ホワイトカラー職場で活用進むRPA、導入に潜む意外な落とし穴
人と協働する”仮想ロボット”として活用を
データ取得や入力、確認などの作業を人間の代わりに行う、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)が広がり始めた。画像認識や自動応答といった分野では人工知能(AI)の活用も進む。世界的にホワイトカラーの生産性が低いとされる日本で、RPAやAIは企業の生産性向上や働き方改革に欠かせない手段となる。活用状況と課題を探った。
納品データの管理リポートへのRPA導入では、これまで人力で行っていたデータのとりまとめや修正、リポートの作成をロボットに肩代わりさせて、作業時間が75%削減できた例がある。交通費や旅費の精算における照合・確認作業で、人間が3時間以上かけていた業務が、RPA導入により数秒で終わるようになった事例も報告されている。
現在は定型業務の自動代行が進んでいるが、今後は非定型業務にも自動化が広がることが予想される。国内では生産年齢人口の減少による労働力不足も深刻化しており、ロボットの活用などによる働き方改革の推進や労働時間の短縮が注目されている。AIとの組み合わせにより、より高度な仮想知的労働者(デジタルレイバー)が登場するのは確実だ。
そこで話題となるのが、「将来ロボットやAIに仕事が奪われる」「今まで人間がやってきた仕事の多くがなくなる」との懸念だ。「デジタルレイバーはミスもなく24時間働いて、採用と雇用のリスクがない」(大角暢之RPAテクノロジーズ社長)だけに、導入後の業務改善効果は高い。
一方、「働き方改革などと言って旗を振っても、現場はなかなか協力してくれない」(進藤圭ディップ次世代事業準備室室長)と、心理的な抵抗を指摘する声もある。ロボットやAIと人間との協働関係をいかに築いていけるかが、現場の運用では課題となりそうだ。
RPA導入に当たっては製作したロボットの適切な管理が重要だ。RPAツールの発達でロボットの製作が簡単になってくると、より多くのロボットが生み出され、さまざまな部門が活用するようになる。最初から管理体制をつくっておけば、メンテナンスの不備やセキュリティーの問題を回避できる。
住友林業IT子会社の住友林業情報システム(千葉市美浜区、三好敏之社長)では、各部門が製作したロボットを一種の「人材登録バンク」で一元管理している。
同社の成田裕一ICTビジネスサービス部シニアマネージャーは「5年後に必要になることを今やっておく」と、早期に管理体制をつくった理由を説明する。最初から一元管理しておけばロボットの増加や、業務の変更でロボットの作業手順が変わっても素早く対応できる。
「使わなくなったら廃棄することも必要。管理の目の行き届かない『野良ロボット』が発生することにもなる」(成田シニアマネージャー)。適切にメンテナンスされていないロボットは円滑な業務運営の妨げになる。不正利用のリスクも看過できない。
三菱東京UFJ銀行は16年度からRPAを本格導入し、17年度に約16万時間に相当する約80業務に適用する。住宅ローンの書類点検、株主総会議案の通知などを対象に将来は2000業務に拡大する方針だ。RPAやAI活用で23年度までに9500人分の業務量を削減する。
三井住友フィナンシャルグループは19年度までに1500人分に相当する300万時間分の業務量を減らす。規制強化で業務量増加が見込まれるコンプライアンス関連などが対象だ。
みずほフィナンシャルグループは17年度に約30万時間に相当する約100業務のRPA化を予定。すでに運用商品の口座開設の後方事務などに導入した。業務量削減とともに採用抑制と退職者増による自然減で26年度までに約1万9000人を削減する。
業界では低金利の長期化などで収益環境が悪化しており、RPAやAI活用でコスト競争力を強化する。浮いた人員は営業強化や成長事業に充てる方針で、平野信行三菱UFJフィナンシャル・グループ社長は「研修の仕組みを整備して人材を再教育することが重要」としている。
定型的な事務作業が多い金融業界はRPAと親和性が高い。中でも損害保険会社は先行している。三井住友海上火災保険はアクセンチュアと連携し、全社でRPA導入を進めている。
損保ジャパン日本興亜は、自動車事故の対応や保険金支払いなどを行う部門に試験導入。テスト結果を踏まえ、全国300拠点に導入するか検討する。東京海上日動火災保険は海外旅行部門や控除証明書の再発行作業で活用をスタートした。あいおいニッセイ同和損害保険も経営企画部門に試験導入している。
生命保険業界でもRPAの導入が進む。日本生命保険は銀行窓販事業部門にRPAを導入。女性が多い職場のため、親しみやすいよう「日生ロボ美ちゃん」の愛称を付けている。第一生命保険も全社にRPAを導入する方針。オリックス生命保険は自社のRPA導入経験を生かし、協力関係にある保険代理店のRPA導入を支援している。
アサヒグループホールディングスは社内のOAヘルプデスク業務で、7月からAIを活用した新システム「AIヘルプデスク」を導入した。AI活用で、社内の業務効率化や働き方改革をサポートする。
業務効率化のIT手段利用には、ツール技能向上が不可欠。パソコンなどで最新機器やバージョンを導入しても、使い始めの時期は「やり方がわからない」「誤ってデータを消去してしまった」といった操作エラー問題がひんぱんに起こる。
これらの社内問い合わせは従来、電話応対の専用人員が対応していた。人間が限られているため夜間や休日は対応することができないほか、一斉に同時にかかってくると最初の問い合わせしか対応できない。「社員はその間、仕事が手に付かないので時間のロスが問題。AIでこの解決を考えた」とIT部門の知久龍人ゼネラルマネージャーは説明する。問い合わせ業務の多くをAIに代替させ、効率向上を図る。ゆくゆくは海外にも活用する。
ロボット情報誌『TheROBOT』イノベーション×ビジネスでRPA、AIについて導入事例や最新事情を特集しています
人手不足…自動化広がる
納品データの管理リポートへのRPA導入では、これまで人力で行っていたデータのとりまとめや修正、リポートの作成をロボットに肩代わりさせて、作業時間が75%削減できた例がある。交通費や旅費の精算における照合・確認作業で、人間が3時間以上かけていた業務が、RPA導入により数秒で終わるようになった事例も報告されている。
現在は定型業務の自動代行が進んでいるが、今後は非定型業務にも自動化が広がることが予想される。国内では生産年齢人口の減少による労働力不足も深刻化しており、ロボットの活用などによる働き方改革の推進や労働時間の短縮が注目されている。AIとの組み合わせにより、より高度な仮想知的労働者(デジタルレイバー)が登場するのは確実だ。
そこで話題となるのが、「将来ロボットやAIに仕事が奪われる」「今まで人間がやってきた仕事の多くがなくなる」との懸念だ。「デジタルレイバーはミスもなく24時間働いて、採用と雇用のリスクがない」(大角暢之RPAテクノロジーズ社長)だけに、導入後の業務改善効果は高い。
一方、「働き方改革などと言って旗を振っても、現場はなかなか協力してくれない」(進藤圭ディップ次世代事業準備室室長)と、心理的な抵抗を指摘する声もある。ロボットやAIと人間との協働関係をいかに築いていけるかが、現場の運用では課題となりそうだ。
住友林業情報システム―ロボ“人材登録” 一元管理
RPA導入に当たっては製作したロボットの適切な管理が重要だ。RPAツールの発達でロボットの製作が簡単になってくると、より多くのロボットが生み出され、さまざまな部門が活用するようになる。最初から管理体制をつくっておけば、メンテナンスの不備やセキュリティーの問題を回避できる。
住友林業IT子会社の住友林業情報システム(千葉市美浜区、三好敏之社長)では、各部門が製作したロボットを一種の「人材登録バンク」で一元管理している。
同社の成田裕一ICTビジネスサービス部シニアマネージャーは「5年後に必要になることを今やっておく」と、早期に管理体制をつくった理由を説明する。最初から一元管理しておけばロボットの増加や、業務の変更でロボットの作業手順が変わっても素早く対応できる。
「使わなくなったら廃棄することも必要。管理の目の行き届かない『野良ロボット』が発生することにもなる」(成田シニアマネージャー)。適切にメンテナンスされていないロボットは円滑な業務運営の妨げになる。不正利用のリスクも看過できない。
銀行、保険で進む業務効率化
三菱東京UFJ銀行は16年度からRPAを本格導入し、17年度に約16万時間に相当する約80業務に適用する。住宅ローンの書類点検、株主総会議案の通知などを対象に将来は2000業務に拡大する方針だ。RPAやAI活用で23年度までに9500人分の業務量を削減する。
三井住友フィナンシャルグループは19年度までに1500人分に相当する300万時間分の業務量を減らす。規制強化で業務量増加が見込まれるコンプライアンス関連などが対象だ。
みずほフィナンシャルグループは17年度に約30万時間に相当する約100業務のRPA化を予定。すでに運用商品の口座開設の後方事務などに導入した。業務量削減とともに採用抑制と退職者増による自然減で26年度までに約1万9000人を削減する。
業界では低金利の長期化などで収益環境が悪化しており、RPAやAI活用でコスト競争力を強化する。浮いた人員は営業強化や成長事業に充てる方針で、平野信行三菱UFJフィナンシャル・グループ社長は「研修の仕組みを整備して人材を再教育することが重要」としている。
定型的な事務作業が多い金融業界はRPAと親和性が高い。中でも損害保険会社は先行している。三井住友海上火災保険はアクセンチュアと連携し、全社でRPA導入を進めている。
損保ジャパン日本興亜は、自動車事故の対応や保険金支払いなどを行う部門に試験導入。テスト結果を踏まえ、全国300拠点に導入するか検討する。東京海上日動火災保険は海外旅行部門や控除証明書の再発行作業で活用をスタートした。あいおいニッセイ同和損害保険も経営企画部門に試験導入している。
生命保険業界でもRPAの導入が進む。日本生命保険は銀行窓販事業部門にRPAを導入。女性が多い職場のため、親しみやすいよう「日生ロボ美ちゃん」の愛称を付けている。第一生命保険も全社にRPAを導入する方針。オリックス生命保険は自社のRPA導入経験を生かし、協力関係にある保険代理店のRPA導入を支援している。
飲料メーカーでは社内ヘルプデスクにAI活用
アサヒグループホールディングスは社内のOAヘルプデスク業務で、7月からAIを活用した新システム「AIヘルプデスク」を導入した。AI活用で、社内の業務効率化や働き方改革をサポートする。
業務効率化のIT手段利用には、ツール技能向上が不可欠。パソコンなどで最新機器やバージョンを導入しても、使い始めの時期は「やり方がわからない」「誤ってデータを消去してしまった」といった操作エラー問題がひんぱんに起こる。
これらの社内問い合わせは従来、電話応対の専用人員が対応していた。人間が限られているため夜間や休日は対応することができないほか、一斉に同時にかかってくると最初の問い合わせしか対応できない。「社員はその間、仕事が手に付かないので時間のロスが問題。AIでこの解決を考えた」とIT部門の知久龍人ゼネラルマネージャーは説明する。問い合わせ業務の多くをAIに代替させ、効率向上を図る。ゆくゆくは海外にも活用する。
ロボット情報誌『TheROBOT』イノベーション×ビジネスでRPA、AIについて導入事例や最新事情を特集しています
日刊工業新聞2017年11月29日