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安全の規制緩和なんてありえない!「産ロボの80W規制改正」を読む(前編)

セーフティーへの理解度は発展途上
安全の規制緩和なんてありえない!「産ロボの80W規制改正」を読む(前編)

ハンドガイド装置によるロボットの操作の一例。自動車のインパネの組付け作業の支援に向け、IHIが研究しているシステム(IHI提供)。

 
 2013年12月24日、『産業用ロボットに係る労働安全衛生規則第150条の4の施行通達の一部改正』の通知がなされた。同年6月14日に閣議決定された規制改革実施計画ならびに近年の安全性確保にかかる技術レベルの実情を踏まえたものだ。日本国内では労働安全衛生規則が適用(優先)されるがゆえ、産業用ロボットを安全柵などを用いて人(作業者)と分離して使用する必要があり、作業者との共存・協調作業が認められなかった(ただし定格出力80W以下は除外)。

 かたや、産業用ロボットの国際規格ISO 10218-1:2011およびISO 10218-2:2011では、(1)ロボットの停止監視、(2)ハンドガイドによる操作(写真)、(3)人とロボット間の相対距離・速度監視、(4)ロボットの力制限の条件下では、人とロボットの共存・協調作業を認めている。今回の改正は国際規格に整合する。同時に、長らく問題視されてきた労働安全衛生規則と国際規格との差異の解消にもつながるといえよう。これを受け、2004年以降、ファナックがリスクレベルを低減した産業用ロボットを発表したり、三菱電機が速度監視の考えを取り入れた人―ロボット協調システムを公開したりしている。

 ただ、この改正で懸念されることがある。産業用ロボットメーカー(システムインテグレーターを含む)およびロボットユーザーがリスクアセスメントにもとづく適切な安全対策を講じることや、国際安全規格に準じた安全対策(例えばISO 12100:2010にもとづく3ステップメソッドなど)を講じることを求めている。にもかかわらず、中小システムインテグレーター(SI)ならびに中小ユーザー企業の知識レベルはいまだに低いことだ。

 この課題を扱った利用に、『設備の安全確保におけるSIの役割に関する調査』(三菱総合研究所、2011年)がある。「一般的な中小企業では安全基準を有していないことに加え、こうした企業からは安全に関する要求仕様が出てくることはないこと」。「中小SIはユーザーの仕様を満足するので精一杯で、安全性に関する国際規格を確認していない。要求仕様を満たすのみ」といったことを明らかにしている。結果、(中小)ユーザー企業の要求からSIが設備の安全性確保に妥協を強いられたり、SIが未然防止策として安全防護装置をセットアップしていたとしても、中小ユーザー企業がそれを無効化したりする例につながっている。本来、このような妥協はあってはならないことである。

参考となるが、厚生労働省 産業基準局が201年7月に実施した『産業用ロボットの労働災害等に関する実態調査』によると、調査した190事業所において、労働災害に至らなかったものの、労働者が産業用ロボットのマニピュレーターに接触しそうになった例が計37件把握されている。そして、産業用ロボットは機体の外部空間を自動的に作動しながらも、その作動方向および順序などが判断できないという特徴が、こうしたヒヤリ・ハットにつながっていると指摘している。安全性確保の取り組みが必須であることを伺える。
(後編は明日公開予定)
ロボット産業・技術の振興に関する調査研究報告書(日本機械工業連合会)より再編集
今堀崇弘
今堀崇弘 Imahori Takahiro 大阪支社事業・出版部
大前提として、人共存環境下でロボットを運用することに「生産財としての価値」があるのかを議論する必要があります。例えば、三菱電機がJIMTOF2014で公開したシステムでは、作業者がロボットにワークを払い出すエリアを監視エリアとし、速度制限をかけることで瞬時にロボットを停止できるようにしています。作業者がロボットのすぐそばで作業をしつつ、任意にワークを払い出すことで生産工程にフレキシビリティをもたらしています。人との協調によるフレキシビリティさがキーワードになるでしょう。

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