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地方の金融機関に求められる“脱・担保”の目利き力

地方創生の主役に格差時代が到来!産業活性化へ経営者や事業のポテンシャルを見極められるか?
地方の金融機関に求められる“脱・担保”の目利き力

宮崎県の都井岬

 宮崎太陽銀行は宮崎県産業振興機構(宮崎市)と業務提携・協力に関する包括連携協定を結んだ。中小企業の支援で連携・協力し地域経済の活性化を図る。相互に連携窓口を設置。企業の販路開拓や取引拡大、経営革新・経営基盤強化の支援、フードビジネス・農商工連携、知的財産の活用促進などに取り組む。

“ローカル・アベノミクス”の成否が日本再生を占う


 今回公表された路線価(2014年7月1日)は都市部と地方の格差も鮮明にした。青森、秋田、鳥取の3県の地価は前年比で4%台の下落、群馬、山梨、和歌山、山口、徳島、香川、高知、佐賀の8県は3%台の下落幅で、地価が下げ止まったとは言い難い地域が少なくない。人口の東京への一極集中に歯止めはかからないほか、アベノミクスの恩恵は大企業ばかりが受け、地方の中小企業はその実感が乏しい。これでは建設投資は活発化しない。

 政府は先に閣議決定した経済財政運営の基本方針(骨太の方針)の中で、“ローカル・アベノミクス”という新語を使用。成長戦略の成果を全国津々浦々にまで広げ、中長期的な地域経済の展望を見いだす対応が必要と強調した。

 安倍首相は日本再興戦略(成長戦略)改定版について「成長戦略を大幅にパワーアップした。その最大の柱は何と言っても地方の活性化。成長の主役は地方だ」とした上で、「ふるさとの特色を生かすことで元気な地方を取り戻す。地方創生のための本部を創設し、私が先頭になって取り組んでいく」と力説した。

 【成長の主役】
 地域活性化と地域経済構造改革は、成長戦略改定版に盛り込んだ「10の挑戦」の一つ。例えば公募で選ばれた優れた改革プロジェクトに取り組む自治体に対し、関係省庁が一体となって各種施策を集中適用する「地域活性化プラットフォーム」を実現するため、地域再生法の改正法案を次期通常国会に提出する。

 また中小企業地域資源活用促進法を改正し、地域資源を活用した「ふるさと名物」の開発・販路開拓を推進する事業者を支援する。さらにコンセッション方式のPFI(民間資金活用の社会資本整備)事業の目標達成時期を22年度から16年度に前倒し、3年間で2兆―3兆円の事業を実現する目標を掲げた。

 産業・雇用のネットワーク化により地域の活力を維持し、東京への一極集中を抑制することで地域の労働人口を確保する。そうした施策を推進する司令塔となる本部を設置し、政府一体となって取り組む体制を整備するとしている。
 
  40年には100以上の市町村の人口が半減するとの試算もある。成長戦略改定版で示された地域対策は抽象的な表現が多く、実現に向けた道筋は示されていない。地方が「成長の主役」となるための序章を描いたに過ぎず、具体策はこれからの課題だ。そもそも成長戦略は漢方薬とされ、その評価には時間を要する。政権は効果的な施策を一つひとつ丁寧に積み上げ、粘り強く地域再生に臨むしかない。

 【地域金融機関、中小融資推進を!再編選択肢】
 地域経済の再生で、重要な役割を担うのが地域金融機関だ。成長戦略改定版と骨太の方針は、地域の中小企業の事業性に着目した融資を推進するよう求めた。担保に依存した従来の融資姿勢の見直しを促したもので、金融機関は中小の事業性を見極める“目利き力”を養い、経営者の資質や事業そのものに融資することが重要だと指摘する。

 「雨降りの日に傘を貸さず、晴天の日に傘を差し出す」。金融機関の融資姿勢をこう表現する中小は少なくない。金融機関は地域経済活性化支援機構などと連携し、地域産業の再生・振興に資する融資を積極化することが求められる。
 
 【リスク許容度】
 それだけに地域の金融機関にはリスク拡大を許容できる体質に強化することが求められる。経済財政諮問会議(議長=安倍首相)の民間議員は「地域金融機関の預貸率や基本的収益力は低下が続いている。地方銀行など地域金融機関の大胆な再編を含めた経営効率化などを推進するべきだ」とし、リスク許容度を高めるには、地銀再編が有効な選択肢だと提言する。

 他方、法人実効税率の引き下げに加え、国家戦略特区を最大限に活用することで、外国企業に対日直接投資を促し、地方にも外資を誘致する施策が待たれる。外資誘致は地方に新たな所得と雇用を生み出し、地域金融機関による支援との相乗効果により中小のビジネス・チャンスが拡大することが期待される。

 都市部と地方で格差が鮮明な地価。格差の是正には地域経済の再生、さらに地域金融機関改革や対日投資の促進など多岐にわたる施策を併せて講じる必要がある。アベノミクスの恩恵を大企業から中小へ、そして都市から地方へ―。“ローカル・アベノミクス”の成否が日本再生を占う新たなキーワードとなった。
日刊工業新聞2014年7月1日深層断面から抜粋/2015年06月01日/ 列島ネット
田鹿倫基
田鹿倫基 Tajika Tomoaki 日南市 マーケティング専門官
地方の金融機関が地域産業の育成に貢献できる部分はとても大きい。地価が上がり続けると信じられていた時代は担保を取った融資でよかったが、今後しばらくは地価が下がり続けていく。したがって担保ではなく、その事業や経営者にどれくらいのポテンシャルがある のかを見極める力が必要になる。それができる金融機関が地元にあるかどうかは、その地域の産業に大きな影響を与える時代に入っている。

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