコが使用する市販の設備を手に入れ、導入を検討してみたという。しかし同社製品の特性と品質を実現するには、使い物にならなかった。「自社設備の実力を測ることはできた」と小島は振り返る。

 昨秋、米アップルが発売したスマホ「iPhone(アイフォーン)6」は予想を超える販売を記録した。その舞台裏ではMLCCの供給不足が懸念されたが、増産要請に応えられたのは村田だけだったようだ。同社の2015年3月期のコンデンサー売上高は前期比20%以上の伸びを記録したが、TDKや太陽誘電は1ケタ成長。セムコの業績は親会社のスマホ不振もあって低迷した。

 中国スマホメーカーの台頭も著しいが、部品メーカーへの要求水準はアップルと同様に高い。高性能な部品を安定して大量に供給し続ける村田の強みが、業界の中でも際立っている。
 (敬称略)
 
 ※日刊工業新聞では現在「モノづくり革新・新たな挑戦」を連載中
日刊工業新聞2015年07月15日1面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
MLCCで村田のシェアは約35%。「0402」など最先端品ではさらシェアは高く、業界を圧倒的にリードしている。次世代となるの「0201」の普及はまだ先だが、実装機メーカーやハンダメーカーとも協業し、既存のMLCCと同水準の実装性を確立している。競合も出始めているが、静電容量や信頼性、歩留まりなどでリードできるだろう。

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