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トヨタ、章男社長の哲学はなぜぶれないのか

「未来のために今を変える」創業期へあふれる思い
トヨタ、章男社長の哲学はなぜぶれないのか

豊田喜一郎氏(左)と豊田章男社長

 20―30年後、トヨタ自動車の「今」は、どんな時代だったと振り返られるだろうか。将来のために“種まき”をしてくれた―。豊田章男社長は、そうありたいと考えている。今年、創立80年を迎えるトヨタ。「未来のためにリスクを恐れず今を変える」という豊田社長の経営哲学のバックボーンには何があるのか。

 実は祖父、豊田喜一郎氏らトヨタ創業期への強い思いがある。国産乗用車が「無謀」と言われた時代、喜一郎氏らは「未来のため、お国のため」と自動車産業を興そうと果敢に挑戦した。

 幾多の苦難の末、国産乗用車の夢はかなえた。その後のトヨタの発展、国内自動車産業の発展は言うまでもないが、苦労した喜一郎氏らはそうした「いいところをみていない」(豊田社長)まま世を去った。

 豊田社長はそんな喜一郎氏らに思いをはせる。現役の自分たちが「リスク、リスクと言って守りに入るのでは、創業者たちのがんばりが何だったのかとなる」(同)。

 何より、リーマン・ショック後の大赤字転落というタイミングで就任した豊田社長にとって、種まきの重要性は痛いほど身にしみている。

 豊田社長は今のトヨタのリスクについて「チャレンジすることをやめること。私が在任中に評価を得たいと思うこと」と強調する。

 折しも自動車産業は今、100年に一度の大転換期を迎えようとしている。「これまでのセオリーはこれからのセオリーにはならない」(豊田社長)という中では、変化を拒むことが最大のリスクとなる。

 「すべて刈り取って後世をめちゃくちゃにするのか、後世から『あの時、種をまいてくれたね』と言われるのか。僕は後者と言われたい」。豊田社長の意志は、ぶれない。
AA型乗用車を生産した挙母(ころも)工場

(文=名古屋・伊藤研二)
日刊工業新聞2017年2月23日「深層断面」から抜粋
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
「新たな『前例』をつくってくれ。大企業は前例がないと動かない」。豊田社長は昨年12月に設立した「EV事業企画室」のメンバーに、こう注文したという。EV開発の社内ベンチャーは4人という小所帯。しかもグループのデンソー、アイシン精機、豊田自動織機からの出向者と構成する異例の組織。第1の目的は後れていると言われるEVを早期に開発し投入すること。ただ、それだけでは根底にある豊田社長の思いを見逃してしまう。規模の大きさ故の動きの遅さ。大企業トヨタのアキレス腱だ。「(年間販売台数)600万台の時と1000万台の時では仕事のやり方を変えないといけない」。ここ数年、幾度も強調している。「1000万台の“神様”に試されている」。GMもVWもなぜか1000万台付近でもたつく。豊田社長はその先に進むには“通行手形”が必要と考えており、その一つが仕事の進め方改革ということなのだろう。 (名古屋支社・伊藤研二)

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