“お笑い芸人”又吉直樹が芥川賞!文学者へ、栄光までの苦悩
「鬱陶(うっとう)しい年寄り批評家が多い分野はほとんどが衰退する。(『火花』より)
お笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さん(35)がの中編小説「火花」(「文学界」2月号)で、第153回芥川賞を受賞した。日刊工業新聞で毎週金曜日に好評連載中の「友さんのスケッチ」の4月3日付で、又吉さんを題材に取り上げている。
又吉直樹というお笑い芸人さんが小説『火花』(装画/西川美穂、装幀(そうてい)/大久保明子、文芸春秋刊)を書き、評判となっている。『文學界』という雑誌に発表されたとニュースで聞き、大いなる興味を持った。本屋さんに即行ってみると、すでに売り切れとなっていた。雑誌としては珍しく増刷と相(あい)なった。ましてや純文学誌の世界では史上初めてのことである。
そうなると単行本となるには時間はかからない。月が変わるとすぐさま店頭に並び、この出版不況、絶滅危惧種と言われる雑誌、単行本の救世主となろう勢いで、あっという間に35万部のベストセラーとなった。
お笑い芸人だからといって評価の妨(さまた)げになる訳でもないだろうが、紹介される時には、分かり易(やす)いとはいえ「お笑い芸人が小説を書いた」と必ず冠がついてくる。
山口洋子さんの場合も、直木賞に辿(たど)り着くまで色々(いろいろ)とご苦労があったらしい。それは、銀座のママ、ミリオンセラーの作詞家、プロ野球の評論家等々の派手な肩書の持ち主が小説を書ける訳がない、と頭から断定する癖(へき)が日本国民にはあるのだろうか。最初の頃、持ち込みで何人かの編集者に読んでもらったところ、そのような偏見を持った意見で指摘されたとご本人から聞いた憶(おぼ)えがある。勿論(もちろん)そのような人たちばかりではないことは今の山口洋子さんを見ればよく分かる。
藤本義一さんも直木賞を受賞されるのに時間がかかったのは、「11PM」という夜の大人向けセクシー番組で司会を長年されていたからと聞いたことがある。野坂昭如さんも同じく「色メガネのプレイボーイ」といった世間の評判に左右され、なかなか文学者として評価されなかったそうだ。宇能鴻一郎さん、川上宗薫さんはエロもの作家、阿佐田哲也さんはギャンブル(麻雀(マージャン)、競艇…)、大勢の方々がその道をまっとうされたからこそ、絶対なる文学での信頼を勝ち取られたということなのだろう。
伊集院静さんも女優さんを奥さんに持ちながら、世間で浮名を流し、無頼派とのお墨付きで小説家デビューをしたが、嫉妬混じりの嫌がらせが多くあったようだ。ご本人たちの名誉のために言っておくが、世間の風評どこ吹く風とそれぞれの先生方はマイペースで生き様(ざま)を世間に見せつけられている。伊集院さんも同じ道程を歩まれ、今や押しも押されもせぬ文学者として成功をおさめられている。
『火花』の文中に「『新しい方法論』が出てきたとき、それを『流行(はや)り』と断定したがる。『鬱陶(うっとう)しい年寄り批評家が多い分野はほとんどが衰退する。』」なる一文があるが、どの世界にも通じる名言と心得、我が身を戒(いまし)めている。
<文・イラスト=長友啓典(ながとも・けいすけ)>
1939年(昭14)大阪生まれ。ガン闘病記「死なない練習」(講談社)、「怒る犬」(共著、岩波書店)など絵筆とともにペンも握るアートディレクター>
山口洋子、藤本義一、野坂昭如、阿佐田哲也、伊集院静・・「肩書き」が変わる時
又吉直樹というお笑い芸人さんが小説『火花』(装画/西川美穂、装幀(そうてい)/大久保明子、文芸春秋刊)を書き、評判となっている。『文學界』という雑誌に発表されたとニュースで聞き、大いなる興味を持った。本屋さんに即行ってみると、すでに売り切れとなっていた。雑誌としては珍しく増刷と相(あい)なった。ましてや純文学誌の世界では史上初めてのことである。
そうなると単行本となるには時間はかからない。月が変わるとすぐさま店頭に並び、この出版不況、絶滅危惧種と言われる雑誌、単行本の救世主となろう勢いで、あっという間に35万部のベストセラーとなった。
お笑い芸人だからといって評価の妨(さまた)げになる訳でもないだろうが、紹介される時には、分かり易(やす)いとはいえ「お笑い芸人が小説を書いた」と必ず冠がついてくる。
山口洋子さんの場合も、直木賞に辿(たど)り着くまで色々(いろいろ)とご苦労があったらしい。それは、銀座のママ、ミリオンセラーの作詞家、プロ野球の評論家等々の派手な肩書の持ち主が小説を書ける訳がない、と頭から断定する癖(へき)が日本国民にはあるのだろうか。最初の頃、持ち込みで何人かの編集者に読んでもらったところ、そのような偏見を持った意見で指摘されたとご本人から聞いた憶(おぼ)えがある。勿論(もちろん)そのような人たちばかりではないことは今の山口洋子さんを見ればよく分かる。
藤本義一さんも直木賞を受賞されるのに時間がかかったのは、「11PM」という夜の大人向けセクシー番組で司会を長年されていたからと聞いたことがある。野坂昭如さんも同じく「色メガネのプレイボーイ」といった世間の評判に左右され、なかなか文学者として評価されなかったそうだ。宇能鴻一郎さん、川上宗薫さんはエロもの作家、阿佐田哲也さんはギャンブル(麻雀(マージャン)、競艇…)、大勢の方々がその道をまっとうされたからこそ、絶対なる文学での信頼を勝ち取られたということなのだろう。
伊集院静さんも女優さんを奥さんに持ちながら、世間で浮名を流し、無頼派とのお墨付きで小説家デビューをしたが、嫉妬混じりの嫌がらせが多くあったようだ。ご本人たちの名誉のために言っておくが、世間の風評どこ吹く風とそれぞれの先生方はマイペースで生き様(ざま)を世間に見せつけられている。伊集院さんも同じ道程を歩まれ、今や押しも押されもせぬ文学者として成功をおさめられている。
『火花』の文中に「『新しい方法論』が出てきたとき、それを『流行(はや)り』と断定したがる。『鬱陶(うっとう)しい年寄り批評家が多い分野はほとんどが衰退する。』」なる一文があるが、どの世界にも通じる名言と心得、我が身を戒(いまし)めている。
1939年(昭14)大阪生まれ。ガン闘病記「死なない練習」(講談社)、「怒る犬」(共著、岩波書店)など絵筆とともにペンも握るアートディレクター>
日刊工業新聞2015年04月03日 ウイークエンド面