トランプ米大統領は『銀河英雄伝説』なら誰か?

多数決の民主政治がベストとは限らない

<注意>文中で小説の結末に触れています

 優れた君主の独裁と腐敗した民主政治は、どちらがいいか。日本を代表する長編SF小説『銀河英雄伝説』で作者の田中芳樹さんは主人公の台詞を通じて問いかける。

 作中の自由惑星同盟の軍人、ヤン・ウェンリーは“魔術師”と呼ばれる天才的な戦術で、敵の銀河帝国を苦しめる。同時にその皇帝を称揚し、自国の指導者の一貫しない命令に悩まされ続ける。矛盾した言動は民主共和制に対する愛着に基づく。

 意見が対立した時、多数をもって選択を決めるのが民主主義だ。短期で見れば合理的な判断になるとは限らない。しかし長期にわたる民意の積み重ねなら、良き結果につながるはずだと現代人は期待する。

 米国のトランプ大統領は、民主政治の指導者に違いない。ただ実際に始まった「米国第一」政策は、長期的な米国の利益を損ねる危険をはらんでいる。4年間の任期中、民意が政権をどう変えていくか、ハラハラしつつ見ているしかない。

 『銀河英雄伝説』の自由惑星同盟は決戦で破れ、帝国に併合される。暗殺されたヤンの後継者は、帝国が腐敗した時に備えて共和政体の自治領を残すことを提案し、英明な皇帝はこれを了承する。強権の背後に多様性を残すことも、人類の知恵である。



日刊工業新聞2017年1月26日「 産業春秋」

加藤 正史

加藤 正史
02月04日
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紙面に掲載してから、ずいぶん多くの反響がありました。
SF小説を新聞社のコラムで取り上げるとき、小松左京さんや星新一さんは一般的。しかし田中芳樹さんは、まだ珍しいのでしょう。
『銀英伝』は老若男女すべてに知られた作品ではないかも知れないけれど、コアなファンが社会の第一線で活躍しています。経済メディアでも、もっと登場していいように思います。
(ヒソヒソ声)トランプ政権の誕生は「トリューニヒトを思わせる」という声が聞こえてきそうです。

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