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羽ばたけ、地域ブランド 広がる地域団体商標の活用

羽ばたけ、地域ブランド 広がる地域団体商標の活用

嬉野は銘茶の産地

 伝統産業や特産品を持っていても、それだけではブランドに育たない。地域ブランドをどう盛りあげていくのかが、それぞれの地域に問われている。地域団体商標制度はそのためのツールの一つだ。2006年に制度がスタートしてから登録件数は619件(2017年11月末現在)に達した。地域経済の活性化につなげるべく、我が町のブランドで世界に飛び出していく事例も現れだした。

うれしの茶は隠れた銘茶


 「お茶の産地」でイメージする地域はどこだろうか。京都や静岡を思い浮かべる読者は多いと思うが佐賀県嬉野(うれしの)市を挙げる人はどれくらいいるだろう。実は同市を中心に栽培される「うれしの茶(嬉野茶)」は隠れた銘茶。生産量は少ないながら香りやコクに魅了されたファンは少なくない。10年程前には地域団体商標を取得。特許庁の補助事業「地域団体商標海外展開支援事業」を活用し、海外に販路を広げようと奮闘する。

 佐賀県茶商工業協同組合の橋爪英彦理事長は商標取得理由を「うれしの茶の定義をはっきりさせるため」と説明する。2007年、国内で食品の産地偽装問題が大きな議論を呼んだ。定義が曖昧であれば質の低い商品が「うれしの」の名で市場に出回る可能性がある。そこで組合員の同意を得てブランド保護を目的に商標を取得した。
佐賀県茶商工業協同組合の橋爪英彦理事長

シンガポールで試飲会


 国内を飛び出し世界に嬉野茶を発信するプロジェクトも着々と動きだす。日本貿易振興機構(ジェトロ)佐賀が事務局となり海外ブランド推進委員会を開催。組合や自治体、デザイン会社などが連携し、2018年1月のテストマーケティングに向けて準備を進める。海外初の試飲会の舞台に選んだのはシンガポール。東南アジアで大手が参入していないことや所得の高さ、残留農薬規制の面でも輸出しやすいと判断した。

 試飲会は高級住宅街にあるお茶の専門店で実施する。近隣住民のほかバイヤーを招き関係を強化する戦略だ。ブランドプロデューサーを務めるコムブレインズ(東京都新宿区)の井上俊彦氏は「うれしの茶を認知してもらい興味を持ってもらう」と意気込む。イベント終了後は写真投稿アプリ「インスタグラム」を通じ、興味を持った参加者の受け皿を確保。アプリで写真投稿を続け情報発信することで関係を絶たない仕組みを展開していく。

 一般にお茶で連想する色は緑。だが、「お茶=緑」を主体とするイベントは現地で飽きられる可能性がある。そこで着衣や製品デザインに白と黒を基調とした新たなブランドイメージを展開。生産量が少ないという希少性を打ち出し、数10グラムで数万円の商品もそろえる強気な価格設定で現地の反応を見る。

シンガポールでアピールするため器にもこだわり

 「地域団体商標海外展開支援事業」を通じ地域が一体となったブランド構築を進めている。現地での商流を確保し将来の輸出に向けた礎が築かれている最中。「うれしの茶」が海外で席巻する日は近いかもしれない。

堺の包丁、海外からも注目


 料理人の包丁さばきに目をこらしたかと思えば、自ら一心不乱に包丁を研ぐ。11月に堺市で開催された、海外からのバイヤー向けの堺打刃物PRイベントでの一場面だ。フランスや、イタリア、豪州、米国のキッチン用品店や食材店、レストランなどから13人が参加した。堺打刃物に特化した海外バイヤーの招へいはこれが初めてだが、イベント期間中に早くも仕入れを決断する参加者が出るなど反応は上々だった。

海外バイヤーが堺の包丁の切れ味を実感

 「銀座や築地などの名のある和食料理店では、ほぼ100%使われているのでは」と話すのは、堺市産業振興センター販路開拓課課長補佐の山中弘毅さん。堺の包丁は、鋼製の片刃、いわゆる和包丁である。寿司、割烹、懐石といった和食の料理人から愛用され、そこでのシェアは90%を超えるとされる。まさにプロ御用達だが、家庭用も含め世の中の大半はステンレス製で両刃の洋包丁。加えて他地域にある卸会社が自社ブランドで販売するケースが多く、「堺打刃物」の名は実は知る人ぞ知る存在。一般的な知名度は決して高くはなかった。堺刃物商工業協同組合連合会が「堺刃物」「堺打刃物」を地域ブランドとして登録した2007年当時、ブランドをことさら守る必要があったわけではなかった。

和食ブームで輸出拡大


 もっとも、この10年で状況は一変している。その背景にあるのが世界的な和食ブームだ。最近では堺刃物ミュージアムが入る堺伝統産業会館には中国などアジアから観光客が訪れ、熱心に見学していくという。和食レストランの多い米国向け輸出がまず立ち上がり、シンガポール向けも伸びている。そこで昨年、堺刃物商工業協同組合連合会はジェトロの支援も得て中国で商標を出願した。ゾーリンゲンやティエールといった刃物の産地を持つ欧州ではドイツ製やフランス製の包丁が主流で、これまで参入余地がなかったが、やはり和食ブームで和包丁への関心が集まっている。堺ブランドへの認知度が海外から高まっている格好だ。

一心不乱に包丁研ぎ(堺打刃物PRイベント)

 600年前、室町時代まで遡る堺打刃物。天正年間(1573年から1593年)に造られるようになったたばこ包丁からその名が全国に広がった。ただステンレス製の洋包丁の普及や、包丁そのものの需要減退などもあり、堺刃物商工業協同組合連合会の組合員数はピークの300社超から今では70社程度。生産量も右肩下がり。それが最近になって、輸出の拡大で底を打ったという。

将来見据え職人を養成


 ただ企業数とともに職人も減少してしまい、「5年、10年先を考えると危機」(山中さん)。足元では職人が減ったことで注文に応えきれない状況にさえある。そのため堺市産業振興センターでは2015年に「堺刃物職人養成道場」をスタートした。30人以上が応募し、その中から修了生8人が職人を目指して修行中という。山中さんは「10年以上前だったら募集しても人が集まらなかっただろう。和食や職人に対するイメージが高まっている」と追い風を感じている。
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尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
和食ブームで潤うのは京都ばかりかと思ってましたが、それを支えていたのが堺の包丁だったとは。勉強が足りませんでした・・・。良いことも悪いことも、実は日本人自身が日本のことを案外知らないという例は結構あるのでしょう。           

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