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富士重が無人航空機の開発検討!パリ国際航空ショーにコンセプトモデル出品

無人ヘリコプター「RPH2」の後継機。観測用や偵察用に最大100キログラムの荷物まで搭載できる
富士重が無人航空機の開発検討!パリ国際航空ショーにコンセプトモデル出品

富士重工業の無人機「RPH―X」の5分の1スケールのコンセプトモデル

 【パリ=杉本要】富士重工業は、新型の無人航空機(UAV)システムを開発する検討を始めた。ヘリコプター型のUAVで、1990年代に開発した無人ヘリコプター「RPH2」の実質的な後継機となる。防衛省向けに開発した無人偵察機システムの実績も生かし、各種観測用や偵察用ヘリとして提案する。
 
 開発を検討するのは、「RPH―X」と呼ぶ機体。「パリ国際航空ショー」に5分の1スケールのコンセプトモデルを初めて出品し、欧州や米国企業など向けに提案している。

 最大で重さ100キログラムのペイロード(荷物)まで搭載できるのが特徴。離着陸を含む完全自律飛行が可能な機体とし、最大速度は時速150キロメートルを想定。6時間以上の飛行を目標にする。回転翼の大きさは直径約5メートル。

 富士重工は90年代に防衛庁(現防衛省)と無人偵察機による遠隔操縦観測システム(FFOS)を共同開発。00年代には航続距離などを改良した新無人偵察機システム(FFRS)も開発した。一方、産業用では火山観測や農薬散布、救難捜索などに用いる「RPH2」シリーズを展開している。今後は市場の動向を見ながら新型機の事業化を判断する。永野尚専務執行役員航空宇宙カンパニープレジデントは「まず航空ショーに出品し、反応を見たい」と話す。

 <関連記事=複合材やアルミ技術などを自動車事業にも生かす>
 航空・宇宙関連各社のキーパーソンに今後の戦略などを聞く。最終回は、富士重工業の永野尚執行役員航空宇宙カンパニープレジデント。

 ―足元の事業概況ならびに、米ボーイング「787」「777」の機体部品製造の状況はどうですか。
 「為替の恩恵があるのは事実だが、超円高時に進めた構造改革による生産性向上も大きい。生産量は増加しており、『787』は5月の連休前後に月産12機ペース(現状は同10機)で流すなど増産準備を整えている。一方、『777』は年産約100機を維持しているが、次世代の『777X』への切り替わりで、生産レートはどこかで落ちるだろう」

 ―半田工場(愛知県半田市)に『777X』向け中央翼の新工場を建設します。宇都宮製作所(宇都宮市)を含め、生産ラインの考え方は。
 「設備発注は始めたが、検収はまだ先。2017年度に設備投資が膨らむ。生産技術でコストを下げるのが日本の強みであり、製造装置にも独自性を持たせる。適用が広がっているチタンの最新鋭加工設備やリベッターやドリル、搬送などを自動化する。また、従来手作業だった『787』向け複合材パネル表面のサンディング(研磨)工程をロボット化した。これらにより作業環境が改善した」

 ―15日(現地)に開幕したパリ航空ショーに新技術を出展します。
 「一つが中央翼の生産技術。二つ目が航空機構造ヘルスモニタリングシステムだ。光ファイバーセンサーで複合材パネルなどの損傷を自動検知する技術で、エアラインの機体整備・修理(MRO)を効率化する新たな価値の提案だ。得意分野である無人機技術を活用した無人ヘリコプターの模型も展示する。飛行ロボット(ドローン)とは一線を画し、安全性が高く産業用途にも使える。潜在需要は大きいはずだ。ユーザーの反応を確かめたい」

 ―部品調達にミルクラン(巡回集荷)を導入するなど購買改革を進めています。
 「商流を変えたい。長年の取引関係の中で物流を含めてムダがある。今まで発注が難しかったサプライヤーが力を付け、いろいろ挑戦してくれればもっとコストが下がるはずだ。成長局面だからこそ“転注の再配分”を進められる。ボーイングとの共同購買を増やし、資材費を低減する。また、ミルクランを複合材加工でも始めることで全面適用する。また、電子商取引も導入し、物の流れと情報の流れを同期化することで“ノコギリ”型を解消する」

 ―航空宇宙カンパニーの将来像は。
 「今はまだ全社売上高の5%程度に過ぎないが、10%になれば存在感は増す。航空機が当たり前のように使っている複合材技術やアルミ技術などを自動車事業にも生かせるだろう」

 【記者の目/将来を見据え事業基盤強化】
 航空宇宙事業の14年度の売上高は前年度比14・8%増の1428億円で、営業利益率は約13%。好調な自動車事業に隠れがちだが、成長力は決して見劣りしない。自動車事業で磨いてきた“カイゼン”の力と、航空宇宙事業の先端技術の融合にこそ、富士重の強みがある。
 防衛省向け事業で培った無人機技術など新規事業領域への期待も大きい。成長局面にある今こそ、将来を見据えた事業基盤強化への投資を積極化すべきだ。
 (聞き手=鈴木真央)
日刊工業新聞2015年06月17日 3面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
パリで取材中の杉本ファシリテーターからのレポート。クルマでも勢いのある富士重だからこれは楽しみ。担当役員インタビューも合わせてご覧下さい。

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