東芝「巨額損失」の起源を考える

異端のリーダーから始まった「二律背反のガバナンス」

 原子力事業での損失額が7000億円規模に膨らむ見通しも出てきた東芝。半導体メモリー事業の分社を中心に「会社のカタチ」が大きく変わらざるを得ない。財務基盤が痛んだきっかけを考えると、2005年から09年まで社長を務めた西田厚聰氏時代に踏み込んだ米ウエスチングハウス(WH)の巨額買収と、リーマン・ショックによる急速なキャッシュフローの悪化という問題に行きつく。

 西田氏の経営哲学は「二律背反の克服」だ。「利益優先かシェア(規模)優先か。かつてはどちらかを選択すれば良かったが、パラダイムが変わり、二律背反という本質的な課題を解決しないと勝ち残れない」(西田氏)というものだ。個性的で強烈なリーダーシップを持つトップとしてメディアも西田氏を賞賛した。

 後任社長に原子力畑の佐々木則夫氏を選んだ西田氏は、当時から「後継候補は数人いた」と話していた。交代当時の事業環境が違っていたならば、後任人事や現在の景色は大きく変わったものになっていたかもしれない。

 巨大企業の東芝は、組織的に物事が動く側面と、経営トップの個性が方向性を決める二律背反のガバナンス(企業統治)を内包する。西田・佐々木時代は、より「経営トップの個性が方向性を決める」方へ振れた。もちろんそれ自体が悪いことではないが、東芝のような大企業でリーダーシップを発揮させるガバナンスの仕組みが追いついてなかった。

 日刊工業新聞では節目節目で東芝の経営にフォーカスしてきた。今回、西田氏が社長を退任する直前の2009年4月に特集した記事から、巨額損失問題の起源を考える。

攻めを貫いた「西田経営」が残したもの


 東芝が大きな転換点に差しかかっている。「攻めの経営」を貫いてきた西田厚聰社長が6月末で会長に退く。半導体などへの巨額投資は世界同時不況で裏目に出た。大手電機の中でも財務内容は最も厳しい。次期社長として収益回復と構造改革を託されたのは、原子力事業を躍進させた佐々木則夫副社長。復活へのシナリオを検証する。

 昨年末から市場で東芝の自己資本の脆弱(ぜいじゃく)さが話題になっている。09年3月期の当期純損失予想は2800億円で、09年3月期末に自己資本比率は8%台に下がる可能性が高い。「とにかく金をできる限り集めろ」(同社幹部)という大号令がかかり、年度末に向けた運転資金に大きな支障は出なかった。

 「東芝さんは本当に資金余力がないんですね」―。昨年から買収交渉が続く原子燃料工業。同社の親会社である住友電気工業と古河電気工業の関係者は、金額提示の低さが合意の阻害要因になっているという。

 もはや時価発行増資やCB(転換社債型新株予約権付社債)などのエクイティ・ファイナンスなしでの財務の立て直しは困難というのが共通のコンセンサス。焦点は金額。最低3000億円、08年度の業績着地次第では5000億円という数字も考えられる。
 

【追記】約3000億円の公募増資と劣後債1800億円を合わせて5000億円規模の資本増強を実施。10年3月期末の自己資本比率は14・6%(※減額修正前)に回復した。


 一定の増資が成功しても財務基盤は安泰ではない。まず期間収益のV字回復が期待薄なこと。さらに繰り延べ税金資産の取り崩しや年金積み立て不足のリスクもある。監査法人は、繰り延べ税金資産の取り崩しで09年3月期に巨額赤字を計上する日立製作所と同じ新日本監査法人だ。

 東芝は1月末に発表した収益改善策で、固定費を08年度比で3000億円削減。2010年3月期には営業損益で最低でも黒字転換を目指している。本来ならNAND型フラッシュメモリーは、収益の戻りが早い事業。減産効果でスポット価格は反転しているが、大口顧客の動きは鈍い。しかも投資が抑制される中で、需要回復期に韓国サムスン電子に競争力で後れをとる可能性もある。

買収後もWHをコントロールできず


 原子力事業を中心に社会インフラは安定収益が見込めるのは確か。原子力ではカザフスタンの国営企業と提携するなど原料からアフターサービスまでの一貫体制を築きつつある。米ウエスチング・ハウス(WH)買収の投資回収期間も当初の17年から13年に短縮。しかし原子力が収益に本格的に貢献するのは、早くて2012年以降だろう。

【追記】佐々木体制で当初、原子力事業を2015年度に売上高1兆円、39基の新設受注を目標に掲げていたが、東日本大震災の発生で状況が一変。その後、売上高目標を8000億円に切引き下げ、時期も先延ばしにした。


 自力成長を待つ余裕はない。そこで考えられるのが、優良事業や子会社の売却で現金を得るという選択肢。東芝テックや東芝エレベータなどは保有株の放出でそれぞれ300億―500億円程度の現金が入るとみられる。ただ現時点で「(これらの)売却の予定はない」(東芝首脳)という。

 もう一つ注目されるのが原子力事業のハンドリング。WHに対しては現在、子会社を通じ67%の株式を保有している。WHの資本を触媒に東芝連合の形成に動けば、短期・長期でメリットを享受する戦略も可能だ。今回、蒸気発生器などを調達するIHIの社外監査役に、西田社長の腹心である能仲久嗣副社長を送り込むことを決めた。まさに両社の連携強化は、佐々木次期社長の手腕が生きる場面だ。

【追記】WHの経営陣とうまくコントロールできない場面も多く、IHIとの関係も深まっていない。WHの株は大株主の米ショーグループが売却した分を東芝が引き取り、現在は87%に高まっている。



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明 豊

明 豊
01月20日
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経営の転機は西田社長の登場だったと思う。西田さんのキャラクターは東芝にとってかなりの「異端」「異物」だったといえる。今回の問題は、「二律背反」という言葉にヒントがある。これは何も東芝に限った話ではない。この10年のスパンで考えると、日本の電機業界を翻弄した韓国サムスンの存在を抜きに語れない。そのサムスンのCEOが、現在、窮地に立たされている。時代は流れ、歴史は違った形で繰り返される。

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