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本格的なロボットのプログラミングに子どもたちが挑戦する意義とは?

WRSジュニア部門競技委員長・江口愛美氏「発想力、教材の限界突破」
 日本の小中学校でのプログラミング教育など、ロボット教育が世界的に広がっている。さまざまなロボット大会が存在する中、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主催する国際ロボット競演会「ワールド・ロボット・サミット」(WRS)ジュニア部門では、教材ではない本格的なロボットに子どもたちが挑戦する。ジュニア競技委員長の江口愛美・米ブルームフィールド大学准教授に狙いを聞いた。

―ロボット競技会として差別化する所は何ですか。

「ロボット教材を使った大会が多い中、WRSはソフトバンクの『ペッパー』を参加者に提供する。本格的なロボットで学ぶ機会になる。先に開いたトライアル大会では子どもたちはペッパーに人間と同じようなことを求めた。『保健室の先生が困っている』『図書室の司書さんが忙しい』など、学校にいる人やみんなを助けられないかとペッパーのアプリを開発した。教材ではない、本格的なロボットでないと出てこない発想だろう」

―ロボットを教育に使える背景は。

「プログラミング自体がとても簡単になった。アイコンをつないでプログラムを書くといった直感的な方法は幼稚園生にもできる。トライアル大会では小学生と中学生の混成チームが入賞した。大会の賞金が目的ではなく、楽しいからロボットに取り組めるようになった」

―日本でも公教育のプログラミング教育が本格化します。教員の養成が課題です。

「英国では大手通信のBTグループがサポートし、まず教員に指導するための教員を養成した。彼らが各学校に指導ノウハウを持ち帰って普及させた。日本でもWRSがきっかけになれれば素晴らしい。産業界は可能であれば教員養成に力を貸してもらいたい」

―企業が協力するメリットは。

「子ども一人ひとりにとっての原体験に関われることになる。自分で試行錯誤して、誰かの役に立ち、感謝される。この経験を共にできる。子どもたちが企業の支援に気付くのに時間はかかるかもしれない。しかし、どんな広告にも勝るだろう」

「先生たちの意識も変える必要がある。米国でも先生には『分からない』と言えないプレッシャーがあり、新技術となるとなおさらだ。これからは間違えない先生ではなく、一緒に成長してくれる先生が必要だ。変化を見つけるのは大人よりも子どもの方が早い。その変化を学びに結び付けることが先生の仕事になる。社会の変革点に企業が参画できる機会としたい」

(聞き手=小寺貴之)
日刊工業新聞2017年12月22日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
トライアル大会では子どもたちは宿題の手伝いや教室の掃除など、自分の課題に役立つアプリを開発すると考えられていた。結果は他人や社会の役に立つアプリが開発された。運営側の大人よりも子どもの方が視野は広かった。教育のための教材ではなく、社会で使われるロボットの効果だろう。大人たちが学びの限界を作っていたのかもしれない。

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