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「王者」ニッセイの逆襲は本物か-20年前の構想がいよいよ動き出した

首位陥落の焦り?海外展開に舵
「王者」ニッセイの逆襲は本物か-20年前の構想がいよいよ動き出した

右は東京・丸の内の日本生命ビル

 
生命保険大手4社が海外事業を積極化している。長期的に人口の縮小が避けられない日本市場とは対照的に、アジアを中心に成長の余力の大きい海外市場を取り込み、収益構造を多角化する狙いがある。ただ、背景は同じでも実際の取り組みには4社間で徐々に差が生じてもいる。各社の海外戦略を追った。初回は日本生命保険。

 今、最も生保業界で注目を集めているのはこの会社だろう。2015年度からスタートした中期経営計画では、今後10年間で国内外の戦略投資に約1兆5000億円を投じる計画を打ち上げた。海外事業を含むグループ事業利益で3年後に300億円、10年後に1000億円と数字も公表。これまで慎重姿勢だった海外戦略は積極的な買収戦略へと転換する。
 
 【国内重視に限界】
 背景には第一生命保険の台頭があったとされる。14年度決算で売上高を示す保険料等収入で抜かれ、海外展開でも積極的な同社の存在は確かに大きかったが、これは一つのきっかけに過ぎない。

 欧米アジアにおいて、現地の有力なパートナーとの提携を通じ、マネジメントのノウハウなどをある程度蓄積してきたことや、10年後を見据えると現状の国内重視の収益構造では限界を迎えることに危機感をもったことが戦略転換を後押ししたといえる。

 すでに海外メディアで報じられた豪州大手銀行のナショナル・オーストラリア銀行の保険事業の買収交渉をはじめ、いくつかの構想が動いている。欧米などの先進国では利益貢献と先進的な保険・資産運用のノウハウを、新興国では高い成長性を期待して、巨額投資が予想されている。
 
 【グローバル人材】
 ただ、買収と並んで必要となるのが、海外業務にたけたグローバル人材の育成だ。海外事業を統括する西啓介取締役常務執行役員は「今後は現地の経営を管理できる人材が今まで以上に要求される。収益の数字はもちろん大事だが、人の育成も重要。10年後を考えると、今から手を打たないと間に合わない」と強い危機意識を持つ。
 
 グローバル人材を安定的に輩出するため、実務を担う候補者の数を現在の約200人から500人に増やすことも決めた。通常、人材育成は国際業務に携わる従業員だけが対象とされがちだが、西常務は明確にこれを否定する。「関連部門だけでなく、会社全体が国際化しないと真の国際化にはならない。全従業員が海外を意識した視点をもつことが必要」と話す。中計の戦略は、社内の従業員に対して強烈な意識改革を促すメッセージでもあった。
 
 【再び挑戦】
 海外での収益を通じ、長期安定的に保険契約者への利益還元につなげる―。日生にとって海外事業を収益に取り込む戦略は実は初めてのことではない。90年代後半にはすでに「20年に収益の20%を海外で稼ぐ」という構想自体はあった。時代を先取りする構想ではあったが、当時は金融危機により、国内重視にシフトせざるをえなかった背景もあり、破談となっていた。
 
 そこからすでに約20年。日生は成長戦略として海外事業を一気に加速させるため、再び動きだした。

 ※ニュースイッチで2015年7月13日に初回公開
日刊工業新聞2015年07月07日 金融面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
長らく首位を堅持してきた日本生命保険ですが、売上高に相当する保険料収入で第一生命保険に抜かれました。ただ、保険はストックビジネス。瞬間風速的な売上高を意識しすぎるのは本質を見誤りかねません。利益ベースでは絶対王者であることは変わらず。人材もピカイチといわれる同社の海外事業拡大の急展開には注目です。

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