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3次元形状測定器の東工大発ベンチャー、人手不足とほぼ無縁のワケ

光コム、製造業IoT分野のフロンティアとして存在感
3次元形状測定器の東工大発ベンチャー、人手不足とほぼ無縁のワケ

左から河合取締役、福沢社長、野田取締役

 光コム(東京都千代田区、福沢博志社長)は、レーザーの一種である光コムを産業用に応用した3次元形状測定器を開発・販売している。社名ともなっている光コムとは、周波数が異なる複数の光の波が“くし”(comb)のように一定の位相関係で並んでいるレーザーのことだ。一定の位相のため、干渉性が高く、精緻な測定ができる。2005年には光コムの研究がノーベル物理学賞を受賞したほか、09年には日本の長さの標準に採用されている。

 光コムを応用した同社の技術は、大型旅客機の全長に相当する78メートル先のワーク(加工対象物)をプラスマイナス5マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の精度で測定できる。精度だけではなく、1秒間に50万点の測定が可能だ。高精度・高速検査が可能なことから、特に全数測定に適しており、これまで難しかったエンジン素材と、その加工工程の検査向けを中心に導入が進んでいる。

 AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を使った第4次産業革命「インダストリー4・0」への対応が製造業で進んでいるが、同社は光コムを応用した3次元形状測定器を中核にスマート工場を構築する事業に乗り出す。福沢社長は自社の3次元測定器を「情報を仕入れる目」として位置付ける。「どんなに優れた頭脳(AI)や腕(ロボット)ばかりあっても、正確な情報がなければ、その性能を発揮できない」と強調する。

 例えば同社の形状測定器を検査ラインに取り付け、検査データを蓄積し、これをAIで解析すれば、トラブルを未然に防げるほか、リコール(無料の回収・修理)の際にスムーズに対応できるなど、さまざまな可能性を秘めている。AI・ロボティクス技術を持つ企業も巻き込み、測定器だけではなく、ハードとソフト、ネットワークの専門が集結し、スマート工場を構築していく。
光コム技術を応用した3次元形状測定器

 同社の測定器は、今でこそ大手自動車メーカーを中心に大手自動車部品メーカーで採用が進んでいるが、経営を軌道に乗せるまでには「大変な苦労をした」と福沢社長は振り返る。

 同社は東京工業大学発のベンチャー企業として02年に設立された。基礎技術偏重主義で業績が伸び悩む中、07年に福沢社長が知人の紹介でCFO(最高財務責任者)として入社する。

 福沢社長は野村証券を振り出しに外資系証券会社を渡り歩いた金融工学のプロ中のプロだ。福沢社長は子どもの頃に映画「地球防衛軍」を見ていた世代、父親に買ってもらった玩具の光線銃で遊んだ。以来、光に関心を持っており入社の動機も「光が好き」で光コムの理論自体は直感的におもしろいと感じたそうだ。

 10年に社長に就任した。福沢社長は自宅を売却するなど個人で資金を調達し、同社が苦しい時期を支えた。同社に追い風が吹き始めたのは14年にニッセイキャピタルから出資を受けてからだ。この資金で試作機を製品化、量産化にこぎ着けた。

 さらに16年に福沢社長を経営面から支える2人の若手が入社する。ともに79年生まれの野田直孝取締役COO(最高執行責任者)と河合琢満取締役CFOだ。

 野田取締役は野村総合研究所で経営コンサルティングと事業再生に従事し、ITベンチャー企業で上場を経験してを経て入社した。趣味は自動車の生産ラインの見学。「車が好きで、自動車関連のモノづくり業界で働きたかった。年齢的にギリギリでチャンスは今しかないと思った」。

 河合取締役は公認会計士。会計事務所を経て、大手商社で事業投資を行っていた。「ヘッドハンターに紹介された企業の中で、モノづくり分野で一番可能性を感じた。誰がやっても同じという仕事ではなく、自分のやったことが経営にダイレクトに反映されやすい」。

 経営陣だけではなく、開発者も「東工大や東大、京大、東北大、ケンブリッジ大、マサチューセッツ工科大卒など一流中の一流のエンジニアが集まっている」(福沢社長)。最先端のソフトとハードの開発に携われることが魅力になっているようで「取引先の工場に行くのが大好き」(同)。

 日本の産業界で問題となっている人手で不足とはほぼ無縁で、毎月、優秀なエンジニアが入社してくる。社内での共通言語は数学だ。信用力のアップと新卒人材を採用するため、マザーズ市場への上場を目指している。
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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
同社は「ジャパンベンチャーアウォード(JVA)2018」で中小機構理事長賞を受賞している。主要部品を内製化し、組み立てまでを一貫して行うなど、日本のお家芸であるモノづくりを大切にすると同時に、ソフトウエア開発も積極的に行い、AI・クラウド化技術なども取り込んで、製造業IoT分野のフロンティアをリードしている。 (日刊工業新聞・中沖泰雄)

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