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ロボットデザインの今、家庭内での“あるべき姿”とは?

二人のデザイナーに聞く
ロボットデザインの今、家庭内での“あるべき姿”とは?

SOCIAL ROBOTICSが開発している飲食店用ロボット

 ロボットと人が共生する時代が近づいている。生活の中で活躍するロボットの“あるべき姿”とは何か。デザインにこだわりロボットの開発を進める起業家2人に、想いを聞いた。

小山久枝VECTOR社長


 -ロボットのデザインでどんな点を重視していますか。
 「当社では自動車メーカーで長年活躍したデザイナー(VECTOR創業メンバーの大熊栄一氏)が、デザイン業務を担当しています。数十万台規模で売れるモノを手がける中で得た経験値は、大きいと思います。結果として、当社から出てくるロボットの外観は一風変わっています。一般的にロボットの設計では、機構の美しさが重視されがちです。例えばアクチュエーターの動きがよく見えるように、あえてカバーをつけないこともあります。これに対し、当社はデザインを先に考えます。形にこだわり、まず絵を描き、それに合わせて製品を作る流れです。自動車と似た方式であり、他のロボットとは大きく異なるのではないでしょうか」

 -そうしたやり方にこだわる理由は。
 「優れたデザインの車に対して『乗ってみたい』と人が反応するように、『触ってみたい』『使ってみたい』と思わせることが狙いです。『難しそう』と思わせてはいけません。『私にもできるかも』と人が自然に惹きつけられるようなロボットが理想です。そのためには、人間に歩み寄ったデザインが必要だと思います」

 「また、ロボットはあくまで“道具”ということも大事です。その意味では『かっこいい』とか『部屋に飾ってみたい』ではダメで、やはり『使ってみたい』でないといけません」

 -小山社長の女性ならではの視点も製品に反映されていると思います。デザイナーにはどんな要望を出していますか。
 「ロボットの開発はどちらかというと男の世界です。一方、ロボットの活用が期待されているのは、家庭や介護現場など女性が主に活躍する分野です。家事などの経験も活かしながら、ニーズに合ったロボットを生み出したいと思っています。デザイナーには、最初に絵を描く段階で、なるべく使う人や場面なども描くように言っています。初めからその部分を真剣に考えないと、製品サイズなどが場違いになってしまいます。例えばカフェの中で使うロボットなら、開発を始める時にまずお客さんや店員の動きを考えないといけません」
 
 -課題はどこにありますか。
 「家庭や介護現場では、ユーザーは技術者ではありません。実証実験では、誤操作により故障してしまうこともありました。ユーザーが悪かったのではなく、だれでも簡単に間違えずに使えるような工夫・改良が必要だと思っています」
「ロボット活用が期待されているのは、女性が主に活躍する分野」(小山さん)

【略歴】
 小山久枝(こやま・ひさえ)1955年生まれ。出版社、編集プロダクションなどでの勤務を経て、2010年に自動車デザイナーの大熊栄一氏らとVECTORを設立。同社では工業デザイン、商業デザインの企画などを手がける。また、2015年からは菊池製作所、首都大学東京と共同で立ち上げたSOCIAL ROBOTICSの社長として、生活支援ロボット、案内ロボットなどの開発を進めている。山梨県出身。

松井龍哉フラワー・ロボティクス社長


 -ロボットのデザインで重視している点は。
 「英語で『design』の意味は、構造設計やプログラミングなども含む非常に幅広いものです。外観、意匠といった要素だけではありません。工業デザインはキャラクターデザインなどとは全く異なるものです。その上で話をすると、良いデザインを生むのに必要なのは、製品がどういう用途で使われるかを開発側がしっかり考えることだと思います。例えば産業用ロボットならば、工場という空間の中でどう動けば“正解”かを、まず明確化すべきです。そして、設定した正解と設計をマッチングする作業がデザインです。“どんな技術をどれくらいの頻度で使うか”によって、ソフトウエア、アクチュエーター、センサー、インターフェース(人との接点)のあり方などが自然と決まり、製品の姿が形作られていきます。その意味では、製品の使われ方と稼働環境が、初めから最良のデザインを知っていると言えます」

 -現在は家庭用ロボットの開発を進めていますね。
 「今後数年で家庭のIoT(モノのインターネット)化が急速に進むと思います。その中でロボットはインターフェースとして大きな役割を果たせるはずです。人間の視界が及ばない所までロボットや家電製品のネットワークが構築されることで、生活環境を守ったり家の中の状況を外に伝えたりすることも可能になります」
フラワー・ロボティクスが開発を進める家庭用ロボット

 「今開発しているロボットは、周辺の状況を認識して自律的に動き回るのが特徴です。例えば見守りや空気清浄など、必要に応じてさまざまな機能を搭載できるようにします。この“機能が動き回る”仕組みをデザインする中で、製品のふさわしい姿は決まります。大事なのは製品自体の主張は極力抑え、ユーザーが家庭の中で自然に使えるようにすることです。ロボットを主役として位置付けるのはナンセンスです。人間が目的に到達する過程のどこでロボットが役に立つかという観点でデザインしないと、その製品はすぐに飽きられてしまいます」

 -ロボットと共生する時代では、どんなデザイン人材が求められますか。
 「机や椅子といった製品を生み出してきたこれまでの時代から大きく変わることはありません。大事なのは人の生活にとって何が必要かです。生活の中の課題を“発見する力”が、今後も求められるのではないでしょうか」
「製品の使われ方と稼働環境が、初めから最良のデザインを知っている」(松井さん)

【略歴】
松井龍哉(まつい・たつや)1969年生まれ。1991年日本大学芸術学部卒業後、丹下健三・都市・建築設計研究所を経て渡仏。科学技術振興事業団にてヒューマノイドロボット「PINO」などのデザインに携わる。2001年フラワー・ロボティクス社を設立。ヒューマノイドロボット「Posy」「Palette」などを自社開発。現在、自律移動型家庭用ロボット「Patin」を開発中。東京都出身。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
ロボットも最終的に機能によって決まっていくと思う。その過程でテクノロジーの進化もあるが。29日から始まる「国際ロボット展」でもさまざまなデザインのロボットが出展されるので注目下さい。

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