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トヨタの車体塗装は中東で輝くか

技能五輪国際大会に挑む深見選手「作業者の“カン・コツ”に頼る部分が大きい」
トヨタの車体塗装は中東で輝くか

マスキング作業を進める深見勇斗さん(左)

 「車体塗装」職種には、2013年、15年に続いて3大会連続でトヨタ自動車が出場する。深見勇斗選手は、「日本品質を認めてもらい、トヨタとして(同職種で)初のメダルを獲得したい」と闘志を燃やす。

愛知県刈谷市出身。中学時代、企業内訓練校「トヨタ工業学園」を見学した時に技能五輪を知り、憧れを持った。学園入学後は特に思い入れの強い車体塗装に絞って志願。社内選考を経て代表の座を射止めた。

 選手1年目の15年国内大会は銅賞。銀賞がトヨタの同期生だったこともあり悔しい気持ちもあったが、「くよくよしてはいけない」と気持ちを立て直した。国際大会出場をかけた16年国内大会では、前年の金賞、銀賞選手も残る中で見事に勝利を収めた。指導員の豊田直樹さん(トヨタ工業学園技能五輪課)は深見選手を「非常に前向きでタフ。外国人を交えた訓練の際も物怖じせず、コミュニケーションを取る」と評価する。

 国際大会では当日に課題の内容が一部変わるため、“想定外”への対応力が勝敗を分ける。これに備え、深見選手は国内大会時まで採り入れていた呼吸法やストレッチなど、集中力を高めるためのルーティーン動作をあえて封印。「トラブルは常に起こりうるもの」と考え、さまざまなタイプのパネルを塗装したり、ドアの内外で塗り分ける訓練をしたりし、安定的に課題をこなす力を磨いてきた。

 車体塗装の世界は奥深く、「一見してだれにでも塗れるように見えるが、調色や塗装の均一さなど、実は作業者の“カン・コツ”に頼る部分が大きい」(豊田指導員)という。塗装の出来栄えはクルマの美観を左右する重要な要素。だからこそ深見選手は「より掘り下げていきたい」と意欲的だ。

 ただ、この職種は伝統的に欧州勢が強い。国際大会の塗料も国内大会のような有機溶剤ではなく、水性塗料。日本とは品質保証の考え方などに若干の違いもあるという。それでも深見選手は「欧州にも認められる日本品質を見せたい」とのプライドを胸に秘め、本番に挑む。

 好きな言葉は「万里一空」。変わらぬ目標を追い、研鑽(けんさん)を続ける先に光明が見えてくると信じる。もちろん目指すのは金メダルだ。
日本品質へのプライドを胸に秘め車体に塗装を施す

(文=名古屋・杉本要)
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
 第44回技能五輪国際大会が10月14―19日にアラブ首長国連邦・アブダビで開かれる。2年に一度、世界の若者が集まり、モノづくりの技を競う。  自動車の車体の損傷をパテなどで修復し、美しく塗装を施す職種。4日間で計6課題をこなす。課題は事前に公表されるが、当日に一部変更される。傷の修復では出来栄えだけでなく、清掃作業などのプロセスも評価対象となる。国内大会と基本的な作業内容は変わらないが、塗料は水性になるため乾きにくく塗装条件も変わる。スイスなど欧州勢が強いとされ、日本は2009年にマツダが金賞を獲得して以来のメダル獲得を目指す。

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