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倉庫からラストワンマイルまで。「物流×ロボット」大革命

倉庫からラストワンマイルまで。「物流×ロボット」大革命

MUJINが構築したピッキングシステム(アスクルの物流センター)

 社会システムを一人の人間に例えるなら、物流は企業や家庭に栄養を運ぶ動脈に当たる。いま日本の物流現場では深刻な人手不足から“動脈硬化”に陥っている。解決策としてロボット技術や人工知能(AI)の導入が期待される。法制度の整備やクリアすべき技術的課題もあるものの、さまざまなタイプのロボットが現場に投入されつつある。

中国に全自動の大型物流施設


 世界初の全自動の大型物流施設が中国・上海で2018年2月に稼働する。中国インターネット通信販売2位のJD.com(京東商城、北京市)の物流センターだ。

 専門的な分野ながら、自動化技術を説明した中国の動画サイトは、アップされてすぐ760万回再生に至った。ロボットをふんだんに採り入れ、人が介在するスペースを取らず、一般的なカゴ台車ではなく、上階から荷物を袋に落とし自律移動するロボットがまとめて運ぶ、といった大胆で斬新(ざんしん)な工夫も目立つ。

 採用された数あるロボット技術の中でも、最も重要な部分を担うのが、実は日本のベンチャー企業MUJIN(東京都墨田区)だ。倉庫内に18台の多軸ロボットや独自のコントローラーなどのシステムを納入する。

 MUJINが担うのは、入庫商品の登録とピッキング、梱包(こんぽう)作業。すべて自動化が困難な工程だ。センターにはさまざまな大きさの商品が届く。

 従来の技術では、形や大きさが違う商品を一つずつロボットが取り出す作業が非常に困難だった。MUJINは多軸ロボットの制御を得意とし、的確に商品の位置や形を認識しロボットが自動で動いてつかむ「ピックワーカー」というコントロール技術を持っている。その技術が採用された。

 上海のセンターでは、6台のロボットシステムが自動で一つずつ商品を取り出してバーコードを読み取り入庫登録する。また、個別配送の出荷で、自動倉庫から取り出した箱から必要な商品を取り出しつつバーコードを読み取る作業に8台、梱包で4台のロボットが稼働する予定という。

 MUJINはカゴ台車からの商品取り出しや、コンテナからの取り出し技術も確立した。自動倉庫など既存の自動化技術と組み合わせることで、センター内の全自動化に貢献するめどをつけている。

AGVも続々登場


 物流分野では無人搬送車(AGV)の技術も高まり、台車の搬送を担うロボットが数多く登場している。倉庫内の荷物の搬送や、人手による仕分け作業を行う場所へ商品を積んだ棚を届けるといった作業を自動化できる。
倉庫では無人搬送車が活躍(インドのグレイオレンジの搬送ロボット「バトラー」)

 物流センターを中心としたサプライチェーン・マネジメント(SCM)領域の基盤を手がけるGROUND(東京都江東区)は、インドのグレイオレンジの搬送ロボット「バトラー」を活用したシステムを提案している。バトラーは下から台車を持ち上げて搬送する。小規模で試験的に立ち上げ、徐々に規模を拡大することが容易なことが特徴だ。

 日立製作所は小型・低床式の搬送ロボット「ラックル」のほか、AI技術を駆使した次世代物流の実証実験を進めている。ロボット、人間双方の業務を統合管理でき、生産性向上につながる。AIが導き出す業務改善のデータを現場に組み合わせることができ、迅速に分析や検証が行える。

古くから自動化を推進


 物流の歴史をひもとくと、国内の物流システムメーカーは古くから自動化、省人化を推進する機器提案に積極的だった。大量生産・大量消費時代が幕を開けた1960年代には人手作業だったパレット積みを機械化する国産第一号の「パレタイザ」が発売されている。

 手がけたのは物流システム大手のオークラ輸送機(兵庫県加古川市)で、同社は多品種少量ニーズが高まり始めた80年代には「ロボットパレタイザ」などを投入。現在は主力のコンベヤー、仕分け機、自動倉庫、ピッキングシステムなどを顧客ニーズに合わせて組み合わせたソリューション提案で物流工程をサポートしている。

 物流システム世界首位のダイフクや同4位の村田機械、オークラ輸送機など、日本には大手企業が多い。業界・地域を問わず、工場の工程間搬送や物流センターの自動化・効率化では、自動倉庫などの保管設備、ソーターやピッキングシステムなどの仕分け機、コンベヤー、AGVなどがすでに活躍している。

 物流の付加価値向上が企業競争力を左右する時代となり、これら企業への注目度がかつてないほど高まっている。物流システム世界5位の蘭ファンダランデを豊田自動織機が5月に買収したことなども、その表れと言えそうだ。昨今の人手不足や、ネット通販拡大による宅配物流量増加などを背景に、商品のピースピッキング作業などへのロボット本格導入も進みつつある。

 ロボット技術を融合した物流システムなどの提案では、物流システム大手とロボットベンチャーらが協業する動きも目立つ。物流システム大手企業はシステムインテグレーターとして、ロボットやAI(人工知能)などの次世代技術を重視。大規模や中規模クラスの物流センターでは自動倉庫、物流管理システム、ロボットなどの組み合わせで生産性を向上し、省人化、出荷精度を高める取り組みが加速している。

 もちろんロボットは万能選手では無い。物流現場では大量に流れる物品がある一方で、1週間に数個しか流れないようなものもある。一定時間に定量を流す工場と異なり、ネット通販などの物流センターは直前のオーダーに迅速対応が必要。形状、材質、個数などで多種多様な製品バリエーションがあるため、ロボットの得意・不得意を踏まえた最適な物流システムの構築が今後ますます求められる。

ラストワンマイルにもロボット


 最近よく耳にする「ラストワンマイル」。物流業界では、エリアごとの配送センターから配達先までの最後の行程のことを指す。このラストワンマイルもトラック運転手の不足で既存の仕組みの維持が危ぶまれる。当然、ロボット技術による解決への期待は大きい。
欧米では出前ロボットの実用化が進みつつある(「スターシップロボット」)

 欧米を中心に実用段階へ進みつつあるのが車輪を備えた出前ロボットだ。エストニアのスターシップ・テクノロジーズの「スターシップロボット」は高さ60センチメートル。6輪で人間の歩く速度で移動する。

 無人で配送でき、受け取る人は家にやってきたロボットのフタを開けて受け取れば良い。車道を走るのではなく、歩道をゆっくり走行する点が技術や制度、安全性のハードルを下げた。

 一度行った場所は記憶でき、オペレーターは最初だけ操作してやれば、次回からリピーターの配達先に向かうときは監視するだけになる。一人が複数台を管理できるようになり生産性も高まる。米ドミノ・ピザが採用している。アメリカのマーブルも同様のロボットを開発、フードデリバリー企業と提携してサービスを始めた。

 日本では、自動運転技術を持つZMP(同文京区)が出前ロボット「キャリロデリバリー」のプロトタイプを開発した。寿司(すし)の宅配事業を展開するライドオン・エクスプレス(同港区)と実証実験を行った。同ロボットは最大積載量が100キログラムと大型なことが特徴だ。日本で歩道の自動走行を可能にする環境整備を呼びかけていく。

ドローンが配達


 飛行ロボット(ドローン)によるラストワンマイルも実証実験が進む。ドローン研究の第一人者である野波健蔵千葉大学特別教授(自律制御システム研究所社長)によると「離島や山間部などはドローンで配送した方がトラックより効率的」と利点を挙げる。ただ、自律飛行や目視外飛行などの実用化には安全性や法制度の整備が不可欠で、かつドローンは墜落の危険性があるため他の新技術より厳しく見られる。
ラストワンマイルではドローンにも期待(楽天が実証実験に使用しているドローン)

 楽天とローソンはドローン配送の実証実験を福島県南相馬市で始めた。ドローンと移動販売車を組み合わせ、買い物の利便性を高めて地域コミュニティーを活性化する。移動販売車が扱っていない商品や、温かい食べ物の注文があると、ローソンの店舗からドローンで販売車へ届ける。楽天はドローン配送に積極的で、ゴルフ場内での配送も実施した。

 ソニーとZMPが出資するエアロセンス(同文京区)は、航空機型のドローンを使って医薬品などを離島に輸送する実証実験を福岡県内で始めている。航空機型のドローンはスピードの速さと航行距離の長さが売り。同社のドローンは垂直離着陸ができ、離着陸場のスペースがさほど要らない。

自動運転車による実験も


 将来的な自動運転による配送サービスに向けた実験も始まった。ディー・エヌ・エー(DeNA)とヤマト運輸は、次世代物流サービスの実現に向けたプロジェクト「ロボネコヤマト」を神奈川県藤沢市で進めている。

 荷物を受け取る人がスマートフォンなどから配送先や時間を指定すると、電気自動車(EV)が指定場所に来る。ドアを開けるとロッカー型の保管ボックスがあり、スマホのバーコードをかざすなどで認証してボックスを開け、荷物を受け取る。仮想地域商店街で買った商品の受け取りも可能だ。現在は有人のEVで配送しているが、将来は自動運転車を利用したいという。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
最近のロボットによる自動化の事例がコンパクトにまとめられています。

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