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資生堂を支える「母なる」工場!掛川大改革に迫る

資生堂を支える「母なる」工場!掛川大改革に迫る

資生堂の製品(参考)

 資生堂の掛川工場(静岡県掛川市)はメーキャップ製品を中心にスキンケア製品、医薬品、ヒアルロン酸の生産を手がけ「メーキャップ製品のマザー工場」と位置づける。敷地内に5工場を構え、植物栽培実験棟や自社農園なども併設。約850人が口紅やファンデーションなどを製造する。1975年の稼働から今年で40周年を迎え、新技術採用など積極的に進めている。

あの化粧品の陰に3Dプリンター技術


 「2014年度の生産実績は約1億1000万個。前年比1・12倍と好調だ。メーキャップブランド『マキアージュ』の新製品の発売やインバウンド需要などが主な要因」と、掛川工場の南孝司工場長は説明する。生産量の増加傾向を支えるのが新技術の導入。13年に3Dプリンターを導入し、ファンデーションやアイシャドー、チークなどの粉を押し固める樹脂製の型を製作している。3Dプリンターで樹脂製の型を作成し、製品のデザインがイメージ通りできるかを確認する。
 「従来は図面を数値設定し、切削加工して試作品を作るまで数週間が必要だった。特に直線的で幾何学的なデザインしか表現できず苦労した」。生産技術開発センターの阿曽大輔プロセス価値開発グループリーダーはそう振り返る。粉を型で押し固める成型は難易度が高い。「チョコレートとらくがんの違い。チョコは型に流し込んで冷やして固めると線がはっきりと出るが、らくがんは押し固めてもぼんやりとした線になる。化粧品も同様だった」(阿曽グループリーダー)という。

作業時間を短縮した「セル生産」


 それが3Dプリンターの導入で表現の幅が大きく向上。光造形技術を用いてペン型デバイスで自由設計でき、「曲線も組み入れた複雑なデザイン表現が可能となった」(同)。生産量の少ない製品は3Dプリンターで作成した樹脂製の型で実際の製品を製造する。「作業時間も数週間から数時間―1日に短縮。東京本社ともリアルタイムで打ち合わせでき、飛躍的に効率化できた」(同)。今後は立体的な花模様の曲線など、女性の感性に響く容器デザインの開発などに活用する。
 同工場では生産ラインを短くして効率化も図った。以前は小ロットの製品も大量生産ラインで生産していたが、「一人の手が止まると全員の手が止まる」(南工場長)ため、1人で製造・検品・梱包する仕組みに改めた。全長約20メートルの大量生産ラインは十数人体制なのに対し、1、2人で生産する長さ約2メートルのセル生産ラインを導入。切り替え時間短縮など、小ロット製品の生産性が大幅に向上し、「1人当たりの生産個数は(一般的な製品で)1日1000個以上可能」(同)。

イノベーション生む「創談室」


 技能伝承、若手継承のため09年には優秀な技術を持つ工員による「匠工房」も設置した。常駐する5人の熟練工員に加え、現場で生産しながら設備を作成する内製技術者が38人(うち女性3人)所属。14年4月には匠工房の機能を「加工室」「創談室」に分けた。「加工室」では生産設備や各種装置などを、設計し製作・加工する。「創談室」では生産現場の改善、加工技術の開発、製造技術・設備の設計・加工を行う。新たな生産イノベーションについて気軽に相談する場として、名前は「相」談室ではなく「創」談室とした。南工場長は「自社設計により外注を省き時間短縮やコストダウンにつながった」としており、さらに取り組みを強化する。
(山下絵梨)
日刊工業新聞2015年06月23日 建設・エネルギー・生活面
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
華やかな印象の化粧品メーカーですが、流行に敏感な女性たちの厳しい目に常にさらされています。それに応えるべく新技術や改革を積極的に取り入れる工場だからこそ、魅力溢れる製品が生まれるのでしょう。

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