米国のベンチャー精神の新勢力をボストンに見た!

グリーンタウン・ラボはクリーン技術の宝庫。グローバル展開も視野

 改めて米国の活力の源とされるベンチャー精神に着目したい。トランプ米大統領のツイッターのひと言に世界が反応し、それが実体経済にも影響を与えている。ひいては歴史と共に築き上げてきた社会的価値観、民主主義の実践の仕方が一気に覆されてしまうのではという不安感すら漂わせる。

 かたや「客観的根拠に基づく政策」(Evidence‐based policy)の流れに逆行し「代替的事実」(Alternative facts)が台頭する。

トランプ自身がベンチャー精神の持ち主


 トランプ氏自身、ある意味でベンチャー精神の持ち主であり、この一連の行動は経済学、政治学、社会科学、社会心理学などの研究者にとって格好の分析対象となり得るが、ここではトランプ現象を新たな文脈と捉え、その上で、米国のベンチャー精神を考えたい。

 初めて自分の肌で米国に接したのは、1990年代の西海岸、スタンフォード大学滞在時で、「犬も歩けばスタートアップ企業に当たる」雰囲気があった。その後は、ワシントンでの連邦政府関連の会議などを通して東海岸の米国を体験した。おまけに現在は、訳あってハワイ州の高齢者ケアをにわか勉強中である。

東西問わず「世の中変えたい」が根底に


 東海岸と西海岸の気候風土、文化、仕事の流儀の違いは普遍的とも言えるが、共通点を探すと「自らのアイデアと行動で世の中を変えたい」という「ベンチャー精神」が浮かぶ。新たな製品・サービスで社会の課題解決に貢献し、それと同時に自らも利益を得る。

 社会イノベーションを仕掛ける行動原理が根底にあるように思える。そこには、政府の施策を活用しつつも、チーム力をテコに、主体的に行動する若者の姿がある。

 西海岸、特にシリコンバレーでは、古くはヒューレット・パッカード、インテルに始まり、70年代にアップル、80年代にシスコシステムズ、90年代にグーグル、そして21世紀に入るとフェイスブック、ツイッターが登場し、それにエアービーアンドビー、ウーバーが続く。

 加速的な成長にはベンチャー精神という推進力が存在する。この点は、すでに多くの文献で語りつくされていることから、ここでは、アナリー・サクセニアン教授の著書『現代の二都物語』で紹介され、シリコンバレーと対比された東海岸のボストンに着目し、ベンチャー精神を考えたい。

興味深いのはその出発点と進化のスピード


 ボストンの一つの事例としてグリーンタウン・ラボがある。平たく言えば「クリーン技術に特化したインキュベーター」だが、興味深いのはその出発点と進化のスピード、展望だ。

 会社を立ち上げたのは良いが、試作品もつくれるような安価なオフィススペースがないという悩み抱えるハード系のマサチューセッツ工科大学発スタートアップ4社が集まり、「ないなら自ら作る」という行動に出た。

 マサチューセッツ州政府のビジネスサポート機関「マスデベロップメント」の支援で、2011年にグリーンタウン・ラボをNPOとして立ち上げた。クリーン技術のエコシステムとして機能させるという構想のもと、パートナー企業を戦略的に集めた。5年にして110社以上をインキュベートし、50社以上が同窓生として関係性を保ち、国内外で50社以上のパートナー企業を抱える。

 後者にとって、グリーンタウン・ラボはクリーン技術のプロトタイプの宝庫であり、投資先探し、アイデア探し、アイデア試しの場でもある。それゆえ、彼らは、資金のみならず機器、さらにはサービス、アドバイスをも提供する。

 この持ちつ持たれつの関係性がエコシステムの根幹となり、我も我もとテナントとパートナーの候補企業が列をなすようになった。17年後半には敷地面積を倍増する予定だ。ウェット・ラボも設け、施設自体にクリーン技術を実装するなど質的に飛躍すると共に、このビジネスモデルのグローバル展開も視野に入れ、グリーンタウン・ラボにグローバル・センターの冠を付する。まさにベンチャー精神ここにあり。日本上陸も含めて、今後の動向に目が離せない。
(文=原山優子)
原山優子さん

【略歴】
原山優子(はらやま・ゆうこ)96年(平8)ジュネーブ大学教育学博士課程修了、97年同大経済学博士課程修了、98年同大経済学部助教授。01年経済産業研究所研究員、02年東北大工学研究科教授、10年経済協力開発機構(OECD)の科学技術産業局次長、13年から総合科学技術・イノベーション会議議員。

日刊工業新聞2017年3月20日

明 豊

明 豊
03月22日
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ボストン周辺には分野に特化したインキュベーターがいくつかある。日本がベンチマークするにはシリコンバレーではなくボストンではないか。

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