ニッポン造船、いざ反転攻勢へ!くすぶる再編論
市況に“薄日”、コスト競争力に勝る中韓勢とどう戦う?
市況低迷に苦しんできた造船各社が、構造改革を加速している。三井E&Sホールディングス(HD、旧三井造船)は1日付で造船事業を分社した。国内2位のジャパンマリンユナイテッド(JMU、東京都港区)は2013年の発足以来、初のトップ交代を行い、経営体制を刷新。造船市況回復に薄日が差し込む中、各社は分社や業務提携など踏み込んだ改革を志向してきた。コスト競争力に勝る世界2強の中国、韓国を追い上げるため、さらなる再編観測も出る。
日本船舶輸出組合(JSEA)が12日発表した輸出船契約実績によれば、17年度の日本の新造船受注量は前年度比約2倍の996万総トンとなった。
16年1月に施行の窒素酸化物(NOx)3次規制に伴う駆け込み需要があった15年度比では半分の受注量にとどまったものの、「増加傾向は18年も継続する。本格回復は18年度以降だろう」(日本造船工業会の加藤泰彦会長)と見通しは明るい。
環境規制の強化は造船業界にとって一層の追い風だ。国際海事機関(IMO)は、20年に硫黄酸化物(SOx)などの排出規制を決定しており、液化天然ガス(LNG)などが燃料の環境対応船の需要増を見込む。
LNG船などは日本勢も強く、「高付加価値船の受注・建造を加速し、中国、韓国勢を追い上げる」(JMUの三島愼次郎特別顧問)構えだ。
ただ、LNG船分野でも圧倒的な存在感を示すのは韓国勢だ。英調査機関クラークソンによると、LNG船の建造量世界一は韓国の大宇造船海洋。全世界のLNG船受注残115隻のうち、41隻を建造中だ。
日本勢がこれに対抗するには、設計やエンジニアリングなど付加価値の高い部分を担うか、受注ボリューム確保による建造コストの低減が不可欠となる。
三井E&SHDは2月、常石造船(広島県福山市)と商船事業の業務提携を発表。設計開発力やコスト競争力強化のほか、人材の相互融通や部材の共同調達など、幅広い協業を模索する。三井造船時代を振り返っても、造船事業で包括的な業務提携は初となる。
三井E&SHDの造船事業は18年3月期まで3期連続の営業赤字を見込んでおり、体質改善が急務。中国やフィリピンなど、海外に造船拠点を持つ常石造船の高いコスト競争力に期待する。
まずは、ばら積み貨物運搬船(バルクキャリア)など一般商船で連携するが、ガス船を常石の海外拠点で建造することも視野に入れる。
ガス船では常石以外の造船会社との連携もにらみ、全方位的に事業を拡大する方針だ。開発や設計などエンジニアリングサービスを造船会社に提供するビジネスモデルを描き、「自前主義からの脱却と、エンジニアリングビジネスへの転換を図る」(三井E&SHDの田中孝雄社長)。
一方、新体制をスタートさせたJMU。13年の設立以来社長を務めてきた三島特別顧問は、「フェリーや自動車運搬船といった新たな船種の競争力向上に一定のめどがついた」とし、千葉光太郎社長にバトンを託した。ただ、航海の前途は波が高い。足元では建造中のLNG船の工期が長引き、損失を計上。18年3月期は300億円規模の当期赤字となったもようだ。
JMUは13年にユニバーサル造船とIHIマリンユナイテッドが合併し、発足した。ユニバーサル造船の社長だった三島氏が、JMUの社長に就任。業界きっての再編論者として、国内造船業の再興を引っ張ってきた。後任の千葉社長は「再編メリットを最大限にするには、自社が強くならなければ」と力を込めた。
三菱重工業は1月に商船事業を分社し、三菱造船(横浜市西区)と三菱重工海洋鉄構(長崎市)を設立。一連の構造改革に終止符を打った。慢性的な赤字が続いた商船事業の分社を実現したことで、権限の明確化や意思決定の迅速化を図る。
28年度をめどに売上高2000億円(現状比約2倍)、営業利益率約10%の目標を掲げ、「造船業界でリーダーシップを執り、世界に発信できる造船会社でありたい」(大倉浩治三菱造船社長)と意気込む。
三菱造船は設計や調達・営業、中小型船の建造を担い、下関造船所(山口県下関市)を傘下に置く。今治造船、大島造船所、名村造船所との商船事業での連携も同社が担当。LNG船など高付加価値船でも協業を深める。
「中国や韓国の安値受注は続いている」―。業界関係者がこう嘆くように、両国はタンカーやバルクキャリアなどで赤字覚悟の安値受注を続ける。足元ではLNG船でも同様の傾向が出ている。
両国が安値攻勢をかけるのはなぜか。それは手持ち工事量の減少にある。一般的に受注残が年間建造能力の3年分あれば、安定操業の目安となる。両国の工事量は現在、1年半分の低水準であり、安値受注で量を確保し、ドックの稼働率を維持している。
両国の造船所は政府支援を受け、本来は淘汰(とうた)されるべき造船所を延命している。造工会の加藤会長も「公正な競争環境が阻害されている」と不快感を示す。
日中韓の3国で造船市場の90%を占める世界の造船業界。17年のシェア(竣工ベース)は中国36%、韓国34%、日本20%と水をあけられている。
コスト競争力で分が悪い日本勢は、同船型の船をロットで受注し連続建造によるコストダウンを図るのが定石だ。協業や提携で設計や購買を共通化できれば、コストメリットはさらに大きい。これが業界内に再編論が横たわる理由だ。
ただ、中国の合弁造船事業を拡大している川崎重工業の餅田義典常務執行役員は、「市況が悪いときに再編しても意味がない」と話す。環境規制対応など、当面は市況の回復・拡大が期待される造船業界。この間に長期的な事業継続に向けた最良の一手を紡ぎ出す。
(文=長塚崇寛)
環境規制でLNG船に商機
日本船舶輸出組合(JSEA)が12日発表した輸出船契約実績によれば、17年度の日本の新造船受注量は前年度比約2倍の996万総トンとなった。
16年1月に施行の窒素酸化物(NOx)3次規制に伴う駆け込み需要があった15年度比では半分の受注量にとどまったものの、「増加傾向は18年も継続する。本格回復は18年度以降だろう」(日本造船工業会の加藤泰彦会長)と見通しは明るい。
環境規制の強化は造船業界にとって一層の追い風だ。国際海事機関(IMO)は、20年に硫黄酸化物(SOx)などの排出規制を決定しており、液化天然ガス(LNG)などが燃料の環境対応船の需要増を見込む。
LNG船などは日本勢も強く、「高付加価値船の受注・建造を加速し、中国、韓国勢を追い上げる」(JMUの三島愼次郎特別顧問)構えだ。
ただ、LNG船分野でも圧倒的な存在感を示すのは韓国勢だ。英調査機関クラークソンによると、LNG船の建造量世界一は韓国の大宇造船海洋。全世界のLNG船受注残115隻のうち、41隻を建造中だ。
再編メリット生かす
日本勢がこれに対抗するには、設計やエンジニアリングなど付加価値の高い部分を担うか、受注ボリューム確保による建造コストの低減が不可欠となる。
三井E&SHDは2月、常石造船(広島県福山市)と商船事業の業務提携を発表。設計開発力やコスト競争力強化のほか、人材の相互融通や部材の共同調達など、幅広い協業を模索する。三井造船時代を振り返っても、造船事業で包括的な業務提携は初となる。
三井E&SHDの造船事業は18年3月期まで3期連続の営業赤字を見込んでおり、体質改善が急務。中国やフィリピンなど、海外に造船拠点を持つ常石造船の高いコスト競争力に期待する。
まずは、ばら積み貨物運搬船(バルクキャリア)など一般商船で連携するが、ガス船を常石の海外拠点で建造することも視野に入れる。
ガス船では常石以外の造船会社との連携もにらみ、全方位的に事業を拡大する方針だ。開発や設計などエンジニアリングサービスを造船会社に提供するビジネスモデルを描き、「自前主義からの脱却と、エンジニアリングビジネスへの転換を図る」(三井E&SHDの田中孝雄社長)。
一方、新体制をスタートさせたJMU。13年の設立以来社長を務めてきた三島特別顧問は、「フェリーや自動車運搬船といった新たな船種の競争力向上に一定のめどがついた」とし、千葉光太郎社長にバトンを託した。ただ、航海の前途は波が高い。足元では建造中のLNG船の工期が長引き、損失を計上。18年3月期は300億円規模の当期赤字となったもようだ。
JMUは13年にユニバーサル造船とIHIマリンユナイテッドが合併し、発足した。ユニバーサル造船の社長だった三島氏が、JMUの社長に就任。業界きっての再編論者として、国内造船業の再興を引っ張ってきた。後任の千葉社長は「再編メリットを最大限にするには、自社が強くならなければ」と力を込めた。
三菱重工業は1月に商船事業を分社し、三菱造船(横浜市西区)と三菱重工海洋鉄構(長崎市)を設立。一連の構造改革に終止符を打った。慢性的な赤字が続いた商船事業の分社を実現したことで、権限の明確化や意思決定の迅速化を図る。
28年度をめどに売上高2000億円(現状比約2倍)、営業利益率約10%の目標を掲げ、「造船業界でリーダーシップを執り、世界に発信できる造船会社でありたい」(大倉浩治三菱造船社長)と意気込む。
三菱造船は設計や調達・営業、中小型船の建造を担い、下関造船所(山口県下関市)を傘下に置く。今治造船、大島造船所、名村造船所との商船事業での連携も同社が担当。LNG船など高付加価値船でも協業を深める。
続く安値受注
「中国や韓国の安値受注は続いている」―。業界関係者がこう嘆くように、両国はタンカーやバルクキャリアなどで赤字覚悟の安値受注を続ける。足元ではLNG船でも同様の傾向が出ている。
両国が安値攻勢をかけるのはなぜか。それは手持ち工事量の減少にある。一般的に受注残が年間建造能力の3年分あれば、安定操業の目安となる。両国の工事量は現在、1年半分の低水準であり、安値受注で量を確保し、ドックの稼働率を維持している。
両国の造船所は政府支援を受け、本来は淘汰(とうた)されるべき造船所を延命している。造工会の加藤会長も「公正な競争環境が阻害されている」と不快感を示す。
日中韓の3国で造船市場の90%を占める世界の造船業界。17年のシェア(竣工ベース)は中国36%、韓国34%、日本20%と水をあけられている。
コスト競争力で分が悪い日本勢は、同船型の船をロットで受注し連続建造によるコストダウンを図るのが定石だ。協業や提携で設計や購買を共通化できれば、コストメリットはさらに大きい。これが業界内に再編論が横たわる理由だ。
ただ、中国の合弁造船事業を拡大している川崎重工業の餅田義典常務執行役員は、「市況が悪いときに再編しても意味がない」と話す。環境規制対応など、当面は市況の回復・拡大が期待される造船業界。この間に長期的な事業継続に向けた最良の一手を紡ぎ出す。
(文=長塚崇寛)
日刊工業新聞2018年4月16日