「ニコニコ超会議2018」サブカルカオスの中で科学技術は輝くか
ゼロ・ダウンタイム!、ゼロ・ダウンタイム!-。コスプレやゲーム実況、音楽ライブの喧噪の中で、どこか懐かしい工場のカイゼンワードが聞こえてくる。「ニコニコ超会議2018」(千葉・幕張メッセ、4月28・29日開催)の「NTT超未来大都会」ブースでは、ヒト協調ロボットがマンホール型コースターを配っている。「予防保全で停止時間はゼロ!。24時間365日、無休でコースターを配り続けます!」とNTT研究者は声を張る。
NTTはファナックなどと工場設備のAIモニタリングシステムを事業化した。17年はファナックの大型ロボが米俵を振り回し、ボディビルダーと共演。きれいなお姉さんのかけ声に合わせて研究者が「エッジヘビー!」と叫んだ。
18年のテーマは「ゼロ・ダウンタイム!」。NTTの嵯峨田淳R&Dビジョン担当部長は「ビジネスが始まり、技術の利点を前面に打ち出した」という。ただただ叫んでいた前回に比べ、少し大人になってしまった。
きれいなお姉さんは17年と同じお姉さんだが、ボディビルダーは二次元のイケメンになった。正統派や年下少年、知的眼鏡、ちょい悪筋肉の4人のイケメンキャラが機能を解説する。社内からは「今年は安心してみていられる」とお墨付きをもらっている。
二次元のイケメンたちは今回が初公開。イケメンの効果かどうか不明だが、コースターは初日分を配り終え、二日目の分を先出ししていた。ただ竹内亨主任研究員は「普通の展示会だとイケメンたちは浮いてしまう。実演内容は超会議以外の展示会でも使えるが、イケメンたちはこれが最後になるだろう」という。悲しいほどに短命だ。
著作権などをフリーにして中小製造業に提供すれば、工場女子のリクルート役として活躍するかもしれない。ヒト協調ロボットとAIが普及すると男職場だった町工場も女性が働きやすい環境になる。
サブカルのカオスの中で奮闘するのはロボットだけではない。触覚や振動を放送する「ハプティックTV」はソファとクッション、リモコンに振動スピーカーを配置し、花火やスポーツの迫力を振動で伝える。クッションがお腹側、ソファが背中側から挟むように振動するため、全身に迫力が伝わる。
アリが歩くような細かな振動はリモコンで感度の高い手先に伝える。鎌本優主任研究員は「技術はある。テレビ局などが、やりたいといってくれれば実現できる」と力を込める。
AIでアニメキャラクターも再現された。ライトノベル・アニメの「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」に登場する「新垣あやせ」をAI化するため、特設サイトでファンから数万の会話を集めた。あやせに聞いてみたい質問と、あやせならその質問にこう答えるという回答を募集。「ポイね!」ボタンでファンが評価した答えを学習させた。
会場では等身大のあやせが身ぶり手ぶりでチャットに答える。あやせの隣に説明のお姉さんが立っていなければ、きわどい質問がたくさん浴びせられただろう。
漫画やアニメではキャラクターの個性が読者や視聴者に認知される〝キャラ立ち〟すると、作者よりもファンがキャラっぽさを決めることがある。AI時代の〝キャラ立ち〟はAIとしてキャラクターを実現し、会話を楽しむこともできるようにした。
大学の研究者たちも奮闘している。「超学会」ブースでは、数学の部分グラフ同型問題や排泄前の大便の硬さ推定などの研究が発表された。筑波大学の掛谷英紀准教授が一期で終わるチルドレン議員の特徴をAIで解析した。
2005年の自民党初当選者や2009年の民主党初当選者のうち一期で終わった議員と二期以上続いた議員の国会質問を分析した。掛谷准教授は「一期で終わる議員は損得勘定に関係する動詞を頻繁に使う」という。超会議は政治家が憲法について討論するなど隠れ論客の多い場だ。掛谷准教授も論戦の相手が途切れなかったようだ。
京都大学古地震研究会などが出展する「超みんなで翻刻してみた」ブースは、黙々と古文書を文字起こしするコスプレーヤーの姿があった。カツラをとったコスプレーヤーが古文書のくずし字を判読しテキストデータに直していく。
翻刻ブースでは情報・システム研究機構人文学オープンデータ共同利用センターの北本朝展センター長が江戸時代の大名図鑑「武鑑」の研究を解説した。武鑑には役人の人事異動が網羅されている。出世や左遷、江戸時代の官僚、大名たちの悲喜こもごもが詰まっており、読み解く面白さは深いものがある。
ただ翻刻ブースの裏ではアイドルたちが歌って踊る。北本センター長も声を張らないとアイドルの歌声にかき消えてしまう状況だった。超会議では偉さ・賢さは関係ない。話が面白ければ来場者の足を止めさせ、自分たちの世界に引き込むことができる。
(文=小寺貴之)
NTTはファナックなどと工場設備のAIモニタリングシステムを事業化した。17年はファナックの大型ロボが米俵を振り回し、ボディビルダーと共演。きれいなお姉さんのかけ声に合わせて研究者が「エッジヘビー!」と叫んだ。
18年のテーマは「ゼロ・ダウンタイム!」。NTTの嵯峨田淳R&Dビジョン担当部長は「ビジネスが始まり、技術の利点を前面に打ち出した」という。ただただ叫んでいた前回に比べ、少し大人になってしまった。
きれいなお姉さんは17年と同じお姉さんだが、ボディビルダーは二次元のイケメンになった。正統派や年下少年、知的眼鏡、ちょい悪筋肉の4人のイケメンキャラが機能を解説する。社内からは「今年は安心してみていられる」とお墨付きをもらっている。
二次元のイケメンたちは今回が初公開。イケメンの効果かどうか不明だが、コースターは初日分を配り終え、二日目の分を先出ししていた。ただ竹内亨主任研究員は「普通の展示会だとイケメンたちは浮いてしまう。実演内容は超会議以外の展示会でも使えるが、イケメンたちはこれが最後になるだろう」という。悲しいほどに短命だ。
著作権などをフリーにして中小製造業に提供すれば、工場女子のリクルート役として活躍するかもしれない。ヒト協調ロボットとAIが普及すると男職場だった町工場も女性が働きやすい環境になる。
サブカルのカオスの中で奮闘するのはロボットだけではない。触覚や振動を放送する「ハプティックTV」はソファとクッション、リモコンに振動スピーカーを配置し、花火やスポーツの迫力を振動で伝える。クッションがお腹側、ソファが背中側から挟むように振動するため、全身に迫力が伝わる。
アリが歩くような細かな振動はリモコンで感度の高い手先に伝える。鎌本優主任研究員は「技術はある。テレビ局などが、やりたいといってくれれば実現できる」と力を込める。
AIでアニメキャラクターも再現された。ライトノベル・アニメの「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」に登場する「新垣あやせ」をAI化するため、特設サイトでファンから数万の会話を集めた。あやせに聞いてみたい質問と、あやせならその質問にこう答えるという回答を募集。「ポイね!」ボタンでファンが評価した答えを学習させた。
会場では等身大のあやせが身ぶり手ぶりでチャットに答える。あやせの隣に説明のお姉さんが立っていなければ、きわどい質問がたくさん浴びせられただろう。
漫画やアニメではキャラクターの個性が読者や視聴者に認知される〝キャラ立ち〟すると、作者よりもファンがキャラっぽさを決めることがある。AI時代の〝キャラ立ち〟はAIとしてキャラクターを実現し、会話を楽しむこともできるようにした。
大学の研究者たちも奮闘している。「超学会」ブースでは、数学の部分グラフ同型問題や排泄前の大便の硬さ推定などの研究が発表された。筑波大学の掛谷英紀准教授が一期で終わるチルドレン議員の特徴をAIで解析した。
2005年の自民党初当選者や2009年の民主党初当選者のうち一期で終わった議員と二期以上続いた議員の国会質問を分析した。掛谷准教授は「一期で終わる議員は損得勘定に関係する動詞を頻繁に使う」という。超会議は政治家が憲法について討論するなど隠れ論客の多い場だ。掛谷准教授も論戦の相手が途切れなかったようだ。
京都大学古地震研究会などが出展する「超みんなで翻刻してみた」ブースは、黙々と古文書を文字起こしするコスプレーヤーの姿があった。カツラをとったコスプレーヤーが古文書のくずし字を判読しテキストデータに直していく。
翻刻ブースでは情報・システム研究機構人文学オープンデータ共同利用センターの北本朝展センター長が江戸時代の大名図鑑「武鑑」の研究を解説した。武鑑には役人の人事異動が網羅されている。出世や左遷、江戸時代の官僚、大名たちの悲喜こもごもが詰まっており、読み解く面白さは深いものがある。
ただ翻刻ブースの裏ではアイドルたちが歌って踊る。北本センター長も声を張らないとアイドルの歌声にかき消えてしまう状況だった。超会議では偉さ・賢さは関係ない。話が面白ければ来場者の足を止めさせ、自分たちの世界に引き込むことができる。
(文=小寺貴之)
ニュースイッチオリジナル