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サイロ組織を打ち破れ!大手商社「デジタル変革」への本気

IoT時代に新しいビジネスモデル創出へ
サイロ組織を打ち破れ!大手商社「デジタル変革」への本気

三井物産公式ページより

 大手商社がデジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)を加速している。双日、丸紅は4月にデジタル技術の活用を目的とした新部署の設置や組織改編を実施する。各社は従来の営業部門を軸とした縦割り組織に対し、デジタル技術の活用のため、部門間の連携を促す横断的な部署や役職などを新設。社内からアイデアを募り、実証実験に着手する。これまであまり得意としてこなかったBツーC分野にも積極的に取り組む。

 双日は4月にデジタル技術を活用し、新たなビジネスモデルの創出や業務効率の向上などを図るため、「ビジネスイノベーション推進室」を新設する。

 藤本昌義社長は「AI、IoTについては全体を見渡せる部署が必要」とし、経営と一体となった専任組織を新設する。室長には、双日のインドネシア現地法人社長の経験がある八田吉蔵アジア・大洋州総支配人補佐が就く。マネジメントの視点や幅広いビジネスの知見を生かす狙いだ。

 丸紅も4月に営業部門の枠を超えてIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)の活用を促進する「デジタル・イノベーション部」を新設する。現在の「IoT・ビッグデータ戦略室」を改組して事業室から事業部に格上げし、本格的な収益化につなげる。

 これまでIoT・ビッグデータ戦略室では、各営業部門からデジタル技術の活用で、既存事業の効率化や収益向上を図るアイデアを募集。新規性や実現性の高いものに助成金を出して、実証実験を行ってきた。実証実験は物流や小売り、電力などさまざまな分野で実施。助成金を出していないものを含めると、20件以上に達する。

 三井物産は1月、社内外の関係者がデジタル技術の活用について意見交換するスペース「d・space(dスペース)」を開設。dスペースには三井物産のICT事業本部をはじめ、IT関連の部門や部署から、担当者が3人程度常駐する。

 同社は17年5月にグループ全体でAIやIoTを活用するため「最高デジタル責任者(CDO)」を設置。これと併せ、各事業部門から数人ずつが参加する部門横断的なデジタルチームを組成した。

 デジタルチームを中心に、社内のアイデア20―30件を基に実証実験を進めている。

 北森信明常務執行役員CDOは「よろず相談員となって、営業部門から上がってくるアイデアや困りごとに対応する」と話す。三井物産では18年度中に外部企業の関係者によるdスペースの利用を可能にするなど交流範囲を拡大。より新規性の高いビジネスモデルやソリューションの創出を目指す。

 住友商事は16年4月から「IoTワーキンググループ」を発足し、同グループを17年4月からは「IoT&AIワーキンググループ」に改称。ワーキンググループでは、既存事業のデジタル化推進や、グループのIoT&AIプラットフォームの整備を進めている。

 現在、住友三井オートサービスを通じて自動車の車内カメラの画像を分析し、顧客に交通事故につながる可能性がある行動を知らせるサービスを提供中だ。

BツーC活発化。店舗改善提案・購買行動を予測


 大手商社のデジタルトランスフォーメーションは、これまであまり得意としてこなかったBツーCの分野の取り組みが活発なのが特徴だ。

 丸紅は子会社の丸紅フットウェアを通じて展開している米国の靴ブランド「メレル」において、IoTを活用した実証実験を行っている。コニカミノルタと協力してメレルの店舗にカメラを設置。購買行動のデータを分析し、データ同士の相関性を把握してマーケティングに生かすほか、店舗のレイアウトの変更や販促などの効果を可視化する。

 接客や試着と購買の関係性も分析し、天気や外部データを組み合わせた需要予測や購買につながるきっかけの発見につなげる。丸紅は将来、AIを活用した店舗改善の提案や顧客の購買行動予測なども手がけたい考えだ。
丸紅はグループの小売店舗で購買行動の可視化実験を行っている(メレル吉祥寺店)

 同様の取り組みは、伊藤忠商事もベンチャー企業と連携して手がけている。同社が17年3月に出資したAIなどを開発するABEJA(アベジャ)が開発した「アベジャ・プラットフォーム・フォー・リテイル」は、カメラの画像から客の購買動向を分析するAI。

 ディープラーニングを活用した独自の画像解析ソリューションで、カメラなどのセンサーから取得したデータを分析し、来店人数のカウントや年齢、性別などの属性の識別、回遊パターンや滞在時間などを定量的に可視化する。これをPOSデータと連携し、購入率を把握するなど、売り場の最適化につなげる。

 三井物産はタブレット端末付ショッピングカート「ショピモ」を活用し、購買行動のデータ化などを進めている。ショピモは店内に設置したビーコンで顧客の動線を把握し、ショピモが的確なタイミングでクーポンなどを配信する。三井物産が独自開発した。

 ショピモの本格展開を進める事業会社を通じて小売店が発行している会員システムなどと連動。個人の購買動向などと結びつけ、データを商品陳列に活用するなど、ビッグデータとしてマーケティングや店舗の改善につなげていく。

 リアルの店舗はネットショップと異なり、顧客の訪問数や滞在時間、購入率など、購買行動を数値化するのが難しかった。大手商社ではグループの小売店舗などを活用し、まず、BツーCの分野でデジタル技術の導入に取り組んでいる。
三井物産が開発し、事業展開するタブレット端末付ショッピングカート「ショピモ」

(文=高屋優理)
日刊工業新聞2018年3月22日
八子知礼
八子知礼 Yako Tomonori INDUSTRIAL-X 代表
 各商社が本気を出して組織を作って展開し始めたデジタル変革。縦割り型サイロ組織は、"IoT〜すなわち全てがつながっていく時代" において産業や組織間の境目に潜む課題をすくいきれずせっかくの "繋げる事業機会" を失うことになる。  単純に横串組織を作るのみならず、境目をまたぐ課題とそれらを繋いだ時の共通項を産業別ないしはドメイン別のプラットフォーム(ここでいうプラットフォームはITだけのことではなくパートナー企業までふくめたもの) に昇華する視点を持って取り組むことが重要だ。そしてこれは商社だけの課題ではなく、自分の専門性や分野ごとにタコツボ組織化しやすい日本企業すべての課題だ。

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