米株式市場、史上最高水準。好調いつまで?
年内相場、混乱なく推移。金利上昇も影響心配なし
史上最高水準が続く米株式市場。急ピッチで値を上げてきたが、1月の就任直後から繰り返されるトランプ米政権と議会との対立による政治停滞に加え、米連邦準備制度理事会(FRB)も金融政策について金利引き上げ・バランスシート縮小にかじを切り始めた。世界経済の中心、米国の株式市場は勢いを維持できるのか。
「手数料を引き下げます。米株が買いやすくなります」―。インターネット証券大手の楽天証券は25日の売買取引から米国株の売買に伴う手数料を引き下げる。従来1000株までの売買手数料は一律25ドル(消費税抜き)だったが、最低5ドルまで下がる。この水準はマネックス証券やSBI証券と並ぶ業界最低のレベル。米国株は日本の投資家にも認知度の高い企業が多く、流動性も高い。ネット証券の主要顧客である個人投資家の米国株人気は高まっている。
それも米株式市場が好調だからだ。堅調な米経済と企業業績の拡大を背景に上昇を続け、ニューヨーク株式市場のダウ平均株価は8月に2万2000ドルを突破、最高値を更新。S&P500種株価指数も2480ポイントを記録した。
米株式市場の熱狂の象徴がITなどのテクノロジー銘柄。頭文字をとってFANGと呼ばれるフェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグル、そして通称「MANT」のマイクロソフト、アップル、エヌビディア、テスラ。これらの銘柄の時価総額だけで優に合計300兆円を超える。
その米株式市場に対し、一部で下落リスクを指摘する声がある。焦点は金融緩和から出口政策へとかじを切り始めているFRBの金融政策。19―20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、バランスシート縮小に着手すると見られている。
保有資産の縮小は長期金利の上昇圧力となるといわれる。金融緩和政策が企業業績を支えてきただけに、金利の上昇は株式市場にとってはネガティブだ。13年にも当時のバーナンキ議長がテーパリング(量的緩和の縮小)を示唆しただけで、ダウ平均株価が約1カ月で700ドル近く値を下げた。
FRBも米株市場の不安定化を招き、景気の腰を折るリスクは避けようと、バランスシート縮小は段階的に実施するとみられる。一時的な株安があっても時間とともに株式市場は回復するとの見方が多い。
政治面のリスクはどうか。トランプ米政権と議会は18年度予算案と、債務上限の引き上げをめぐり対立。5日からの再開にあたり、当初は議会とトランプ政権側の対立が懸念されていた。
しかし来年に控える中間選挙に加え、テキサス州などに大きな被害を与えたハリケーン「ハービー」の復興対応を考えると、「いたずらな時間消費はお互いにメリットはない」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏)。
05年のハリケーン「カトリーナ」では、事前の対応の不備や救済の遅れで当時のブッシュ政権の支持率が急落し、その後の民主党への政権交代を招いた。政治停滞による対応の遅れは与野党ともに支持率低下につながる。
事実、債務上限をめぐっては12月までの短期ながら上限引き上げで合意した。年内の米株式市場は一時的な下落局面があったとしても、大方の市場関係者は好景気、企業業績の拡大に支えられて堅調に推移すると見る。
ただ、上半期の米新車販売台数は845万台で前年同期比2・1%減となり、リーマン・ショック後の金融危機以来8年ぶりに減少。また、FRBの金利引き上げ観測を受け、米株式市場から6月下旬以降に約300億ドルが流出したもようだ。
トランプ政権発足後の株高に一役買った「インフラ投資1兆ドル」「税制改革による減税」等の公約も実現のめどが立たない。ここにきて北朝鮮との対立のエスカレートで地政学リスクも高まっており、楽観してばかりはいられない。
日経平均株価は我慢の状態が続く。6月20日に年初来最高値の2万318円を付けて以降、徐々に下落。調整局面が続いている。直近では北朝鮮によるミサイル発射、核実験で地政学リスクが再びくすぶっている。
ただ、企業業績は堅調だ。PER(株価収益率)も14%台と割安水準は続く。SMBC日興証券の調べでは18年3月期の経常利益は前期比10・2%増を見込む。すでに第1四半期の段階で通期見通しを上方修正した企業も多い。一時的な調整局面を超えられれば、年末にかけて2万円を再び上回ってくるとの期待がある。
<楽天証券チーフストラテジスト・窪田真之氏>
景気は拡大し、金利は低位に推移するなど株式市場にとって居心地のよい環境が続いてきた。FRBが量的緩和を終了し、ゼロ金利を解除しても長期金利は上昇していない。
市場では金融引き締めの打ち止め感すら出ており、金利上昇の影響はあまり心配していないともいえる。FRBによるバランスシート縮小もタカ派的な引き締めはできないと、ある意味タカをくくった状態であるともいえる。
そうなると、今の好景気が今後も続くのかが株式市場を見る上での一つの焦点である。足元では乗用車や不動産販売でピークアウトの兆候が出ている。政治リスクもある。現在は好景気でも、来年の見通しが相場のポイントになるだろう。
<ニッセイ基礎研究所金融研究部チーフ株式ストラテジスト・井出真吾氏>
ダウ平均株価は年内は2万―2万2000ドル圏内で推移するとみている。当初は米政治リスクやFRBの金融政策の動向を懸念材料とみていたが、どうも波乱はなさそうだ。
予算案や債務上限をめぐり政治の混乱を指摘する声もあったが、ハリケーンの被害からの復興が課題となっており、決着が遅れれば来年の中間選挙にも響く。政治リスクは乗り越えられるだろう。従ってFRBもバランスシート縮小を予定通り実行できる環境が整う。金利上昇のペースは緩やかに進んでいく見通しなので、株式市場が一気に下落するリスクは低い。
米国株は少し割高感はあるが、米企業の業績はやはり好調。年内の相場は大きな混乱なく推移するだろう。
「手数料を引き下げます。米株が買いやすくなります」―。インターネット証券大手の楽天証券は25日の売買取引から米国株の売買に伴う手数料を引き下げる。従来1000株までの売買手数料は一律25ドル(消費税抜き)だったが、最低5ドルまで下がる。この水準はマネックス証券やSBI証券と並ぶ業界最低のレベル。米国株は日本の投資家にも認知度の高い企業が多く、流動性も高い。ネット証券の主要顧客である個人投資家の米国株人気は高まっている。
それも米株式市場が好調だからだ。堅調な米経済と企業業績の拡大を背景に上昇を続け、ニューヨーク株式市場のダウ平均株価は8月に2万2000ドルを突破、最高値を更新。S&P500種株価指数も2480ポイントを記録した。
米株式市場の熱狂の象徴がITなどのテクノロジー銘柄。頭文字をとってFANGと呼ばれるフェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグル、そして通称「MANT」のマイクロソフト、アップル、エヌビディア、テスラ。これらの銘柄の時価総額だけで優に合計300兆円を超える。
その米株式市場に対し、一部で下落リスクを指摘する声がある。焦点は金融緩和から出口政策へとかじを切り始めているFRBの金融政策。19―20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、バランスシート縮小に着手すると見られている。
保有資産の縮小は長期金利の上昇圧力となるといわれる。金融緩和政策が企業業績を支えてきただけに、金利の上昇は株式市場にとってはネガティブだ。13年にも当時のバーナンキ議長がテーパリング(量的緩和の縮小)を示唆しただけで、ダウ平均株価が約1カ月で700ドル近く値を下げた。
FRBも米株市場の不安定化を招き、景気の腰を折るリスクは避けようと、バランスシート縮小は段階的に実施するとみられる。一時的な株安があっても時間とともに株式市場は回復するとの見方が多い。
政治面のリスクはどうか。トランプ米政権と議会は18年度予算案と、債務上限の引き上げをめぐり対立。5日からの再開にあたり、当初は議会とトランプ政権側の対立が懸念されていた。
しかし来年に控える中間選挙に加え、テキサス州などに大きな被害を与えたハリケーン「ハービー」の復興対応を考えると、「いたずらな時間消費はお互いにメリットはない」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏)。
05年のハリケーン「カトリーナ」では、事前の対応の不備や救済の遅れで当時のブッシュ政権の支持率が急落し、その後の民主党への政権交代を招いた。政治停滞による対応の遅れは与野党ともに支持率低下につながる。
事実、債務上限をめぐっては12月までの短期ながら上限引き上げで合意した。年内の米株式市場は一時的な下落局面があったとしても、大方の市場関係者は好景気、企業業績の拡大に支えられて堅調に推移すると見る。
ただ、上半期の米新車販売台数は845万台で前年同期比2・1%減となり、リーマン・ショック後の金融危機以来8年ぶりに減少。また、FRBの金利引き上げ観測を受け、米株式市場から6月下旬以降に約300億ドルが流出したもようだ。
トランプ政権発足後の株高に一役買った「インフラ投資1兆ドル」「税制改革による減税」等の公約も実現のめどが立たない。ここにきて北朝鮮との対立のエスカレートで地政学リスクも高まっており、楽観してばかりはいられない。
日経平均株価は我慢の状態が続く。6月20日に年初来最高値の2万318円を付けて以降、徐々に下落。調整局面が続いている。直近では北朝鮮によるミサイル発射、核実験で地政学リスクが再びくすぶっている。
ただ、企業業績は堅調だ。PER(株価収益率)も14%台と割安水準は続く。SMBC日興証券の調べでは18年3月期の経常利益は前期比10・2%増を見込む。すでに第1四半期の段階で通期見通しを上方修正した企業も多い。一時的な調整局面を超えられれば、年末にかけて2万円を再び上回ってくるとの期待がある。
アナリストの見方
<楽天証券チーフストラテジスト・窪田真之氏>
景気は拡大し、金利は低位に推移するなど株式市場にとって居心地のよい環境が続いてきた。FRBが量的緩和を終了し、ゼロ金利を解除しても長期金利は上昇していない。
市場では金融引き締めの打ち止め感すら出ており、金利上昇の影響はあまり心配していないともいえる。FRBによるバランスシート縮小もタカ派的な引き締めはできないと、ある意味タカをくくった状態であるともいえる。
そうなると、今の好景気が今後も続くのかが株式市場を見る上での一つの焦点である。足元では乗用車や不動産販売でピークアウトの兆候が出ている。政治リスクもある。現在は好景気でも、来年の見通しが相場のポイントになるだろう。
<ニッセイ基礎研究所金融研究部チーフ株式ストラテジスト・井出真吾氏>
ダウ平均株価は年内は2万―2万2000ドル圏内で推移するとみている。当初は米政治リスクやFRBの金融政策の動向を懸念材料とみていたが、どうも波乱はなさそうだ。
予算案や債務上限をめぐり政治の混乱を指摘する声もあったが、ハリケーンの被害からの復興が課題となっており、決着が遅れれば来年の中間選挙にも響く。政治リスクは乗り越えられるだろう。従ってFRBもバランスシート縮小を予定通り実行できる環境が整う。金利上昇のペースは緩やかに進んでいく見通しなので、株式市場が一気に下落するリスクは低い。
米国株は少し割高感はあるが、米企業の業績はやはり好調。年内の相場は大きな混乱なく推移するだろう。
日刊工業新聞2017年9月8日