三転四転の“ドタバタ劇”、ゼロックス買収白紙で富士フイルムは幕引き?
水面下では交渉継続 “物言う株主”と条件闘争?
富士フイルムホールディングス(HD)による米ゼロックスの買収合意が白紙に戻った。大株主であるカール・アイカーン氏らの強い反発を受けたゼロックス経営陣が迷走。現地時間13日(日本時間14日)に合意を破棄すると発表し、アイカーン氏らと改めて和解した。買収計画の混迷は、「ゼロックスの株主にも納得してもらえる」と絶対の自信をみせていた古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)にとって、大きな誤算だ。
富士フイルムHDは14日、ゼロックスの合意破棄を受け、「ゼロックスに本案件を一方的に契約終了する権利はなく、このような決断に至ったことに抗議する。今後は訴訟や損害賠償請求も含めた適切な手段をとっていく」と声明を発表。さらに、「15%という少数株主が支配する新たな取締役会によってゼロックスの株主が統合のメリットや価値を判断する機会を奪われるとすれば、残念に思う。新体制にも再考を求めていく」と交渉を継続する構えを見せた。
富士フイルムHDとゼロックスは、1月末に合弁会社である富士ゼロックスとゼロックスの経営統合を発表。これにより富士フイルムHDはゼロックスが持つ高いブランド力を手に入れるとともに、北米市場という世界最大の顧客基盤を獲得。富士フイルムHDの売上高は3兆3000億円規模となり、古森会長兼CEOがかねて掲げてきた「売上高3兆円以上」という理想も一気に実現できるはずだった。
まず、富士ゼロックスが富士フイルムHDから自社株式全75%を6710億円で取得。一方のゼロックスは既存株主に特別配当25億ドル(約2720億円)を拠出し、あらかじめ企業価値を引き下げる。その上で富士フイルムHDは6710億円でゼロックスの第三者割当増資を引き受け、全体の50・1%の株式を握るという複雑な仕組みだ。
アイカーン氏らはこの手法を「ゼロックスを過小評価している」と強く批判。一方で、富士フイルムHDがゼロックス株1株当たり40ドル以上の買収を提示すれば、「検討する」と揺さぶった。
だが富士フイルムHDとしては、追加資金を伴う買収は避けたいのが本音だ。「ゼロックスの買収には本来1兆円以上が必要だが、成長事業に回す資金が窮屈になる」(古森会長兼CEO)。
富士フイルムHDは、今回のような手法で資金力を維持しつつ、再生医療・医療機器といったヘルスケア領域や半導体・ディスプレー材料など高機能材料分野でM&A(合併・買収)を含む成長投資を継続する戦略を描く。
このため、古森会長兼CEOは1月の買収発表時の会見で、「グループの最大事業であるドキュメントの強化と成長投資の継続を同時に実現できる」と胸を張った。ここでアイカーン氏らに簡単に譲歩しては、買収のメリット自体が希薄化する。
欧米とアジアで主導権の異なるドキュメント事業統合は、富士フイルムHDにとって成長の好機だ。人工知能(AI)やインクジェット技術で相乗効果も見込むが、富士フイルムHD関係者からは「何が何でも欲しい段階ではない」との声も。このため、アイカーン氏らとの条件闘争では譲歩しない姿勢を貫く。ただ水面下での交渉は続いている模様で、一気に妥結する道も十分残されている。
ゼロックスは富士フイルムとの統合計画を白紙にすると通達し、統合に反対していたアイカーン氏らと和解した。同氏らは代わりに、株主総会に向けた委任状争奪戦や経営陣に対する訴訟を取り下げる。
アイカーン氏は声明で、「ゼロックスが、支配権を富士フイルムに渡す浅はかなスキームを破棄したのは極めて喜ばしい。我々と新たな株主重視の経営陣は、ゼロックスの新たなスタートを切る」と歓迎している。
4月27日に裁判所による買収手続きの停止命令が出されて以降、買収をめぐる動きは混迷を深めた。反対派の大株主との和解、和解案の失効、統合の再交渉、そして統合そのものの白紙―。事態はわずか3週間もたたない間に二転三転ならぬ、三転四転のドタバタ劇となった。
ゼロックスは一連の責任をとり、ジェフ・ジェイコブソン最高経営責任者(CEO)が辞任し、新たにアイカーン氏らが推す取締役5人を受け入れるとも表明。今後は新たな経営体制のもと、再出発することになる。
北米市場では、IT化の進展とともにオフィスではペーパーレス化が急速に進む。これに伴い、ゼロックスは売上高、営業利益ともに年々、右肩下がりに減少するなど業績は低迷。最近では、日系の複写機大手リコーが北米事業で約1700億円以上の巨額の減損に追い込まれるなど、先進国の市場環境は厳しさを増す。関係者の思惑が交錯する中、「富士フイルムHDがゼロックスを取り込む利点は何なのか」が改めて問われている。
「オフィス機器系で成長が期待できるのは、エマージング(新興国)マーケット」。事務機器大手の経営幹部が強調するように、市場自体が停滞する先進国に代わり、拡大が見込めるのは新興国だ。
この成長市場を主要な販路として押さえているのが富士ゼロックス。同社を傘下に収める富士フイルムHDにとってはある意味、成長市場を既に確保しているともいえる。
このため、そもそも富士フイルムHDが「(北米、欧州市場が中心の)ゼロックスを買収することに大きなメリットはないのでは」(アナリスト)と問う声も大きい。
(文=堀田創平、杉浦武士)
富士フイルムHDは14日、ゼロックスの合意破棄を受け、「ゼロックスに本案件を一方的に契約終了する権利はなく、このような決断に至ったことに抗議する。今後は訴訟や損害賠償請求も含めた適切な手段をとっていく」と声明を発表。さらに、「15%という少数株主が支配する新たな取締役会によってゼロックスの株主が統合のメリットや価値を判断する機会を奪われるとすれば、残念に思う。新体制にも再考を求めていく」と交渉を継続する構えを見せた。
富士フイルムHDとゼロックスは、1月末に合弁会社である富士ゼロックスとゼロックスの経営統合を発表。これにより富士フイルムHDはゼロックスが持つ高いブランド力を手に入れるとともに、北米市場という世界最大の顧客基盤を獲得。富士フイルムHDの売上高は3兆3000億円規模となり、古森会長兼CEOがかねて掲げてきた「売上高3兆円以上」という理想も一気に実現できるはずだった。
まず、富士ゼロックスが富士フイルムHDから自社株式全75%を6710億円で取得。一方のゼロックスは既存株主に特別配当25億ドル(約2720億円)を拠出し、あらかじめ企業価値を引き下げる。その上で富士フイルムHDは6710億円でゼロックスの第三者割当増資を引き受け、全体の50・1%の株式を握るという複雑な仕組みだ。
アイカーン氏らはこの手法を「ゼロックスを過小評価している」と強く批判。一方で、富士フイルムHDがゼロックス株1株当たり40ドル以上の買収を提示すれば、「検討する」と揺さぶった。
だが富士フイルムHDとしては、追加資金を伴う買収は避けたいのが本音だ。「ゼロックスの買収には本来1兆円以上が必要だが、成長事業に回す資金が窮屈になる」(古森会長兼CEO)。
富士フイルムHDは、今回のような手法で資金力を維持しつつ、再生医療・医療機器といったヘルスケア領域や半導体・ディスプレー材料など高機能材料分野でM&A(合併・買収)を含む成長投資を継続する戦略を描く。
このため、古森会長兼CEOは1月の買収発表時の会見で、「グループの最大事業であるドキュメントの強化と成長投資の継続を同時に実現できる」と胸を張った。ここでアイカーン氏らに簡単に譲歩しては、買収のメリット自体が希薄化する。
欧米とアジアで主導権の異なるドキュメント事業統合は、富士フイルムHDにとって成長の好機だ。人工知能(AI)やインクジェット技術で相乗効果も見込むが、富士フイルムHD関係者からは「何が何でも欲しい段階ではない」との声も。このため、アイカーン氏らとの条件闘争では譲歩しない姿勢を貫く。ただ水面下での交渉は続いている模様で、一気に妥結する道も十分残されている。
ゼロックスは富士フイルムとの統合計画を白紙にすると通達し、統合に反対していたアイカーン氏らと和解した。同氏らは代わりに、株主総会に向けた委任状争奪戦や経営陣に対する訴訟を取り下げる。
アイカーン氏は声明で、「ゼロックスが、支配権を富士フイルムに渡す浅はかなスキームを破棄したのは極めて喜ばしい。我々と新たな株主重視の経営陣は、ゼロックスの新たなスタートを切る」と歓迎している。
4月27日に裁判所による買収手続きの停止命令が出されて以降、買収をめぐる動きは混迷を深めた。反対派の大株主との和解、和解案の失効、統合の再交渉、そして統合そのものの白紙―。事態はわずか3週間もたたない間に二転三転ならぬ、三転四転のドタバタ劇となった。
ゼロックスは一連の責任をとり、ジェフ・ジェイコブソン最高経営責任者(CEO)が辞任し、新たにアイカーン氏らが推す取締役5人を受け入れるとも表明。今後は新たな経営体制のもと、再出発することになる。
ペーパーレス進む北米、買収効果に疑問符
北米市場では、IT化の進展とともにオフィスではペーパーレス化が急速に進む。これに伴い、ゼロックスは売上高、営業利益ともに年々、右肩下がりに減少するなど業績は低迷。最近では、日系の複写機大手リコーが北米事業で約1700億円以上の巨額の減損に追い込まれるなど、先進国の市場環境は厳しさを増す。関係者の思惑が交錯する中、「富士フイルムHDがゼロックスを取り込む利点は何なのか」が改めて問われている。
「オフィス機器系で成長が期待できるのは、エマージング(新興国)マーケット」。事務機器大手の経営幹部が強調するように、市場自体が停滞する先進国に代わり、拡大が見込めるのは新興国だ。
この成長市場を主要な販路として押さえているのが富士ゼロックス。同社を傘下に収める富士フイルムHDにとってはある意味、成長市場を既に確保しているともいえる。
このため、そもそも富士フイルムHDが「(北米、欧州市場が中心の)ゼロックスを買収することに大きなメリットはないのでは」(アナリスト)と問う声も大きい。
(文=堀田創平、杉浦武士)
日刊工業新聞2018年5月15日