沖縄、今年度1千万人超え確実。空と海で“世界の観光ハブ”へ
沖縄県の2017年度の観光客数が初めて900万人を突破し、5年連続で過去最高を更新した。18年度には1000万人台が確実視され、中期目標である1200万人へ着実なステップアップを遂げている。県はさらなる誘客と観光収入の伸長に向けて、空と海の国際拠点化に取り組む。狙うのは地理的に近いアジアの観光客の深耕と、欧米客の取り込みだ。一方で地域分散が進まない現状や慢性的な交通渋滞など、課題解決も求められる。
沖縄県が4月25日に発表した17年度の観光客数は、前年度比9・2%増の957万9000人。国内客は688万7000人で同3・7%増と小幅な伸び率の一方、インバウンド(訪日外国人)は同26・4%増の269万2000人と躍進した。
17年8月には単月で初の100万人を超えるなど「記録ずくめの1年だった」と県の富川盛武副知事は喜ぶ。
官民による誘客施策が奏功しているほか、クルーズ船の寄港や航空路線の就航も続いており、18年度での悲願の1000万人超えは手堅いとみる。
気がかりなのは、現在沖縄で感染が拡大する、はしかだ。旅行キャンセルは27日時点で2100人を超えており、本格的な観光シーズン到来を前に県は警戒感を強めている。正確な情報の開示や予防接種の奨励などの発信に努め、観光客の減少を防ぎたい考えだ。
県は21年度の観光目標として、年間客数1200万人、観光収入1兆1000億円の実現を掲げる。ただ客数は好調な一方、観光収入は6602億円(16年度)に留まっており、実現には遠い。
沖縄は、17年暦年の比較で観光客数が目標としていたハワイを初めて超え、国際観光地として自信を深めている。だがハワイは観光の平均単価が沖縄の2・6倍と高く、滞在日数の多さを含め、質的には及ばない。
そこで県は、空と海の観光拠点形成に関する二つの構想を打ち出し、滞在日数の長期化や収入増大に乗り出した。航空路線の「『国際旅客ハブ』形成に向けた将来ビジョン」と、クルーズ船の「東洋のカリブ構想」だ。
観光収入の引き上げには、滞在日数が長めで消費も比較的大きい欧米からの誘客が近道となる。「国際旅客ハブ」は、那覇空港の第2滑走路が稼働する20年以降の欧州との直行便就航を見据えた構想だ。
格安航空会社(LCC)を含めた東アジア17路線(3月時点)が就航する沖縄の国際航空網と接続することで、貨物で先行するハブ化を旅客でも実現する野心的な試みだ。沖縄を日本国内や東アジアの周遊拠点に位置付け、アジアの玄関口になることを狙う。
まずパートナーを組むのは全日本空輸(ANA)。「国際・国内のネットワークを生かし、総力で誘客する」と、ANAの今西一之上席執行役員営業センター長(3月当時、現全日空商事取締役)は意気込む。
期間限定でドイツ―東京便の割安料金を設定し、国内区間を無料にするなど欧州の旅行者を沖縄に呼び込む。今後は豪州でも同様の取り組みを実施するほか、県は連携する航空会社を広げていく。
海路では、国内トップレベルの寄港数を誇るクルーズ船について産業の厚みを持たせる戦略を持つ。世界のクルーズ拠点・カリブにならい、「東洋のカリブ構想」として拠点化する。
沖縄県内へのクルーズ寄港回数は、17年に515回で過去最高となった。18年はさらに増え、寄港数662回を予定するなど順調だ。中国市場の拡大と、上海や廈門、香港などクルーズ船発着地の南下に伴い、「距離感の良い沖縄の人気は高まる」と県は期待する。
一方で寄港による一時下船のクルーズ客は滞在時間が短く、消費効果も小さい。寄港数増だけでなく滞在日数を伸ばす仕掛けが求められる。
そのためクルーズの起点や終着点とする拠点港化や母港化を図っている。19年以降に南西諸島の周遊クルーズを誘致するほか、沖縄での客の入れ替えを実現する。クルーズ船に乗るため沖縄に来たり、沖縄から帰国したりといった、空路と組み合わせた「フライ&クルーズ」を推進する。
また21年以降にはターミナルとホテル、ショッピングセンターなどの複合施設の誘致や、海外クルーズ船社の誘致を積極化する。
21年度には、海路による外国人観光客数200万人(17年度実績99万人)を実現する構えだ。
好調に見える観光だが課題もある。観光客数の底上げと年間の平準化が進む一方で、地域分散は依然として進んでいない。
沖縄観光コンベンションビューロー(那覇市)の平良朝敬会長は、「沖縄は地域として広いため、観光格差が出ている。入域数は順調だが、離島は『閑古鳥』」と嘆く。
観光客の集中により、那覇市内などは慢性的な交通渋滞や混雑を引き起こしており、観光地の水準を下げることにもなっている。県も2次交通の弱さや「質の確保」(嘉手苅孝夫文化観光スポーツ部長)を課題に挙げる。観光客対応などの人材不足も深刻さを増す。
混雑緩和とさらなる増客の受け皿づくりでは、国や県が空港や港湾、道路といったインフラ施設の整備を進める。宿泊面も高級リゾートを含めホテルの進出が相次いで民間投資が拡大するなど、官民の投資によってハード面は強化されている。
ただ、沖縄が快適な観光地になるには、利便性をさらに高められるソフト面でのイノベーションが不可欠だ。これには基幹産業となったITや、産学官金の各界で加速するスタートアップ支援が一役買いそうだ。
さらに7月には県主導で人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)の産業導入を進める官民組織が動きだす。また4月26日には地場の地銀などによる、キャッシュレス化に向けたコンソーシアムも立ち上がった。
沖縄県は「国際観光拠点」として政府の国家戦略特区に指定されている。規制にとらわれない先端的な実証実験も可能だ。テクノロジーや新たなビジネスを通じて沖縄が諸課題を克服できれば、観光地としてだけでなく観光ビジネスの“先進的ハブ”として全国をリードできるはずだ。
アジアの周遊拠点に
沖縄県が4月25日に発表した17年度の観光客数は、前年度比9・2%増の957万9000人。国内客は688万7000人で同3・7%増と小幅な伸び率の一方、インバウンド(訪日外国人)は同26・4%増の269万2000人と躍進した。
17年8月には単月で初の100万人を超えるなど「記録ずくめの1年だった」と県の富川盛武副知事は喜ぶ。
官民による誘客施策が奏功しているほか、クルーズ船の寄港や航空路線の就航も続いており、18年度での悲願の1000万人超えは手堅いとみる。
気がかりなのは、現在沖縄で感染が拡大する、はしかだ。旅行キャンセルは27日時点で2100人を超えており、本格的な観光シーズン到来を前に県は警戒感を強めている。正確な情報の開示や予防接種の奨励などの発信に努め、観光客の減少を防ぎたい考えだ。
空のハブ
県は21年度の観光目標として、年間客数1200万人、観光収入1兆1000億円の実現を掲げる。ただ客数は好調な一方、観光収入は6602億円(16年度)に留まっており、実現には遠い。
沖縄は、17年暦年の比較で観光客数が目標としていたハワイを初めて超え、国際観光地として自信を深めている。だがハワイは観光の平均単価が沖縄の2・6倍と高く、滞在日数の多さを含め、質的には及ばない。
そこで県は、空と海の観光拠点形成に関する二つの構想を打ち出し、滞在日数の長期化や収入増大に乗り出した。航空路線の「『国際旅客ハブ』形成に向けた将来ビジョン」と、クルーズ船の「東洋のカリブ構想」だ。
観光収入の引き上げには、滞在日数が長めで消費も比較的大きい欧米からの誘客が近道となる。「国際旅客ハブ」は、那覇空港の第2滑走路が稼働する20年以降の欧州との直行便就航を見据えた構想だ。
格安航空会社(LCC)を含めた東アジア17路線(3月時点)が就航する沖縄の国際航空網と接続することで、貨物で先行するハブ化を旅客でも実現する野心的な試みだ。沖縄を日本国内や東アジアの周遊拠点に位置付け、アジアの玄関口になることを狙う。
まずパートナーを組むのは全日本空輸(ANA)。「国際・国内のネットワークを生かし、総力で誘客する」と、ANAの今西一之上席執行役員営業センター長(3月当時、現全日空商事取締役)は意気込む。
期間限定でドイツ―東京便の割安料金を設定し、国内区間を無料にするなど欧州の旅行者を沖縄に呼び込む。今後は豪州でも同様の取り組みを実施するほか、県は連携する航空会社を広げていく。
東洋のカリブ―クルーズ母港目指す
海路では、国内トップレベルの寄港数を誇るクルーズ船について産業の厚みを持たせる戦略を持つ。世界のクルーズ拠点・カリブにならい、「東洋のカリブ構想」として拠点化する。
沖縄県内へのクルーズ寄港回数は、17年に515回で過去最高となった。18年はさらに増え、寄港数662回を予定するなど順調だ。中国市場の拡大と、上海や廈門、香港などクルーズ船発着地の南下に伴い、「距離感の良い沖縄の人気は高まる」と県は期待する。
一方で寄港による一時下船のクルーズ客は滞在時間が短く、消費効果も小さい。寄港数増だけでなく滞在日数を伸ばす仕掛けが求められる。
そのためクルーズの起点や終着点とする拠点港化や母港化を図っている。19年以降に南西諸島の周遊クルーズを誘致するほか、沖縄での客の入れ替えを実現する。クルーズ船に乗るため沖縄に来たり、沖縄から帰国したりといった、空路と組み合わせた「フライ&クルーズ」を推進する。
また21年以降にはターミナルとホテル、ショッピングセンターなどの複合施設の誘致や、海外クルーズ船社の誘致を積極化する。
21年度には、海路による外国人観光客数200万人(17年度実績99万人)を実現する構えだ。
より快適に―ソフト面で利便性向上を
好調に見える観光だが課題もある。観光客数の底上げと年間の平準化が進む一方で、地域分散は依然として進んでいない。
沖縄観光コンベンションビューロー(那覇市)の平良朝敬会長は、「沖縄は地域として広いため、観光格差が出ている。入域数は順調だが、離島は『閑古鳥』」と嘆く。
観光客の集中により、那覇市内などは慢性的な交通渋滞や混雑を引き起こしており、観光地の水準を下げることにもなっている。県も2次交通の弱さや「質の確保」(嘉手苅孝夫文化観光スポーツ部長)を課題に挙げる。観光客対応などの人材不足も深刻さを増す。
混雑緩和とさらなる増客の受け皿づくりでは、国や県が空港や港湾、道路といったインフラ施設の整備を進める。宿泊面も高級リゾートを含めホテルの進出が相次いで民間投資が拡大するなど、官民の投資によってハード面は強化されている。
ただ、沖縄が快適な観光地になるには、利便性をさらに高められるソフト面でのイノベーションが不可欠だ。これには基幹産業となったITや、産学官金の各界で加速するスタートアップ支援が一役買いそうだ。
さらに7月には県主導で人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)の産業導入を進める官民組織が動きだす。また4月26日には地場の地銀などによる、キャッシュレス化に向けたコンソーシアムも立ち上がった。
沖縄県は「国際観光拠点」として政府の国家戦略特区に指定されている。規制にとらわれない先端的な実証実験も可能だ。テクノロジーや新たなビジネスを通じて沖縄が諸課題を克服できれば、観光地としてだけでなく観光ビジネスの“先進的ハブ”として全国をリードできるはずだ。
日刊工業新聞2018年5月1日