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トランプ、反グローバリズムの次ぎは反AI・技術革新か

米国の景気拡大も視界不良
トランプ、反グローバリズムの次ぎは反AI・技術革新か

トランプ公式フェイスブックページより

 2017年にトランプ氏が大統領に就任して約1年半の間、大型減税や保護主義的な通商政策が推し進められてきた。他方、イラン核合意からの離脱を発表し、原油価格が急騰するなど、予測できない大統領の言動に国際社会が翻弄されている。長期に達する米国の景気拡大は、トランプ大統領の任期終了まで維持できるかは視界不良だ。

106カ月拡張


 08年のリーマンショックを乗り越え、米国の景気拡張期間は18年4月で106カ月に達した。三井物産戦略研究所の山田良平北米・中南米室長は「具体的なリスクがあるわけではないが、景気の自然な循環に従えば、そろそろ減速する可能性がある」と警戒する。

 同研究所によると、米国は17年7―9月に総需要が総供給を上回り、国内総生産(GDP)ギャップがプラスに転じた。米国はGDPギャップがプラスになってから2年で景気後退へと転じるパターンを繰り返しているとされ、20年頃に後退局面へと転ずる可能性を否定できない。

心理的な影響


 ただリスクとして懸念されるトランプ政権の保護主義的な通商政策について、山田室長は「景気はやはり選挙(今年11月中間選挙)には大事な要因。トランプ政権といえども直接、経済成長に傷つけるほどの政策はやらないだろう」と話す。

 みずほ総合研究所の安井明彦欧米調査部長も「危機的な影響というよりは、じわじわと成長率の足を引っ張る材料になる」とし、直接的な成長へのダメージよりも、米中貿易摩擦に象徴される市場への心理的な影響を危惧する。

 他方、トランプ政権による大型減税は景気にプラスである一方、財政赤字が増大する。安井欧米調査部長は「減税は間違いなく景気にプラス」だが「財政赤字の拡大による金利の上昇で相殺される部分がありそう」と負の側面を指摘する。

 大型減税の主眼は企業の投資促進。同部長はそうした投資活動などを通して「(直接の経済成長とは別に)米国の成長力・生産性の底上げにつながるような効果が出るかが(米国経済の先行きを占う)ポイント」だとする。

 だが「仮に中間選挙後に政治が停滞して嫌気されたり、保護主義によって不透明感が高まったりすると、そうした効果すら相殺されかねない」と続ける。

揺り戻し


 安井部長はハイテク大手企業に対する政策動向にも触れ、「規制強化の流れが行き過ぎると今後の成長力に影響が生ずる。社会の技術革新への不安感を軽視していると、強烈な揺り戻しが起こる可能性もある。反グローバリズムの次に、反AI・技術革新となる可能性も捨てきれない」と警戒する。

 自動運転車による死亡事故や、小売業者の経営を圧迫しかねないネット通販大手などに規制の矛先が向かえばイノベーションの歩みは鈍化する。
日刊工業新聞2018年5月11日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
足元は堅調な米国経済だが、景気失速の可能性はある程度は想定しておく必要がある。トランプ政権は一連の不透明感を拭い去り、企業マインドを萎縮させない政策運営を実現できるかが問われる。 (日刊工業新聞社・吉田周示)

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