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なぜ政府はそこまでロボットに注力するのか?―前面に打ち出す戦略とは

ロボットとの共生で社会を変える
なぜ政府はそこまでロボットに注力するのか?―前面に打ち出す戦略とは

ロボット革命イニシアティブ協議会の設立会場は熱気に包まれた

 5月15日―。政府の肝いりで発足した「ロボット革命イニシアティブ協議会」の設立総会は、産学官の関係者がすし詰め状態の異様な熱気で包まれていた。あいさつに立った安倍晋三首相は「新たなロボット大国のカギを握るのはロボットを大規模工場から経済社会の隅々にまで解き放つことだ」とロボット革命を巻き起こす決意を高らかに宣言した。安倍首相だけではない、当日会場に並んだ閣僚は甘利明経済再生担当相、宮沢洋一経済産業相ら7人。ロボットという一産業のためにこれだけの閣僚がそろうのは異例だ。なぜ政府はそこまでロボットに力を注ごうとしているのか。

 【暮らしの中に】

 人工知能を搭載して自律的な制御が可能な次世代ロボットが普及しつつある。米国では人工知能が株式取引に導入され、新聞社には原稿を書くロボットも投入されている。日本でもソフトバンクがフランスのベンチャー企業と開発した人型ロボット「ペッパー」が、人工知能を駆使した巧みな会話で、店頭での接客業務を担っている。

 その期待は医療や介護、防災などへの応用にとどまらない。暮らしのあらゆる分野で人とロボットが共生する時代はすぐそこまできている。モノづくりの分野でもIoT(モノのインターネット)を活用した次世代の製造業の主導権をめぐり欧米と綱引きが繰り広げられている。

 【高齢化対策】

 安倍政権が発足してから大企業の業績改善が鮮明になり賃上げも進む。目線は高齢化対策や財政再建、地方の中小企業の活性化といった長期的な課題へと向いている。次世代ロボットの活用で医療や介護を効率化することは、ロボット産業振興以外にも国民に痛みを強いない高齢化対策として魅力を放つ。

 さらに大企業と中小企業との格差是正も政府が抱える重要課題。人間と共同で組み立てや運搬作業ができる先端ロボットが、製造業やサービス業、農業を問わず地方の中小企業にも普及して生産性向上に一役買えば、地方創生にもつながる。ただ、安倍首相は次世代ロボット社会について「欧米の単なる下請けになる」と警戒の言葉も発した。背景に次世代のモノづくり構想でドイツや米国の先行を許していることへの危機感があると思われる。

 【自らの強み】

 「省内はIoT関連で一色だ」と、経済産業省幹部は明かす。注目するのはドイツが主導する次世代製造業の構想「インダストリー4・0」。製造ラインの至る所にセンサーを組み込んでネットワーク化し工程上のあらゆる情報を見える化。工場やサプライヤー間で高度な連携も可能とする。米国ではゼネラル・エレクトリックが「インダストリアルインターネット」と呼ぶビジネスモデルを実行しつつある。ロボット関連企業の買収を繰り返すグーグルの台頭も見逃せない。

 モノづくりとITの融合が進む中、航空やIT産業大国の米国や製造業系ソフトウエアに強い欧州に対し、日本はロボットという自らの強みを切り口に反攻に出る構えだ。既にファナックなどが人工知能やIoTを取り入れたシステムの開発を進めている。IoTの特徴はシステム全体をつなぐこと。ロボット革命実現へ“オールジャパン”で結束して取り組む時代が到来した。

※日刊工業新聞では「ロボット革命~人との共生時代~」を連載中です。
日刊工業新聞2015年06月16日 1面
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
日本はロボットで経済の主導権を握れるのか。そしてロボットと共生する社会は実現できるのか-。そんなテーマに挑んだ連載が始まりました。欧米が生産革新を中心とした次世代の仕組みづくりに取り組む中、日本も相当なスピード感が必要になります。一つの通過点は東京五輪が開催される2020年。この頃の社会の様子がどうなっているのかを想像しながら、連載を読みたいと思います。

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