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安全の規制緩和なんてありえない!「産ロボの80W規制改正」を読む(後編)

安全技術の専門家による支援体制の構築を
安全の規制緩和なんてありえない!「産ロボの80W規制改正」を読む(後編)

北九州市が北九州学術研究都市で開講した「ロボット道場」。今後は、こうした地方機関の設置が必要とされる。

【セーフティ・システム・インテグレーションの啓蒙】
 課題解決に向け注目されるのは、日本機械工業連合会が提唱する「セーフティ・システム・インテグレーション」である。
 システム全体に対してリスクアセスメントを実施する行為を、そのように定義している。さらに説明すると、リスクベースの考え方にもとづいて制御ゾーンと制御ゾーン間のインターフェースで生じる問題を解決し、安全な作業現場を構築することとされている。具体的には、システム(全体)リスクアセスメントの実施に加え、リスク低減策(保護方策)の実施、バリデーション(Validation:妥当性確認、機能安全における「Vモデル」の実践など)、ドキュメントの整備(技術ファイルや適合性宣言書など)を担う。
 改正・労働安全衛生規則では、技術仕様書や取扱説明書などの技術ファイルに加え、安全規格の関連規定を満たしたことを宣言する適合宣言書の作成および提示を求めており、これらの実施を実質的に求められたと言える。

 一部SIなどでは、セーフティ・システム・インテグレーションを先取りして、社内に「セーフティアセッサ」の資格を持つエンジニアを抱える事業所がある。ところが、このような専門人材は依然として少ない。とりわけ、中小SIや中小ユーザー企業では、こうした専門人材の育成および確保は困難であり、これらの代行サービスを担う企業の育成が求められるだろう。少なくとも、今回の改定は、セーフティ・システム・インテグレーションの啓蒙普及ならびに、それによる専門人材の育成を喫緊の課題にしたといえ、関連団体には教育の機会創出が必要だ(写真)。

 併せて、安全性確保にかかる妥当な目標設定のための責任区分の明確化および合意にかかる問題を議論し、その仕組みを指導していくことも求められる。
 労働安全衛生規則では、その性格上、ユーザー企業のシステム採用責任者に最終的な安全性確保の責任があるとされる。ところが、上述の通り、中小ユーザー企業におけるこうした人たちは専門知識が不足している。システム承認が名目的なものとなり、事故防止の責任所在があいまいになりがちだ。そして、事故が発生した場合は、SI側のシステム承認者にも責任があり、双方に責任があるとして、結果、誰も責任をとらないという例が散見される。

 したがって、中小ユーザー企業においては、安全技術の評価能力を持つ人が安全管理者に助言してシステム承認をさせる、または、上記の通り、助言を担う外部の専門家の支援を受けることで承認の裏付けを担保するといった仕組みの構築と指導が必要だろう。さらにいえば、安易な安全への妥協を防ぐために、ユーザー企業とSIによる妥当性確認にかかるプロセスを、組織的に分けるよう規定(義務化)し、指導することも求められる。

【80W規制の正しい捉え方を】
 今回の改正において、もう1つ懸念されるのは、一部でロボットの導入促進のための「規制緩和」のごとく吹聴されていることである。
 確かに、今回の改正により人とロボットの協調作業が可能となり、従来設備を利用しつつ設置スペースをとらずにロボットを導入できるようになる。中小製造業に加え、産業用ロボットがあまり利用されていない3品業界(食品・医薬品・化粧品)へのロボットの導入につながるかもしれない。

 しかし、産業用ロボットメーカーにとってのビジネスチャンスは、このような導入台数の拡大ではない。協調作業の実現のために、自社製品(ロボット)に各種セーフティコンポーネントを取り込むことで、安全性確保にかかるソリューションの選択肢の拡大につながることにある。これまで軽視されるきらいにあった「セーフティ」を切り口に、ビジネスを拡大できるうえ、わが国が欧米に対し後発にある安全技術を高めていく機会を得たことに意義がある。

 また、従来法によるロボットの適用範囲の制限がロボット適用ラインの海外展開を加速しており、今回の改正が製造業の国内回帰につながるとの声も一部であるが、海外展開の判断は投資効果にあり、労働安全衛生法の改正とは関係ない。正しい見方にもとづいて議論がなされるべきだ。

 今回の改正を通じてなお、産業用ロボットメーカーならびにSIがユーザー企業に安全なシステムを提供するという本質はなんら変わりない。また、“安全を規制緩和”することはあり得ないことを、産業界全体として十分理解されることを望む。
ロボット産業・技術の振興に関する調査研究報告書(日本機械工業連合会)より再編集
今堀崇弘
今堀崇弘 Imahori Takahiro 大阪支社事業・出版部
大前提として、人共存環境下でロボットを運用することに「生産財としての価値」があるのかを議論する必要があります。例えば、三菱電機がJIMTOF2014で公開したシステムでは、作業者がロボットにワークを払い出すエリアを監視エリアとし、速度制限をかけることで瞬時にロボットを停止できるようにしています。作業者がロボットのすぐそばで作業をしつつ、任意にワークを払い出すことで生産工程にフレキシビリティをもたらしています。人との協調によるフレキシビリティさがキーワードになるでしょう。

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