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トランプ大統領の就任にも反応する、老舗「笹かま」の味付け

「白謙のかまぼこ」、時代を超えて受け入れられる
 宮城の名産・笹かまぼこをつくり続けて100余年。白謙蒲鉾店(宮城県石巻市、白出哲弥社長)の商品が長年愛される理由は「いつまでも変わらない味」ではない。入念な市場分析に基づいた味や食感の工夫と、地道な革新が経営を支える。時代に寄り添い、変わり続けることが成長の源泉になっている。

 「笹かま」といえば、ソフトでコシのある食感、鍋に入れるとだしが出るほどのうまみが人気の食材。その味は「今日のかまぼこは、昨日のよりおいしくないとダメ」(白出征三会長)という執念が生み出している。

 材料はキチジ、スケトウダラ、グチの3種の魚をミックスする。それぞれ岩手県沖をはじめ、米国やタイから仕入れる。魚が傷つくとうまみが逃げ出すため、扱いに関しては現場とのコミュニケーションが欠かせない。

 魚は現地の工場ですぐさますり身にし、厳格な品質管理の下、マイナス60度Cのコンテナで運んでくる。成形後の店頭販売期限は48時間。消費期限は実質1カ月ほどだが、味が落ちるため、期限が過ぎると全て廃棄する。

 季節や社会の変化に合わせて、味も微妙に変えている。明確なのは季節の変わり目。春はうまみを多くし、夏は塩を濃いめに、秋は薄味といった具合。「人間も動物の一種。冬眠の時期は脂肪分を多くしている」という。

 東日本大震災前に販売していた塩分ひかえめの笹かま「海葉」も、顧客の要望に応えて復活。減塩志向の時流を反映した。防腐剤に対しても対応している。現在、魚肉練り製品などに使われるソルビン酸を使わないかまぼこを研究中で、いずれはすべて不使用にしていく考え。

 世相が血気盛んになれば、味付けもパンチの効いた濃いものにする。「トランプ米大統領の就任も味付けに影響した」(白出会長)のだ。ちなみに今年は「じっくり味わえる味」をテーマにしている。

 ずっと変わらない経営方針は「無理をしないこと」。設備投資でも、能力以上の借金はせず、積立金でまかなう。顧客の動向を見つめ、消費が停滞している時期の投資は控える。

 売れると思い込まず、新しい動きをする際は小さい工場で始める。工場や販売店を拡張する時も「いきなり大きな箱をつくっても意味がない」と人材育成と呼応する形で展開してきた。

 新たな技術の導入については大胆だ。ロボットを取り入れ、生産ラインの自動化を進める。単純作業を無人化すれば工場の24時間稼働もできるが、「完成品の検品は人間にしかできない」(同)。プラスチックやステンレス、骨などの異物を検知できないからだ。味覚も機械には分からない。味の最終チェックは取締役など責任者の仕事。おいしくないものは、製品ラインごと廃棄する。

 社是はシンプルに“お客さまの「満足」”。女性や子どもが「おいしい」と思うかどうか。変化の中に変わらない価値基準があるからこそ、「白謙のかまぼこ」は時代を超えて受け入れられている。
(文=仙台・田畑元)
日刊工業新聞2017年12月15日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
定番ビールなども微妙に味を変えていると言われるが、ここまで頻繁に変えているとは驚き。

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