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「実現すれば、鋼板類もリーマン・ショック並みの出荷量に落ち込むだろう」

全国コイルセンター工業組合理事長、米国の輸入車関税引き上げに懸念
「実現すれば、鋼板類もリーマン・ショック並みの出荷量に落ち込むだろう」

全国コイルセンター工業組合理事長・鈴木貴士氏

 国内では人口減少で人手不足が深刻化する一方で、“米中貿易戦争”など米政権の通商政策を巡るリスクも顕在化しており、鉄・非鉄流通業界も環境変化にさらされている。同業界が抱える課題や取り組み、市場動向などについて業界団体トップに聞く。1回目は全国コイルセンター工業組合(東京都中央区)の鈴木貴士理事長。

 ―人手不足が深刻です。

 「残業は顧客ニーズに対応するためで、正直、長時間労働の是正を目的とした働き方改革は、我々にとって苦しい内容だ。ただ社会のニーズでもあり、採用にも関わる。しっかり対応していく必要がある。人件費も上がり増員は難しい。最善の対応策は、生産性向上で効率化を図ることだろう」

 ―取り組みは始めていますか。

 「IoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)、ソフトウエアロボットによる業務自動化(RPA)に解決策がありそうだ。組合が各種研修を企画している。9月にはセミナーでRPAを紹介することにした。若手・中堅、中間管理者を対象にしたセミナーも継続して開催する。スキルアップを図り、効率経営を目指す必要がある。組合メンバーは中小企業が多いが、この業界だけが旧態依然として、取り残されてはならない」

 ―外国人材の活用は増えるのでしょうか。

 「人手不足なので高度人材の受け入れは必要だ。しかし、制度が緩和され続ければ移民問題に発展する。必ずしも求められる人材が受け入れられるとは限らない。慎重に進めていく必要がある」

 ―物流費が上昇し、鉄鋼メーカー値上げの転嫁も遅れています。

 「運賃などを加工賃に含めた状態でユーザーが請求してくるケースが多い。この慣習を是正する必要がある。2017年11月、政府は荷待ち時間、積み込み、付帯業務を、運送業務と明確に区別した。鉄鋼メーカーの仕入れ値を着実に転嫁した上で、運賃以外として別に対価を受け取ることが必要だ。現在、会員メンバー各社が、運送業者やユーザーに物流費や対応の見直しを求めている。受け入れられるケースも出てきた」

 ―需要は回復するのでしょうか。

 「国内自動車生産は当初の計画を上回っており、下期以降も堅調を見込む。建設機械は国内、輸出とも堅調で、産業機械も半導体、物流向けがよい。建築もほどほど出てきている。これに東京五輪・パラリンピック関連の需要が上乗せする。18年度のコイルセンター出荷量見通しは、前年度比約1%増の約1650―1660万トン。微増だが、3期連続で1600万トンを上回る予想だ。ただ、海外に懸念材料があるため慎重にみている」

 ―懸念とは米国の輸入車関税引き上げでしょうか。

「実現すれば、国内生産台数が減少するだけでなく、関連部品メーカーにも影響が飛び火する。鋼板類もリーマン・ショック並みの出荷量に落ち込むだろう。業界としては大打撃だ」
(聞き手=山下哲二)
日刊工業新聞2018年8月9日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
少子高齢化で国内需要が頭打ち状態のなか、鉄鋼流通業界の収益が悪化し、「働き方改革」を重荷と受け止める経営者も少なくない。メーカーとユーザーとのはざまに置かれ、価格是正が遅れている鉄鋼流通業者にとっては「取引条件の改善」が、改革を進める上でも最優先の課題になっている。 (日刊工業新聞社・山下哲二)

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