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博報堂がSDGsの日本語訳に取り組んだ理由

「自分の事」として伝わる言葉にこだわり
博報堂がSDGsの日本語訳に取り組んだ理由

博報堂グループが社員向けにSDGsの研修会を実施

 「1、貧困をなくそう」「2、飢餓をゼロに」。SDGs(持続可能な開発目標)に関心がある人にはおなじみの言葉だ。SDGsのアイコン(絵文字)に書かれた日本語訳は、博報堂DYホールディングス(HD)が制作した。

 同社の川廷昌弘CSRグループ推進担当部長は、国連総会でSDGsが採択された2015年9月、米ニューヨークにいた。採択を祝福してプロジェクションマッピングで彩られた国連本部を見ながら「広告会社としてできることがあるはずなのに、傍観者であることが恥ずかしくなった」という。

 そして「企業やNGOがバラバラに日本語訳をつけると普及の妨げになる」と感じ、国連広報センターに申し出てボランティアで日本語訳に取り組んだ。

 社内のコピーライターに依頼したが、初めは戸惑った反応だった。SDGsで掲げられた課題は以前から認識されており、インパクトに欠ける。

 そこでライターは「私にも呼びかけている」「私にも責任がある」と、読んだ人に“自分の事”として伝わる言葉にこだわった。目標9の「産業と技術革新の基盤をつくろう」は“呼びかけ”型だ。

 目標12の「つくる責任 つかう責任」は、もともと「持続可能な生産・消費」と訳されることが多く、企業だけの課題と思われがちだった。それが「つかう責任」としたことで消費者にも対象を広げた。ライターが苦心してひねり出した言葉は、日本のSDGsの標準語となった。

 “自分事化”は社内への浸透でも効果がある。18年1月の仕事始め、戸田裕一社長が新年のあいさつの冒頭でSDGsの理念「誰一人取り残さない」が、博報堂グループの理念である「生活者発想」と通じると社員に語りかけた。

 「外の言葉ではなく、自分たちの言葉でSDGsを語った。企業の言語で語ると社員も自分事になりやすい」(川廷推進担当部長)と実感した。

 同社にはSDGsを知りたい企業や自治体から問い合わせが来るようになった。そこで顧客のSDGsへの取り組みを支援するサービスを始めた。似たメニューを提供するコンサルティング会社もあるが、同社の強みはコミュニケーション。

 広告会社の本業を生かし、顧客の活動を社外に訴求できる。また「従業員向けにSDGsを理解してもらえる発信も支援する」(同)と社内浸透にも協力する。“自分事化”で得た経験を生かし、顧客の企業価値向上に貢献する。
日刊工業新聞2018年4月24日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
「言葉の力」を感じました。というか、言葉の使い方によって伝える力も変わってくるのだと。そして「広告会社としてできることがあるはずなのに、恥ずかしくなった」の川廷さんのコメントを「新聞社として」自分に置き換えてみたら(まさに自分事化)。やれることを十分にやっているのか反省をしたこともなく、恥ずかしくなりました。

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