温暖化対策以外にもメリットあり!工場でのバイオマス活用広がる
自家消費すればエネルギーを自給自足
製造業に木質バイオマス由来のエネルギーを活用する動きが広がりそうだ。昭和化学工業は11月から地域で余った森林資源を引き取り、熱を作る工程の燃料にする。新東海製紙(静岡県島田市)はバイオマス由来の熱と電気を生産で使い、エネルギーの自給自足に近づいた。現在、バイオマス利用は発電による売電が主流。売らずに自家消費すれば、温暖化対策以外にもメリットがあると企業が気づき始めた。
昭和化学工業岡山工場(岡山市真庭市)の1万4000平方メートルの敷地内では鉱山のような露天掘りをする。珪藻土(けいそうど)を採掘しているのだ。
珪藻土はプランクトンが水底に沈積した化石。岡山工場では掘り出した珪藻土を乾燥工程に投入して水分を抜き、次に焼成工程で純度を高め、水中の不純物を除去する濾過補助剤として製品化する。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実証事業として、木質バイオマスを燃料とする熱風炉の新設工事に着手した。11月に稼働後、乾燥の一部燃料を液化天然ガス(LNG)から木質バイオマスへと転換し、工場の熱需要の20%を再生可能エネルギー由来にする計画だ。
二酸化炭素(CO2)排出量が抑えられて環境対策となる。LNGの価格変動リスクへの備えにもなる。NEDOからの委託調査の結果、バイオマス燃料に代替しても事業性はあると判断された。
環境と経済性以外にも燃料転換を図る狙いもある。工場のある真庭市は林業や製材業が盛ん。製材所で余った端材を燃料にするバイオマス発電所が市内にあり、地域で切り出した森林資源を地元で再利用している。ただ、樹皮は水分を含むため燃えづらく、発電には向いていない。岡山工場はこの未利用の樹皮を集め、年4000トン燃料にする。
熱風炉が稼働すれば森林資源が余すことなく地域で消費される。岡山工場のLNG代が減れば、市外に出るお金も減り、市内に富が多くとどまる仕組みだ。4月に開いた熱風炉の着工式で昭和化学の石橋健藏社長は、「地域で余った樹皮は当社の資源として活用できる。地域の経済循環促進に向けて取り組む」と決意を語った。
さらに森の手入れのために切ったまま放置している林地残材を岡山工場で引き取る計画もある。残材を加工してバイオマス発電所に販売し、売れ残れば熱風炉の燃料にする。昭和化学が林地残材を回収すれば、さらなる林業活性化につながる。地域資源の活用で温暖化対策、燃料費抑制、地域貢献ができるモデルとして注目される。
バイオマス由来エネルギーの産業利用が進んでいるのが製紙業界だ。特種東海製紙子会社の新東海製紙・島田工場(静岡県島田市)は2017年度、木質バイオマスを主力とした自家発電で電気の88%を賄った。
島田工場の敷地46万平方メートルを分断するようにJR東海道線が横切り、西側は大井川が流れる。広い構内を自動車で進むと、煙突が伸びた建物に突き当たる。17年1月に運転を始めた12号ボイラだ。炉内で燃えた木質チップの高熱で大量発生させた蒸気を隣の建物へ送り、出力2万3040キロワットのタービン発電機で発電に使う。
他にも生産で排出した黒液や木くず、排水処理後の汚泥を燃料にするボイラもある。12号ボイラの稼働で17年度の電力自給率は88%となり、電力会社からの購入は12%に減った。製紙工程に必要な蒸気はボイラから供給しており、化石燃料の購入がほぼなくなった。
製紙会社では発電設備は珍しくない。新東海製紙が他社と違うのは、すべてが自家発電設備であること。12年7月に再生エネの固定価格買い取り制度(FIT)が始まると、他社は発電機を増設して電力会社への売電事業に乗り出した。新東海製紙も売電を検討したが、同社の木質チップ原料である建築廃材は売電価格が安い。採算を見込めず、自家発電用にボイラと発電機を増設した。
島田工場動力課の牧田陽介課長はこれにより「外部影響を受けにくくなった」と語る。電気代の上昇に加え石炭価格も高騰しており、製紙各社は利益を圧迫される。島田工場は電気・熱をほぼ自給自足でき、燃料費変動に慌てることがなくなった。
ただ効率的な運用には「運転者のスキルが必要」(牧田課長)だという。雨が続くと木質チップは水分を含んで燃えにくくなるため、廃プラスチックを固めた燃料(RPF)もボイラに投入する。RPFで熱量を補い、蒸気や電気の供給が減って操業に支障が出ないよう運用する。RPFはグループ会社が廃プラを収集して製造している。
島田工場の17年度のCO2排出量は前年度比半減、重油ボイラを使っていた08年度からだと7割減にもおよぶ。地道な省エネ活動も重要だが、いずれ削減効果は頭打ちになる。バイオマス発電の自家消費で大幅な削減を達成できた。
日本ではバイオマス発電所が急増している。政府の固定価格買取制度(FIT)が始まった12年7月から17年9月までに原子力発電1基分に相当する発電量である116万キロワットが稼働した。FITに申請した設備すべてが運転すれば、1274万キロワット分になる。
拡大で懸念されるのが燃料の問題だ。国内の森林だけでは供給が追いつかず、輸入が増える。海外依存が強まると化石燃料と同じように海外に国富が流出し、価格高騰リスクが高まる。
熱利用が進まないことも課題だ。発電所は売電で採算がとれるため、燃焼で発生した大量の熱は捨ててしまう。電気・熱の両方を使う熱電併給(コージェネレーション)が森林資源をもっとも有効活用でき、経済性、環境性とも優れる。しかし今は温浴など小規模施設への普及にとどまる。
自然エネルギー財団の相川高信上級研究員は「産業分野でもバイオマス由来の熱を利用できる工程は少なくない。うまく活用すれば化石燃料の価格変動リスクから解放される」と薦める。
日本では省エネ投資に比べ、バイオマス熱の利用への補助金が少ない。普及策があると「国内ボイラメーカーにもビジネスチャンスが広がる」(相川研究員)とも指摘する。
(文=松木喬)
昭和化学工業―熱風炉導入、LNG利用減
昭和化学工業岡山工場(岡山市真庭市)の1万4000平方メートルの敷地内では鉱山のような露天掘りをする。珪藻土(けいそうど)を採掘しているのだ。
珪藻土はプランクトンが水底に沈積した化石。岡山工場では掘り出した珪藻土を乾燥工程に投入して水分を抜き、次に焼成工程で純度を高め、水中の不純物を除去する濾過補助剤として製品化する。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実証事業として、木質バイオマスを燃料とする熱風炉の新設工事に着手した。11月に稼働後、乾燥の一部燃料を液化天然ガス(LNG)から木質バイオマスへと転換し、工場の熱需要の20%を再生可能エネルギー由来にする計画だ。
二酸化炭素(CO2)排出量が抑えられて環境対策となる。LNGの価格変動リスクへの備えにもなる。NEDOからの委託調査の結果、バイオマス燃料に代替しても事業性はあると判断された。
環境と経済性以外にも燃料転換を図る狙いもある。工場のある真庭市は林業や製材業が盛ん。製材所で余った端材を燃料にするバイオマス発電所が市内にあり、地域で切り出した森林資源を地元で再利用している。ただ、樹皮は水分を含むため燃えづらく、発電には向いていない。岡山工場はこの未利用の樹皮を集め、年4000トン燃料にする。
熱風炉が稼働すれば森林資源が余すことなく地域で消費される。岡山工場のLNG代が減れば、市外に出るお金も減り、市内に富が多くとどまる仕組みだ。4月に開いた熱風炉の着工式で昭和化学の石橋健藏社長は、「地域で余った樹皮は当社の資源として活用できる。地域の経済循環促進に向けて取り組む」と決意を語った。
さらに森の手入れのために切ったまま放置している林地残材を岡山工場で引き取る計画もある。残材を加工してバイオマス発電所に販売し、売れ残れば熱風炉の燃料にする。昭和化学が林地残材を回収すれば、さらなる林業活性化につながる。地域資源の活用で温暖化対策、燃料費抑制、地域貢献ができるモデルとして注目される。
新東海製紙―電気88%を自家発電
バイオマス由来エネルギーの産業利用が進んでいるのが製紙業界だ。特種東海製紙子会社の新東海製紙・島田工場(静岡県島田市)は2017年度、木質バイオマスを主力とした自家発電で電気の88%を賄った。
島田工場の敷地46万平方メートルを分断するようにJR東海道線が横切り、西側は大井川が流れる。広い構内を自動車で進むと、煙突が伸びた建物に突き当たる。17年1月に運転を始めた12号ボイラだ。炉内で燃えた木質チップの高熱で大量発生させた蒸気を隣の建物へ送り、出力2万3040キロワットのタービン発電機で発電に使う。
他にも生産で排出した黒液や木くず、排水処理後の汚泥を燃料にするボイラもある。12号ボイラの稼働で17年度の電力自給率は88%となり、電力会社からの購入は12%に減った。製紙工程に必要な蒸気はボイラから供給しており、化石燃料の購入がほぼなくなった。
製紙会社では発電設備は珍しくない。新東海製紙が他社と違うのは、すべてが自家発電設備であること。12年7月に再生エネの固定価格買い取り制度(FIT)が始まると、他社は発電機を増設して電力会社への売電事業に乗り出した。新東海製紙も売電を検討したが、同社の木質チップ原料である建築廃材は売電価格が安い。採算を見込めず、自家発電用にボイラと発電機を増設した。
島田工場動力課の牧田陽介課長はこれにより「外部影響を受けにくくなった」と語る。電気代の上昇に加え石炭価格も高騰しており、製紙各社は利益を圧迫される。島田工場は電気・熱をほぼ自給自足でき、燃料費変動に慌てることがなくなった。
ただ効率的な運用には「運転者のスキルが必要」(牧田課長)だという。雨が続くと木質チップは水分を含んで燃えにくくなるため、廃プラスチックを固めた燃料(RPF)もボイラに投入する。RPFで熱量を補い、蒸気や電気の供給が減って操業に支障が出ないよう運用する。RPFはグループ会社が廃プラを収集して製造している。
島田工場の17年度のCO2排出量は前年度比半減、重油ボイラを使っていた08年度からだと7割減にもおよぶ。地道な省エネ活動も重要だが、いずれ削減効果は頭打ちになる。バイオマス発電の自家消費で大幅な削減を達成できた。
日本の課題―補助金少なく普及鈍く
日本ではバイオマス発電所が急増している。政府の固定価格買取制度(FIT)が始まった12年7月から17年9月までに原子力発電1基分に相当する発電量である116万キロワットが稼働した。FITに申請した設備すべてが運転すれば、1274万キロワット分になる。
拡大で懸念されるのが燃料の問題だ。国内の森林だけでは供給が追いつかず、輸入が増える。海外依存が強まると化石燃料と同じように海外に国富が流出し、価格高騰リスクが高まる。
熱利用が進まないことも課題だ。発電所は売電で採算がとれるため、燃焼で発生した大量の熱は捨ててしまう。電気・熱の両方を使う熱電併給(コージェネレーション)が森林資源をもっとも有効活用でき、経済性、環境性とも優れる。しかし今は温浴など小規模施設への普及にとどまる。
自然エネルギー財団の相川高信上級研究員は「産業分野でもバイオマス由来の熱を利用できる工程は少なくない。うまく活用すれば化石燃料の価格変動リスクから解放される」と薦める。
日本では省エネ投資に比べ、バイオマス熱の利用への補助金が少ない。普及策があると「国内ボイラメーカーにもビジネスチャンスが広がる」(相川研究員)とも指摘する。
(文=松木喬)
日刊工業新聞2018年7月24日