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ゲームだけじゃない! 広がる「VR」ビジネス活用の可能性

<情報工場 「読学」のススメ#37>『VRインパクト』(伊藤 裕二 著)
ゲームだけじゃない! 広がる「VR」ビジネス活用の可能性

PlayStation® VR

**VRでBtoBを展開するソリューション企業の取り組みを紹介
 バーチャルリアリティ(VR:仮想現実)という言葉に、どのようなイメージをお持ちだろうか。おそらく、多くの人が「ゲーム」を思い浮かべるのではないか。確かに、昨年秋に発売されたPlayStation® VRは話題になった。VRといえば「ゲームにリアルさと迫力を加えるための技術」といったところが一般の認識なのかもしれない。

 PlayStation® VRのような最新のゲーム用デバイスを使わなくとも、もっと安価に、手軽にVRを楽しむことはできる。いわゆる「ハコスコ」と呼ばれる、段ボールとレンズだけでできた簡易な装置(ゴーグル)に手持ちのスマートフォンをセットするだけでいい。ハコスコは1000円未満で手に入る。コンテンツはYouTubeなどの動画サイトに無料のものがいくらでもアップされている。

 まだ体験したことのない人は、ぜひ上記の方法でやってみてほしい。想像以上のリアルさと没入感に驚かされるはずだ。私が初めて体験した時には、部屋にいながら、大平原の風を感じられた。船に乗って川を下る設定のVRでは、かすかな揺れの感覚が得られた。

 VRの活用はそれだけではない。ゲームやエンターテイメント以外の、BtoBを含むビジネス活用も広がっているのだ。

 『VRインパクト』(ダイヤモンド・ビジネス企画)は、そんなVRの可能性を知ることができる一冊だ。著者の伊藤裕二さんは、株式会社フォーラムエイト代表取締役社長。1987年創業の同社は、土木分野を中心に独自のソフトウェアやソリューションを提供している。とくにVRソフトウェアを活用したソリューションには定評があり、海外展開も含め成長著しい企業である。
    

 『VRインパクト』は、主に同社のVR関連の取り組みを紹介した書籍なのだが、トヨタ自動車など具体的なVR導入事例が興味深い。画期的な、まだ伸びしろのある先端技術と今後どのように向き合っていくべきか、たくさんのヒントが得られる。

脳波による自動車の“エア運転”をシミュレートするVRも


 トヨタ自動車の導入事例は、ITS(Intelligent Transport System:高度道路交通システム)に関するものだ。ITSとは、人間と道路、自動車の間で相互に情報のやりとりをすることで、事故や渋滞、環境問題などの課題解決をめざすシステム。昨今しばしば話題になる自動運転にも、ITSは深く関わっている。

 フォーラムエイト社は、VR技術を使用した高精度のドライブ・シミュレータを開発し、トヨタの「協調型ITS」をサポートしている。協調型ITSとは、車と車、車とインフラ(道路や信号など)の双方向通信で安全運転を実現しようとするシステムだ。衝突の危険性を事前に察知して自動ブレーキをかけたり、車間距離を調整したりする。このシステムを、CGで現実のインフラや運転の感覚をシミュレートしながら作っていくのに、フォーラムエイト社のVRソフトウェアが役立っているという。

 伊藤社長によれば、脳波を読み取ることで、手足を動かさなくても運転できるVRシステムも、デモンストレーション用に作ってあるそうだ。これならば、自動運転とは違い“自分で車を動かす”楽しみも保持できる。ただし、自動運転でさえまだまだ課題を残している現状では、実用化のめどは立っていないという。

 またフォーラムエイト社は、土木開発事業における環境アセスメント(環境影響評価)へのVR活用も提案している。環境アセスメントとは、あらかじめ開発事業が環境に与える影響を予測・評価し、住民や自治体などとの意見調整などをする一連のプロセスだ。

 住民や自治体との交渉時に、開発後に予想される周辺環境をVRによるシミュレーションで体験してもらう。VRならば写真や通常の動画では見えないところもチェックできる。逆に言えば、事業者側が問題のあるところを「隠せない」ということだ。つまり、住民側が感覚的に理解が深められるだけでなく、双方の信頼関係を築きやすくなるのだ。

VRを「手段」と考えるとイノベーションにつながる


 伊藤社長は、同社のVR技術はあくまで「手段」であることを強調している。ゲームのように「CGの美麗さ、質感のリアルさ」は追求していないという。同社が勝負するのは、いかに構造上現実に近いものができるかどうかだ。

 ゲームはVR体験が「目的」だが、同社のようなソリューションビジネスでは目的を達成するための手段、すなわちツールにすぎない。

 このように技術を「手段」やツールと捉えることが、その技術によるイノベーションの可能性を広げる秘訣なのではないだろうか。技術を生かすのを「目的」にしてしまうと、実際には使われない機能をゴテゴテと詰め込み、いわゆる「ガラパゴス」な製品を作りがちだ。しかし技術が「手段」ならば、「この技術をどんな目的に使えるだろう」と考えていける。

 これは、実は「意味のイノベーション」といい、近年EUで採り入れられている考え方だ(クロスメディア・パブリッシング刊『デザインの次に来るもの』参照)。既存の技術や製品の「新しい意味」を考え、それをもとにイノベーションを実現することを指す。アイデア次第で低コストによるイノベーションが可能になる。

 本書には、上記以外に、地震や津波などの災害をシミュレートするVRの使い方(=新しい意味)も紹介されている。本書にはない使い方としては、医療技術のトレーニングや、不動産の下見なども実際に行われている。今後、もっと画期的な、思いもよらないVRの「意味」が登場してくるのは間違いないだろう。楽しみでしかたない。

(文=情報工場「SERENDIP』編集部)

『VRインパクト』
-知らないではすまされないバーチャルリアリティの凄い世界
伊藤 裕二 著
ダイヤモンド・ビジネス企画
224p 1,500円(税別)
ニュースイッチオリジナル
冨岡 桂子
冨岡 桂子 Tomioka Keiko 情報工場
最近、STYLY SuiteというVRのサービスがローンチした(正式版)。これを使えば、まったくプログラミングができない人でも、簡単にVR空間を作ることができる。少し触ってみたが、パワポで資料を作るようなイメージで、簡単にVRができ上がった。VRゴーグルをつけて自分で作った仮想空間の中に入るという経験は、とても面白かった。VRはエンジニアが制作するものだと思っていたが、個人が作り楽しむものとしての「意味」にも、徐々にすそ野が広がってきているようだ。

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