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生まれ変われるか東芝メモリ「1位になるという経営者のビジョンが必要だ」

WDと大筋合意も…半導体市況、来年“軟化”か
 8月末までの契約締結を目指した東芝の半導体メモリー子会社「東芝メモリ」の売却交渉が大詰めを迎えた。売却に反発し、係争状態にまで陥った米ウエスタンデジタル(WD)に歩み寄り、同社を含む「新日米連合」との優先交渉で合意。具体的な条件を詰めている。だが、メモリー市場は韓国勢の投資攻勢や中国勢の台頭で、2018年には市況軟化を懸念する見方もある。交渉がまとまっても楽観はできない。

 調査会社の台湾トレンドフォースは、3次元構造NANDを中心に年内は需給が逼迫(ひっぱく)、価格も高水準で推移すると予測している。東芝関係者も「年末までの価格は見えている」とし、事業の好調さに手応えを示す。

 ただし「問題は18年上期」(業界関係者)。現在、各社は設備投資で攻勢をかけており、64層、72層NANDを中心に供給問題が解消するとみられるからだ。

 サムスンは6月に稼働した平澤工場と中国・西安工場を中心に、2兆円規模の投資を決定。同SKハイニックスも韓国・忠清北道で新工場を建設中で、17年は約9000億円の投資を計画する。

 米インテル・米マイクロン連合も64層NANDの年内量産化を計画。インテルは中国・大連の工場に、マイクロンはシンガポールの工場に投資する構えだ。

 さらに18年には中国メモリーメーカーの台頭が予測される。XMCを源流とする長江ストレージ(YMTC)や、台湾UMCの技術を活用する福建晋華(JHICC)などが代表で、メモリーの需給バランスに大きく影響しそうだ。

 東芝がメモリー事業の売却でWDなどを含めた新日米連合と合意したとしても、各国公取委による独禁法の審査がすんなり進む保証は全くない。売却問題の解決に時間を取られれば取られるほど、設備投資力や技術開発にも影響は避けられず、東芝メモリの競争力低下が懸念される。

「5年は優位性を保てる。その先は…」


 産業創成アドバイザリーの佐藤文昭代表取締役に聞く。
 ―東芝メモリの売却をめぐる混迷をどうみていますか。
 「産業革新機構の迷走を指摘する声もあるが、それ以上に決断しきれていない東芝の経営陣に問題がある。売却について東芝内の意見が分かれていた。本気になりきれていなかったのではないか」

 ―以前から早期のメモリー事業売却が必要だという意見でした。
 「半導体メモリーは、東芝の中では異質な事業。成長させるには、外に出す方がいい。だが、東芝は他の事業が弱いため、これまでできなかった。結果的に、今は市況がいいため、売却に一番いいタイミングになった」

 ―複数企業が出資する形になりそうです。経営判断のスピードなど、売却後の競争力に影響はありませんか。
 「複数の社が関わることは問題ではない。株主に事業会社が入れば、その会社の思惑が入る。ただ、ファンドが主体であれば、仮にファンドが経営者を連れてきても、主な事業方針は東芝出身者が考えるだろう。内部できちんと交渉すればいい。しかも、メモリーは比較的に単純なビジネスモデル。東芝は技術面で競争力があるため、適切に設備投資できれば製品は売れる」

 ―いつまで競争力を維持できますか。
 「現在、メモリー技術の1位は韓国サムスン電子、東芝は1位に肩を並べうる2位だ。2位と3位の間、さらにその下との間の差は大きい。メモリーの積層化が現在の64層から百数十層や二百層程度まで進むには5年はかかる。この技術革新が続く間、東芝は優位性を保てる。5年より先は、単一のメモリービジネスでやっていけるか、次の方向性を考える経営者が必要だ」

 ―東芝メモリの先行きによっては、国が業界再編などにどう関わるか問われることになりそうです。
 「国はきっかけにすぎない。日本企業は事業を抱え込んで動かない。もし、東芝メモリが国に事業再編をやらされている意識ならばうまくいかない。自分から東芝を出て、1位になるという気持ちで取り組めるか。経営者のビジョンが重要だ」
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日刊工業新聞2017年8月28日の記事から抜粋
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
今後の焦点はWDによる経営への関与の度合いだ。当初の優先交渉先だった「日米韓連合」では、韓国SKハイニックスが議決権を要求していることが後から分かり、交渉のネックとなった。新日米連合関係者は「(WDが)経営権を取得しない方向で合意している」と話す。ただ、交渉関係者からは「正式な書面で出てこなければ信用できない」との声があり、「細かく契約で縛ることになるだろう」。さらに「日本主導をより強めるために、東芝も出資する」(関係者)方針だ。 (日刊工業新聞第一産業部・渡辺光太)

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