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「半導体メモリー」なき東芝のメリット

研究開発費を拡散せずに投じる体制に
  東芝の半導体メモリー子会社「東芝メモリ」(東京都港区)が独立する。同社売却で最後の関門だった中国の独占禁止法審査が承認され、6月1日をめどに手続きが完了する。年数千億円の営業利益を稼ぎ出すメモリー事業が抜けることで、東芝の姿は一変する。

 2019年3月期の東芝の営業利益は前期比9・3%増の700億円を見込む。前提となる為替レートを1ドル=100円と保守的に設定した影響を除くと「(実態は)1000億円規模」(車谷暢昭会長兼最高経営責任者)だとしても、日立製作所と総合電機の双璧だったころの姿はない。

 メモリー事業の売却益をどう振り向けるかが東芝の未来を左右する。デジタル技術を活用してインフラ分野を中心に、「(売り切り型でなく、保守点検で稼ぐ)リカーリング型事業への構造転換」(同)を掲げるものの、具体策はこれから。

 車谷会長が各事業部長と膝詰めで、ゼロベースの中期戦略をつくる。年内に構造改革案を公表する方針だ。

 車谷会長も「早いのは一般経費の削減」と説明するように、収益基盤の固め直しが当面の課題になる。固定費をどこまで引き下げられるかが焦点になる。

 メモリー事業売却による経営戦略上の利点もある。投資から回収までの期間が大きく異なるメモリー事業とインフラ事業の二つを抱える経営の難しさから解消される。研究開発費を拡散せずに投じる体制が整ったともいえる。

 車谷会長は外部出身者である利点を「しがらみなく、話し合える点」と語る。先頭に立ち、有言実行で過去の東芝の姿と決別できるのか。「メモリーなき東芝」が浮上する条件だ。
(文=栗下直也)
日刊工業新聞2018年5月21日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
金融出身の車谷CEOは技術は門外漢なので、現在。中計策定に向け各事業部長と頻繁に個別ミーティングをしているという。トップラインを大きく伸ばす必要はない(伸ばせない)。いろんなものを作っている府中工場などを核に、「何をやっているのか分からないけど儲かっている会社」がひとまずの理想だろう。

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