孫さんが熱を上げる「アジアスーパーグリッド構想」の現実度

政治や歴史から道のりは長く険しい。でも「ロマン」だけ終わらない予感

 東京から3000キロメートル離れた、モンゴルの砂漠。この地から、風力発電で作った電力を日本へ送るプロジェクトが動きだしている。ソフトバンクグループの孫正義社長が提唱する「アジアスーパーグリッド構想」だ。アジア各国のグリッド(送電網)を結び、再生可能エネルギーを巨大な送電網で共有するという壮大な事業に、海外の電力事業者が賛同した。“夢物語”と思えたが、おぼろげながら送電網がつながったアジアの未来図が見え始めた。

「技術的にできる。いけそうだ」


 「技術的にできる。いけそうだ」。2016年9月9日、孫正義ソフトバンクグループ社長は何度も繰り返した。この日は、自身が会長を務める自然エネルギー財団(東京都港区)のシンポジウムに登壇した。歩きながら語るスピーチはいつもと同じだが、興奮を抑えきれないようだった。

 11年3月11日に起きた東日本大震災による、東京電力福島第一原子力発電所の事故を目の当たりにし「社長を1年辞めさせてくれ。福島に行って自分の責任を果たしたい」と、取締役会で訴えたエピソードを明かした。孫社長が言う「責任」とは、再生エネの普及だ。社長を辞められなかったが、責任を果たそうと自然エネルギー財団を設立した。

 今回のシンポジウムで、モンゴルからロシア経由、中国・韓国経由、それぞれのルートで日本へ送電するコストの試算を示した。いずれも、石炭火力発電所で1キロワット時の電力を作る発電コスト(10・5セント)を下回ったという。壇上で「採算あり」と声を弾ませた。

 もちろん、実現には各国の送電網を接続する必要がある。それが「アジアスーパーグリッド構想」だ。物理的には簡単そうに思えるが、実現には高い壁がある。
             

利点は「余剰電力をなくせることだ」


 アジアスーパーグリッドの利点について、自然エネルギー財団のトーマス・コーベリエル理事長(元スウェーデンエネルギー庁長官)は「余剰電力をなくせることだ」と語る。使う量以上に再生エネの発電量が増えてしまい、余った電力が余剰電力だ。余剰電力が増大すると、送配電の設備に大きな負荷がかかる。これが引き金となって、大規模な停電を招く。

 天候で発電がめまぐるしく変動する太陽光と風力の導入が増えている日本で、余剰電力対策として蓄電池の設置が始まった。

 もっとも簡単な解決策は、余剰電力を余らせることなく消費することだ。送電網の中に電力の巨大な需要地があれば、余剰電力をあっという間に消費できる。また、そうした需要地がなければ、需要地を抱える送電網と接続すればいい。

 アジアスーパーグリッドによってアジア各国の送電網がつながると、「太陽光、風力の発電が変動しても各国が融通しあえるので、変動を吸収できる」(トーマス・コーベリエル理事長)と説明する。余剰電力発生の不安が取り除かれるだけでなく、アジア全体で再生エネの導入量を拡大できる。

 欧州は各国の送電網がつながっており、日常的に電力が輸出入されている。風力発電が多く立地するデンマークでは、余剰電力が発生すると隣国へ輸出するので、需給のバランスが保たれている。

 アジア各国の送電網を結びつけることは「技術的にはすぐにできる」と、コーベリエル理事長は太鼓判を押す。ただし、「政治次第」だ。政治合意は電力網接続の第一歩であると同時に、最大の関門となる。

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日刊工業新聞2017年1月4日

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松木 喬

松木 喬
01月05日
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年末、スェーデンのエネルギー庁長官だったコーベリエル氏(自然エネルギー財団理事長)にインタビューの時間をいただきました。孫氏が提唱するアジアスーパーグリッドは、政治的に難しいというのは、なんとなく想像できていました。一方で、技術的問題はないと断言しました。専門家が言うので、その通りでしょう。その分、政治の壁が高く、高く感じました。孫氏は今年も実現に向けた具体的な行動をおこすのでしょうか、楽しみです。

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