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商社が農業ドローンで“種まき”し始めた!

人手不足が深刻化、スマート農業で商機伺う。ベンチャーへの投資加速
商社が農業ドローンで“種まき”し始めた!

スカイマティクスの農業用ドローンは作物や品種などのデータ収集を行う

 商社が農業用ドローンを開発するベンチャー企業への出資などを通じて「スマート農業」の実現に向けた取り組みを強めている。三菱商事は日立製作所との共同出資会社を通じ、農薬を散布するドローンなど販売を推進。伊藤忠商事は既に出資していたドローンベンチャーへ増資したほか、住友商事も2017年出資したベンチャーを通じて新たな精密農業の実現を狙う。情報通信技術(ICT)を活用したスマート農業は、深刻化する担い手不足解消のためにも期待されている。

“熟練の腕”AI学習


 三菱商事が16年に日立製作所と共同出資で設立したスカイマティクス(東京都中央区、大口昌芳代表取締役最高経営責任者〈CEO〉)は、同じく三菱商事が出資するドローン設計・製造のプロドローン(名古屋市中区)と協力し、農薬散布ドローン「はかせ」、作物の生育状況を解析するドローン「いろは」を開発。17年7月から農業法人や自治体などに販売を始めた。

 ドローンの販売を始めて間もないスカイマティクスが目指すのは、作物や品種などのデータ収集だ。データを人工知能(AI)で解析すれば、作況の事前予測などと併せて農薬散布のタイミングを決めることが可能になる。また、これまでは経験や勘に頼りがちだった作物の病気の判断や薬剤の散布も、ドローンが自動で実行できるようになる。

 農家が農薬を散布する時期は限られており、農薬散布ドローンは常時必要なツールではない。このためスカイマティクスでは、単なる機材の販売だけでなく、散布のタイミングや薬剤の選択なども自動化したトータルのサービス提供を目指している。

 スカイマティクスの渡辺善太郎代表取締役最高執行責任者(COO)は「いかにデータを集められるかが今後の参入障壁になる」と話す。先手を打ってドローンを販売し、そこから得られる情報でサービスを拡充。競争力を高める戦略だ。

 伊藤忠商事のグループ会社のスカパーJSATホールディングスが16年に出資したドローン開発・製造・販売のエンルート(埼玉県朝霞市、瀧川正靖社長)は、多用途に対応する汎用性の高い機材の開発を進め、すでに約1000台を販売するなど国内のドローンベンチャーの中では実績がある。スカパーJSATはさらなるドローン市場拡大をにらみ、17年10月に9億円を増資。エンルートは新たな機体の開発などに生かす。

エンルートの農業用ドローンは、多用途に対応する汎用性の高さを訴求する

 エンルートがこれまでに販売したドローンの約半分は農業向けだ。現状、同社のドローンが最も多く活用されているのが、農業分野ということになる。エンルートの瀧川社長は「ドローンはそれまでの無線操縦ヘリなどに比べると安価で機動性が高く、散布のスケジュールもコントロールできる」とメリットを強調する。

 住友商事は産業革新機構とともに、センチメートル単位の精度でドローンが完全自動飛行する技術を開発したナイルワークス(東京都渋谷区、柳下洋社長)に17年10月に出資した。同技術はドローンが作物の上空30センチメートルの至近距離を飛行可能にする画期的なものだ。

ナイルワークスの農業用ドローンは、上空30センチメートルを飛行できる

 この技術により薬剤の飛散量を抑えるだけでなく、作物の生育状態を1株ごとにリアルタイムで診断することが可能となる。現在、診断結果に基づき、最適な肥料や農薬を、1株単位で散布する新たな精密農業の実現に取り組んでいる。出資各社は、ナイルワークスの農業用ドローンの開発や稲作農家向けの生育診断クラウドサービスなどの事業化などの展開を国内外で支援する。

若者呼び込む


 農林水産省の17年度版「食料・農業・農村白書」によると、国内の農業産出額のピークは1984年の11兆7000億円。15年は農産物価格の上昇で増加したものの、8兆8000億円にまで落ち込んでいる。

 農業就業人口は01年の382万人から17年は181万人へと半分以下に減少。雇用就農者の増加などで17年度は新規就農者が6年ぶりに6万人を超えたが、高齢化や後継者、人手不足による耕作放棄地の拡大などで厳しい環境にある。特に人手不足については、若い世代にとって魅力がなく、敬遠されているとの見方が多い。

   

 こうした中「農業に若い世代の流入を促せる」(瀧川社長)として期待されるのが「スマート農業」だ。スカイマティクスの農業用ドローンの開発に協力した、

 うねめ農場(福島県郡山市)の伊東敏浩社長は「ドローンの導入で、若い人の農業に対するイメージが変わる」と期待をかける。うねめ農場では現在、「はかせ」を発注し、納入を待っている。早期に数機に増やしたいと、ドローンの導入に意欲的だ。

 一方、プロドローンの河野雅一社長は「日本は規制が多く、市場拡大には時間がかかる」と指摘する。現状、ドローンの自動航行は認められておらず、農薬散布ドローンも散布中に操縦士が付いていなければならない。

 ドローンはいずれも、システムにルートを入力すれば、高い精度でルート通りに航行できるが、規制上、その機能が発揮できない状態だ。河野社長は「自動航行できなければ、ドローンのメリットを享受できない」と話す。

 瀧川社長はドローンに立ちはだかる規制の壁を取り払うには、「運航管理システムの整備が必要」と指摘する。安全性が担保できなければ、当局としても規制緩和に踏み切るのは難しい。

 自動航行の安全性を高めるには、ドローンの技術革新に加え、周辺の環境整備も市場拡大の必須条件となる。

 ドローンをはじめとした技術の導入によるスマート農業の活用を農業の活性化につなげたいという思いは、農水省や国土交通省を始めとした関連規制当局も共通している。官民一体で目的を共有して取り組めるかが、カギを握る。
日刊工業新聞2018年1月09日 深層断面
高屋優理
高屋優理 Takaya Yuri 編集局第二産業部 記者
ローテクの代表格である農業に、さまざまなテクノロジーが入ってくると、後継者不足など、構造的な課題にもメスが入れられ、期待が高まっています。ただ、普及には規制緩和も含めた、制度の整備が必要不可欠となっていて、ベンチャー企業を取材する中で、幾度となく、規制に縛られ、思うように事業を広げられないという話が出てきました。

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