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がんの緩和ケア「あきらめることでは決してない」専門医からのアドバイス

コミュニケーション技術の高い医師にかかった患者は、不安や抑うつが少なく満足感が高い
 がんを治すのは困難だとしても、共存しながら生活の質を上げることはできる―。こうした「緩和ケア」の考え方が重要性を増している。これを早期に始めた患者は精神的苦痛が軽くなり、延命効果を得た事例もある。医師や患者は、進行・再発がんとどう向き合うべきなのかが問われている。

 【根治に難しさ】
 がんは根治を目指して手術や放射線治療をしても、目に見えない微細ながん細胞が残って再発する場合がある。離れた組織や臓器への転移もあり得る。

 前立腺がんを例に挙げると、転移が認められた場合は男性ホルモンの分泌や働きを抑制する薬剤が使われることが多い。これを行ったにもかかわらず病勢が進行した際は、抗がん剤が用いられる。

 抗がん剤も複数あり、「ドセタキセル(一般名)」が効かない患者に対しては「カバジタキセル(同)」が使われるようになってきた。同剤は臨床試験で対照薬に比べ2・4カ月の延命効果を示した。だが根治までは困難で、「特効薬とは言い難い」(勝俣範之日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授)。

 【緩和ケアで延命】
 新規抗がん剤は適正利用の知見が普及しておらず、重篤な副作用が起きる場合もある。カバジタキセルも発売3カ月後に五つの死亡例が報告された。

 勝俣教授はこうした現状を踏まえ、患者と医師が治療方針を決めることや緩和ケア導入を提言する。手術適応のない肺がん患者が緩和ケアと化学療法の併用で2・7カ月延命できたとの研究結果もあるという。まずは緩和ケア=終末期ケアとの思い込みを捨てることが必要だ。
(文=斎藤弘和)

 【専門医は語る/日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授・勝俣範之氏−情報と意思決定共有を】
 緩和ケアは「あきらめる」ことでは決してない。むしろ元気で長く生きられることにつながる。米国臨床腫瘍学会(ASCO)はがんが転移・再発した時点で緩和ケアを治療オプションとして提示すべきだとしている。がんを治すことは難しいことを認識し、過剰な抗がん剤治療を避けて生活の質を高めることも重視されている。

 治療方針を決める際に医師が誤ったインフォームド・コンセントを行う例もみられる。患者に責任を押しつけず、情報も意思決定も共有することが大切。国立がん研究センターの調査では、コミュニケーション技術の高い医師にかかった患者は不安や抑うつが少なく満足感が高かった。これは世界的にも注目されたデータだ。(談)
日刊工業新聞2015年07月02日 ヘルスケア面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
先日、俳優の今井雅之さんががんで亡くなるまでの一連の報道に疑問を呈する緩和ケアに関わる医師の記事が話題になっていた。「痛みに耐え抜いたことを称える論調はおかしい」と。痛みの感じ方や精神的な状態は個人差があり、何をもって患者が満足したのかを一般化するのは難しい。勝俣医師も指摘しているように、コミュニケーションをどこまでできるか。ただ一人の医師でやれることは限界があり、そこは家族やまわりの看護スタッフも含めて情報を共有していけるかがポイントだと感じる。

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