芸能、スポーツ、農業 etc 「宇宙の活用」多分野で進む
何ができる? 誰もが参入できるようになった宇宙ビジネスの今
宇宙ビジネスの新規参入が活発化している。その背景や多様なビジネスモデルを書籍「宇宙ビジネス第三の波」の内容を抜粋して解説する。
アメリカとソ連の宇宙開発競争時代(第一の波)、宇宙ステーションに代表される国際協調と有人開発の時代(第二の波)を経て、これまで宇宙とは縁のなかった企業やベンチャーが宇宙ビジネスに参入する「第三の波」が起きている。
従来、「宇宙ビジネス」という言葉から連想するのは、ロケットや人工衛星。政府が限られた大企業に発注する「G2B」が主流だったが、ベンチャーなどによる多様なビジネスモデルとプレーヤーが誕生し、民間主導の流れが加速している。
日本においては、宇宙基本法、宇宙基本計画、宇宙工程表、宇宙活動法、「宇宙産業ビジョン2030」が制定され、官民が一体となってどのような取り組みが必要か、もしくは官が民をどのように支援したらよいか、民が独立採算事業として宇宙ビジネスを動かすための基盤が整備され始めている。
人工衛星やロケットといった宇宙インフラの技術がおおよそ確立され、応用や利用が進む時代になった。例えば位置情報技術の向上によって、数メートルだった精度は今では数センチまで高まった。また、リモートセンシング衛星が収集した画像データなどは購入できるだけでなく、画像認識といった人工知能技術を用いてより高付加価値なサービスを提供できる。
こういった動きから、例えばスポーツや農業、さらにはエンターテインメント業界など、これまで宇宙ビジネスとあまり結びつけて考えることがなかったような分野でも応用が進む。
新規参入を検討している民間企業にとって、宇宙ビジネスをどのように考えれば良いのか、その糸口として、人工衛星の種類と活用のメリットを以下に示す。
人工衛星は主に三種類ある。通信衛星、リモートセンシング衛星、測位衛星だ。
通信衛星は地球上から受け取った電波を受信し地球の広範囲もしくは所定の場所に送信する衛星。衛星放送やデータ放送が該当する。
リモートセンシング衛星は地球上の映像を撮る衛星。地球観測衛星と呼ばれている。気象衛星や安全保障・軍事偵察衛星も含まれる。
測位衛星は地球上の人やモノの位置を測るための衛星。GPSや「みちびき」が有名だ。
人工衛星を使うメリットとしては以下の6つがある。
1、多くの対象(人・モノ)に対して、同時に情報を提供できる(同報性)。
2、広域に情報を送信できる、広域の情報を収集できる(広域性)。
3、衛星は宇宙空間に存在するため、地球上の自然災害や事故の影響を受けない(耐災害性)。
4、秘密裏に情報を収集できる、秘匿すべき情報を対象者のみに送ることができる(秘匿性)。
5、地上のインフラを整備する予算よりも安価で済む(経済性)。
6、宇宙という特殊な空間を活用できる(特殊性)。
限られたプレーヤーだけだった宇宙ビジネスは、誰もが当たり前に参入できる市場となった。ただし、「宇宙」という言葉に夢や希望を抱くだけではなく、事業採算や顧客のニーズに応えるといった、ビジネスとして基本的かつ現実的な事柄に向き合っていくことが重要である。
宇宙ビジネスには、衛星やロケットを作る、もしくはそれらを利用するなどで多様なプレーヤーが存在している。最近の宇宙ビジネスにおける取り組みをいくつか紹介する。
・大型ロケットのコスト削減
主力ロケットの一回の打ち上げ費用は100億円が相場である。コスト削減のために、ロケットの第一段部分を再利用したり、宇宙用部品の代わりに民生用部品を活用したりするなどの検討・取り組みが進んでいる。SpaceX社のFalcon9が有名だ。
・航空機によるロケットの打ち上げ
航空機で一定の高度までロケットを運び空中発射すれば、発射場の設備費や運用費が削減できる、天候に左右されない、といったメリットがあり、すでに事例も多い。
もっと身近で意外な例もある。
・芸能プロダクションの宇宙ビジネス参入
2017年3月、芸能プロダクションのオスカーグループは芸能界初となる宇宙ビジネス参入を発表した。オスカーグループは、宇宙旅行が現実味を帯びてきており宇宙が生活に浸透し一般的になりつつあり、宇宙空間におけるエンターテインメントコンテンツの充実は今後早急に必要になってくると見ている。
・観光におけるビジネスモデル
測位信号を活用できるアプリケーションを観光客のスマートフォンなどにダウンロードしてもらえれば、自治体や観光ビジネス事業者は観光客の動きや情報に応じたリアルタイムで適切なマーケティングができる。VRを応用すれば、観光客がまさに立っている場所の情報を補える。
2018年4月17日、刊行された「宇宙ビジネス第三の波 NewSpaceを読み解く」(齊田興哉 著、日刊工業新聞社)は、宇宙ビジネスに関心のある幅広いビジネスマンや学生を対象としているが、宇宙ビジネスに関係がないとお思いの業界の方も、参入するための材料になるだろう。
本書は、宇宙ビジネスへの新規参入の勘所・考え方を様々なプレーヤーやビジネスモデルの視点を使い分け解説している。また、様々な分野の宇宙ビジネスモデルがどのような仕組みで成り立っているのか、各プレーヤーはどう関わりあっているのか、図解で俯瞰的に示しているため、事業戦略構築の良い手助けとなるはずである。
(記事の内容は書籍をベースに構成。文・平川 透)
齊田 興哉(さいだ・ともや)
1976年、群馬県生まれ、群馬県立前橋高校卒。
2004年、東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。2004年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入社し、人工衛星の開発プロジェクトに従事。2012年、日本総合研究所に入社。政府が進める人工衛星の整備および宇宙事業に係る業務に従事。専門は、人工衛星など宇宙事業に係るPFI事業、宇宙ビジネスである。
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宇宙ビジネスは政府主導から民間主導へ
アメリカとソ連の宇宙開発競争時代(第一の波)、宇宙ステーションに代表される国際協調と有人開発の時代(第二の波)を経て、これまで宇宙とは縁のなかった企業やベンチャーが宇宙ビジネスに参入する「第三の波」が起きている。
従来、「宇宙ビジネス」という言葉から連想するのは、ロケットや人工衛星。政府が限られた大企業に発注する「G2B」が主流だったが、ベンチャーなどによる多様なビジネスモデルとプレーヤーが誕生し、民間主導の流れが加速している。
日本においては、宇宙基本法、宇宙基本計画、宇宙工程表、宇宙活動法、「宇宙産業ビジョン2030」が制定され、官民が一体となってどのような取り組みが必要か、もしくは官が民をどのように支援したらよいか、民が独立採算事業として宇宙ビジネスを動かすための基盤が整備され始めている。
人工衛星はだいたい三種類。6つの活用メリット
人工衛星やロケットといった宇宙インフラの技術がおおよそ確立され、応用や利用が進む時代になった。例えば位置情報技術の向上によって、数メートルだった精度は今では数センチまで高まった。また、リモートセンシング衛星が収集した画像データなどは購入できるだけでなく、画像認識といった人工知能技術を用いてより高付加価値なサービスを提供できる。
こういった動きから、例えばスポーツや農業、さらにはエンターテインメント業界など、これまで宇宙ビジネスとあまり結びつけて考えることがなかったような分野でも応用が進む。
新規参入を検討している民間企業にとって、宇宙ビジネスをどのように考えれば良いのか、その糸口として、人工衛星の種類と活用のメリットを以下に示す。
人工衛星は主に三種類ある。通信衛星、リモートセンシング衛星、測位衛星だ。
通信衛星は地球上から受け取った電波を受信し地球の広範囲もしくは所定の場所に送信する衛星。衛星放送やデータ放送が該当する。
リモートセンシング衛星は地球上の映像を撮る衛星。地球観測衛星と呼ばれている。気象衛星や安全保障・軍事偵察衛星も含まれる。
測位衛星は地球上の人やモノの位置を測るための衛星。GPSや「みちびき」が有名だ。
人工衛星を使うメリットとしては以下の6つがある。
1、多くの対象(人・モノ)に対して、同時に情報を提供できる(同報性)。
2、広域に情報を送信できる、広域の情報を収集できる(広域性)。
3、衛星は宇宙空間に存在するため、地球上の自然災害や事故の影響を受けない(耐災害性)。
4、秘密裏に情報を収集できる、秘匿すべき情報を対象者のみに送ることができる(秘匿性)。
5、地上のインフラを整備する予算よりも安価で済む(経済性)。
6、宇宙という特殊な空間を活用できる(特殊性)。
限られたプレーヤーだけだった宇宙ビジネスは、誰もが当たり前に参入できる市場となった。ただし、「宇宙」という言葉に夢や希望を抱くだけではなく、事業採算や顧客のニーズに応えるといった、ビジネスとして基本的かつ現実的な事柄に向き合っていくことが重要である。
今、どのようなプレーヤーがいるのか?
宇宙ビジネスには、衛星やロケットを作る、もしくはそれらを利用するなどで多様なプレーヤーが存在している。最近の宇宙ビジネスにおける取り組みをいくつか紹介する。
・大型ロケットのコスト削減
主力ロケットの一回の打ち上げ費用は100億円が相場である。コスト削減のために、ロケットの第一段部分を再利用したり、宇宙用部品の代わりに民生用部品を活用したりするなどの検討・取り組みが進んでいる。SpaceX社のFalcon9が有名だ。
・航空機によるロケットの打ち上げ
航空機で一定の高度までロケットを運び空中発射すれば、発射場の設備費や運用費が削減できる、天候に左右されない、といったメリットがあり、すでに事例も多い。
もっと身近で意外な例もある。
・芸能プロダクションの宇宙ビジネス参入
2017年3月、芸能プロダクションのオスカーグループは芸能界初となる宇宙ビジネス参入を発表した。オスカーグループは、宇宙旅行が現実味を帯びてきており宇宙が生活に浸透し一般的になりつつあり、宇宙空間におけるエンターテインメントコンテンツの充実は今後早急に必要になってくると見ている。
・観光におけるビジネスモデル
測位信号を活用できるアプリケーションを観光客のスマートフォンなどにダウンロードしてもらえれば、自治体や観光ビジネス事業者は観光客の動きや情報に応じたリアルタイムで適切なマーケティングができる。VRを応用すれば、観光客がまさに立っている場所の情報を補える。
「宇宙ビジネス第三の波」好評発売中
2018年4月17日、刊行された「宇宙ビジネス第三の波 NewSpaceを読み解く」(齊田興哉 著、日刊工業新聞社)は、宇宙ビジネスに関心のある幅広いビジネスマンや学生を対象としているが、宇宙ビジネスに関係がないとお思いの業界の方も、参入するための材料になるだろう。
本書は、宇宙ビジネスへの新規参入の勘所・考え方を様々なプレーヤーやビジネスモデルの視点を使い分け解説している。また、様々な分野の宇宙ビジネスモデルがどのような仕組みで成り立っているのか、各プレーヤーはどう関わりあっているのか、図解で俯瞰的に示しているため、事業戦略構築の良い手助けとなるはずである。
(記事の内容は書籍をベースに構成。文・平川 透)
1976年、群馬県生まれ、群馬県立前橋高校卒。
2004年、東北大学大学院工学研究科を修了(工学博士)。2004年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入社し、人工衛星の開発プロジェクトに従事。2012年、日本総合研究所に入社。政府が進める人工衛星の整備および宇宙事業に係る業務に従事。専門は、人工衛星など宇宙事業に係るPFI事業、宇宙ビジネスである。
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