寝不足、攻撃性高まり共感力低下。「睡眠」の科学的検証進む
覚醒時、炭水化物がエネルギーに。それでもまだ分からない現象く
ライフ・ワークバランスの大切さが指摘されて久しい。日中の生活を有意義に過ごすためにも睡眠の質の向上は欠かせない。眠りは生活と密接に関わっているが、実は謎に包まれた部分が多い。そんな中、睡眠の科学的検証が進み、眠りが健康へ与える影響について少しずつ明らかになってきた。日ごろ睡眠不足に陥りがちな現代人の心と体の健康維持を、睡眠の視点からサポートできる可能性がある。
睡眠の基礎研究を行う筑波大学の国際統合睡眠医科学研究機構は6月、脳の動きが活発になる「レム睡眠」などの眠りのステージによって、エネルギーの代謝が変化すると発表した。
排気・給気のガス濃度と流量を24時間測定できる装置「ヒューマンカロリメーター」を使い、29人の被験者分の睡眠中のエネルギー代謝を測定。睡眠ステージごとに解析すると、エネルギー代謝は睡眠直後に減少し、起きる前に増加することが分かった。
実験では、被験者は目が覚める3―4時間前からエネルギー消費が増加しはじめており、炭水化物がエネルギーとして消費されていた。
炭水化物は覚醒時、運動中のエネルギーとして使われる。また、絶食時のエネルギー消費は脂肪の燃焼に傾くが、睡眠という絶食状態では炭水化物が使われるという新しい発見もあった。
研究を主導した筑波大の徳山薫平スポーツ医学専攻長は「睡眠ステージごとの代謝変化をもとに睡眠を改善すれば、生活習慣病の予防につながる可能性がある」と期待する。
また6月開催の睡眠学会では、国立精神・神経医療研究センターは、睡眠量の足りない「睡眠負債」によって道徳的行動に影響を及ぼす可能性を明らかにした。
十分に睡眠時間を確保した場合と、睡眠が不足した場合とで他者へ手を差し伸べる「利他的行動」を比べると、睡眠が十分に取れている条件下で示す利他的行動は、脳の中で快の感情を担う領域が活発に活動していた。
具体的には、2晩連続で9時間、または3時間の睡眠をとってもらった被験者に、キャッチボールのようなパソコン上のゲーム「サイバーボール課題」に取り組む実験を行った。
1回目のゲームでは、ボールが回ってこない仲間はずれのプレーヤーを見てもらい、2回目に被験者が参加する。すると仲間はずれのプレーヤーにボールを回す行動は睡眠時間で大きな差はないが、脳活動を磁気共鳴断層撮影装置(MRI)で観察すると、睡眠時間が十分に取れている条件下では主観的な喜びを感じる領域の活動が増加していた。
同センターの勝沼るり研究員は「慢性的な睡眠不足は、攻撃性の高まりや共感力の低下など、認知機能や感情に変化が現れる。食事に対する行動の変化についての研究も進んでいる」と述べ、睡眠不足がもたらす体への影響を懸念する。
睡眠ステージにおける体の反応の変化や、睡眠時間がもたらす脳への影響について研究が進んでいるが、実はなぜそうした現象が起きるのかはまだ分からない点が多い。
ただ、徳山専攻長は「照明や寝室の温度など、健康にとって質の良い睡眠を後押しするような要因も分かるかもしれない」と、睡眠環境改善の意義を語る。
また勝沼研究員は、「自分にとって最適な睡眠時間を把握すること。目覚ましを使わずに自然に起きることができる睡眠時間を知り、毎日確保するように心がけてみては」と質の良い睡眠のヒントを話した。
(文=安川結野)
睡眠の基礎研究を行う筑波大学の国際統合睡眠医科学研究機構は6月、脳の動きが活発になる「レム睡眠」などの眠りのステージによって、エネルギーの代謝が変化すると発表した。
排気・給気のガス濃度と流量を24時間測定できる装置「ヒューマンカロリメーター」を使い、29人の被験者分の睡眠中のエネルギー代謝を測定。睡眠ステージごとに解析すると、エネルギー代謝は睡眠直後に減少し、起きる前に増加することが分かった。
実験では、被験者は目が覚める3―4時間前からエネルギー消費が増加しはじめており、炭水化物がエネルギーとして消費されていた。
炭水化物は覚醒時、運動中のエネルギーとして使われる。また、絶食時のエネルギー消費は脂肪の燃焼に傾くが、睡眠という絶食状態では炭水化物が使われるという新しい発見もあった。
研究を主導した筑波大の徳山薫平スポーツ医学専攻長は「睡眠ステージごとの代謝変化をもとに睡眠を改善すれば、生活習慣病の予防につながる可能性がある」と期待する。
また6月開催の睡眠学会では、国立精神・神経医療研究センターは、睡眠量の足りない「睡眠負債」によって道徳的行動に影響を及ぼす可能性を明らかにした。
十分に睡眠時間を確保した場合と、睡眠が不足した場合とで他者へ手を差し伸べる「利他的行動」を比べると、睡眠が十分に取れている条件下で示す利他的行動は、脳の中で快の感情を担う領域が活発に活動していた。
具体的には、2晩連続で9時間、または3時間の睡眠をとってもらった被験者に、キャッチボールのようなパソコン上のゲーム「サイバーボール課題」に取り組む実験を行った。
1回目のゲームでは、ボールが回ってこない仲間はずれのプレーヤーを見てもらい、2回目に被験者が参加する。すると仲間はずれのプレーヤーにボールを回す行動は睡眠時間で大きな差はないが、脳活動を磁気共鳴断層撮影装置(MRI)で観察すると、睡眠時間が十分に取れている条件下では主観的な喜びを感じる領域の活動が増加していた。
同センターの勝沼るり研究員は「慢性的な睡眠不足は、攻撃性の高まりや共感力の低下など、認知機能や感情に変化が現れる。食事に対する行動の変化についての研究も進んでいる」と述べ、睡眠不足がもたらす体への影響を懸念する。
睡眠ステージにおける体の反応の変化や、睡眠時間がもたらす脳への影響について研究が進んでいるが、実はなぜそうした現象が起きるのかはまだ分からない点が多い。
ただ、徳山専攻長は「照明や寝室の温度など、健康にとって質の良い睡眠を後押しするような要因も分かるかもしれない」と、睡眠環境改善の意義を語る。
また勝沼研究員は、「自分にとって最適な睡眠時間を把握すること。目覚ましを使わずに自然に起きることができる睡眠時間を知り、毎日確保するように心がけてみては」と質の良い睡眠のヒントを話した。
(文=安川結野)
日刊工業新聞2017年8月15日