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人の目の10倍超、画像認識がAIで“機械の目”になる

人の目の10倍超、画像認識がAIで“機械の目”になる

群馬大の高速追跡望遠カメラ。望遠レンズの先の3枚の鏡で対象を追跡する(群馬大提供)

 人工知能(AI)技術を用いた高速画像認識の研究が加速している。ディープラーニング(深層学習)の軽量化・高速化が進み、高速画像処理や高速追跡技術と組み合わせられるようになってきた。自動運転やスポーツには人の目では追い切れないシーンが多くある。高速で動く物体を識別して追跡できれば先回りしたり、危険を予防したりすることが可能になる。機械の目の進化は見逃せない。

 広島大学の姜明俊助教と石井抱教授は深層学習と高速追跡技術を組み合わせて高速認識追跡技術を開発した。カメラの撮像速度は500fps(1秒当たり500フレーム)。人の目の10倍以上の速度で認識と追跡を両立させた。

 深層学習で50fpsの速度で対象物を認識しつつ、相関フィルターという画像処理技術で局所領域を500fpsで追跡する。

 例えばサッカーのボールを認識する場合、深層学習でフレーム10枚に1回ボールと確認し、その間はボールらしき画像がフレームに収まるようカメラで追跡し続ける。

 この追跡処理を毎秒500回という高速で実行するため、ボールから目を離すことがない。姜助教は「追跡対象が隠れたりしても安定して追い続ける」と胸を張る。

 従来の高速画像処理はシンプルな対象しか追跡できなかったが、深層学習で一般的な対象でも追跡できるようになった。石井教授は「人や車など動く対象を追跡しながら、表情や手にもつ道具などを認識してシャッターを切れる」と説明する。

 レンズや鏡など光学系を高速化する研究も活発だ。群馬大学の奥寛雅准教授と小笠原健大学院生は、望遠カメラで200メートル先の物体を捉え続ける光学追跡技術を開発した。XYZの3軸方向に高速回転する3枚の鏡で、車体の揺れや方向転換を相殺する。将来、自動運転車が遠方の物体を認識する際の基礎技術になると期待する。

 研究室で装置を組み立て、窓から見える200メートル先の川の土手に立つ学生を追跡した。認識はシンプルにマーカーを利用。カメラの撮影速度は500fpsで、鏡を毎秒500回の速度で高速制御する。光学装置を台車に乗せて自動車の揺れを模して揺らしても、振動を相殺して目標を撮影し続けられた。

 高速で認識追跡できるとカメラ自体が高速で動いても目標を捉えられる。望遠レンズは視界が狭く、手元の動きはわずかでも撮影対象が大きく速く動いてしまう。

 奥准教授は「まだまだ基礎的な原理検証の段階だが、新しい選択肢を示せた」と手応えを得た様子だ。自動運転やスポーツのデジタル化で機械の目に求められる性能は増している。さらなる研究加速が期待される。
(文=小寺貴之)
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
深層学習の精度に依存しますが、認識対象が広がりました。一般物体を高速追跡でき応用範囲が広がります。例えば一度、人や車などの動く相手を追跡すると、表情や手元の道具が見えたタイミングでシャッターを切る、カウントすることができます。交通にあてはめるとスピード違反のような車両の動きだけでなく、運転しながらのスマホ操作など車内の動きを取り締まれるようになるかもしれません。スポーツでは認識器を開発すれば、動きの一つ一つをカウントして分析できるようになると思います。

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