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浜松ホトニクス「世界最小の分光器」が農業向けにモテモテの理由

残留農薬の計測ニーズ高まる。人の目には見えない早期の病気発見も!?
浜松ホトニクス「世界最小の分光器」が農業向けにモテモテの理由

指先サイズの分光器開発でモバイル用途への応用期待

 浜松ホトニクスが開発した指先サイズのマイクロ分光器が注目されている。2013年末にイメージセンサーを採用した世界最小の分光器として発売し現在も最小。すでに発光ダイオード(LED)照明の色温度計測などで使われ、農作物の品質分析に引き合いが増え始めた。将来は簡易な自己診断や患者近くで検査できる臨床現場即時検査(POCT)など医療分野や環境計測への応用も期待される。
 
 【卓上サイズ限度】
 光を波長ごとに分けて分析する分光器は実験や産業用途に使われ、小さくても卓上サイズだった。同社が開発したマイクロ分光器は横幅約2センチメートル、重さ約5グラム。小型、低価格化により、個人で使う民生市場への道を開いた。例えば、ハンディータイプの色彩計を使えば、店舗などで服飾や料理の見栄えがいい色温度を手軽に分析できる。農業分野では特定の光を透過、あるいは反射させることで農作物の品質や残留農薬の測定が可能だ。

 果物の糖度測定はベルトコンベヤーで搬送中に測定する方法が主流。ハンディータイプなら木になっている状態で品質を判定できる。さらに食の安全への関心の高まりから、「残留農薬を計測するニーズも高まっている」(浜松ホトニクス固体事業部)という。

 【MEMSを利用】
 分光器は一般にサイズが小さくなると分解能が落ちるとされる。しかしマイクロ分光器は、製造工程で微小電気機械システム(MEMS)技術を利用。ガラスレンズを使わない設計などにより小型、低価格化を実現した。「イメージセンサーや光を(波長ごとに)分けるグレーティングなど、主要部品を内製できることが小型化と性能の両立につながった」(同)と開発陣は胸を張る。

 これまでに海外も含め200件以上の顧客にサンプル出荷し、13年度の販売実績は約5000個。今後はスマートフォンなど携帯端末との接続を想定し、さらなる小型、薄型化を目指す。

 【自己診断装置に】
 将来の用途として期待されるのが医療分野への応用だ。高齢化社会の到来や医師不足を背景に、自宅で簡単に血液や呼気の測定ができる自己診断装置の潜在需要は大きい。

 さらに分解能を高めればPOCTなどモバイル測定器への組み込みも可能で、機器メーカーからの引き合いが強まっている。物質は固有の波長を吸収する特性があるため、環境計測にも役立つ。分光器が小さくなるほど、応用の可能性は大きく広がっていく。
 (文=田中弥生)
日刊工業新聞2015年07月10日 電機・電子部品・情報・通信面
加藤百合子
加藤百合子 Kato Yuriko エムスクエア・ラボ 代表
かなり広い分野で課題解決ができるセンサーが提供されているとのこと、これからどんな応用機器が生まれてくるか楽しみです。農業では植物体そのものを簡単に計測できるようになるそうで、これまで茎の太さや葉の大きさ、色など間接的にしか見えなかった植物体の健康が直接見えるようになるかもしれません。そうなれば、人の目には見えないレベルでの早期病気の発見など、経験や勘だけに頼った判断をより最適化できるようになります。

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