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東大ベンチャーキャピタルは技術創出の担い手になれるか

民業圧迫の懸念をどう払拭?
 東京大学の投資事業会社でベンチャーキャピタル(VC)の東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC、東京都文京区)の活動が本格化してきた。2016年12月に250億円の1号ファンドを組成し、すでに東大関連のVC4社へのファンド出資を決めた。東大―経団連の枠組みと連動させる2号ファンドも100億円規模で検討中だ。東大は、東大IPCをハブとするベンチャー(VB)とイノベーションの新たな生態系(エコシステム)構築に挑む。

 東大IPCは、政府資金による京都大学など4国立大出資事業の一環で立ち上がった。東大の出資金417億円は、他3大学と比べても多額だったことから、既存VCに対する民業圧迫とならないよう、「VBへの単独直接投資は行わない」という基本方針を打ち立てた。VBやイノベーションを創出し続けるエコシステム構築を使命とする。
                

 1号ファンドはこの方針に沿って二つの活用法を計画している。一つは「東大関連の既存VCのファンドへの出資(間接投資)」で、全体の3割を充てる。“ファンド・オブ・ファンズ”の形をとることで、VBと合わせてVCも支援する仕組みだ。もう一つが「成長期VBに対する既存VCとの共同投資(直接投資)」で、7割はこれに回る。

 ファンド出資をいち早く受けたビヨンド・ネクスト・ベンチャーズ(東京都中央区)は、東大IPCからの5億円を最後に、自社の1号ファンドを計55億円で完了した。同社はこれまでの投資先11社中、4社が東大関連VBと実績があり、それが東大IPCに認められた主因だ。

 インクジェットプリンターで電子回路印刷をするAgIC(エージック、東京都文京区)は、投資先の東大発VBの一つ。慶応義塾大学発VBだが、東大医学部と共同研究する病気治療アプリのキュア・アップ(東京都中央区)も、東大関連VBに相当する。

 「起業前後のVBを育成するアクセラレーションプログラム、BRAVE(ブレイブ)の運営も評価された」とビヨンド・ネクスト・ベンチャーズの伊藤毅社長は説明する。エコシステム構築の意識共有が、東大IPCのパートナーにふさわしいとされた。

 さらに東大IPCは2月に3社へのファンド出資を発表した。ただし、出資先に東京大学エッジキャピタル(UTEC、ユーテック、東京都文京区)の名はまだ見られない。同社は東大発の大型バイオVB、ペプチドリームの東証1部上場など、ずぬけた実績を持つVCだ。

 日本における大学発VB投資の草分けとして、初期のファンド資金集めで苦労しただけに、政府資金を背負う東大IPCに対する思いは複雑だ。東大IPCの制度設計にも大いに意見してきた。東大IPCの大泉克彦社長は、UTECを重要なパートナーと認識し、出資を考えているという。だがUTECは、東大IPCとの連携に他VCほど素直になれない面がありそうだ。

 日本のVCはかつて、大組織を後ろ盾とした信用が求められ、金融機関や大企業の子会社などの系列が中心だった。ファンドマネジャーが会社員のため、リスクがとれない点が課題とされた。しかし近年、ITビジネスの進展により、10億円程度の小規模ファンドで、リスクをとって成功する独立VCが注目を集めている。
                 

 一方、技術・モノづくり系の大学関連VBでも、ミドリムシのユーグレナや、ロボットスーツのサイバーダインなどの大型成功例が登場。政府の後押しもあり、大学発VBの支援ファンドが今また、活況を呈している。

 技術系VBの課題は事業化まで時間と資金がかかることだ。ライフサイエンス系での動物実験やデータ採取の人件費、素材系のパイロットプラント設置などで費用がかさむ。巨額の資金が必要になるが、一つのVCでは出せる額でない。そのため最終段階では、複数VCの共同投資となるのが一般的だが、難航することも多い。

 ここで期待されるのが東大IPCだ。今後、1号ファンドの資金の多くを、既存VCとの連携による成長期VBへの共同投資に振り向ける。「各VCは競争相手で、かつVB育成の協調相手。東大IPCがこれらを束ねていく」(伊藤ビヨンド・ネクスト・ベンチャーズ社長)ことになる。
日刊工業新聞2017年2月28日
安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
政府出資の東大IPCは、ファンドレイズの苦労を知らない。投資家に土下座して、這いずり回ってファンドを集めてこそ、投資家本位のファンド運営が出来るものだ。それが受託者責任。くれぐれも民間VCの事業を阻害しないようにして欲しい。

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