ニュースイッチ

「キヤノン・東芝」医療機器連合、世界の壁はまだまだ高い

競走軸はソリューション力に。さらなる他社との連携も
「キヤノン・東芝」医療機器連合、世界の壁はまだまだ高い

東芝メディカル本社工場

 キヤノンによる東芝メディカルシステムズの買収は、成長産業としてヘルスケア分野への期待の高さを物語る。世界的に医療の需要拡大が見込まれる中、医療機器や医薬品、再生医療製品などに事業展開を図る動きも活発化している。医療を取り巻く環境の変化も、業界再編を後押しする可能性を秘めている。

 高齢化や新興国経済の成長で、高度な医療のニーズは安定的に増えている。医療機器の世界市場も年率1ケタ後半の安定成長が続く見通しだ。

 だが、全てがバラ色というわけではない。国の財政の観点では増え続ける医療費は、コスト削減や効率性などの“圧力”に常にさらされる。医療機関の再編や集中購買の動きもあり、競争の激化も想定される。

 患者の身体への負担が少ない低侵襲治療や患者の生活の質(QOL)の改善につながる医療技術へのニーズは強く、新技術を生み出す開発力も不可欠だ。

 需要と技術の二つのトレンドに加え、大きく医療のあり方を変えようとしているのがITだ。膨大な医療情報をAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)技術を活用し、患者ごとに最適化した医療を提供し、付加価値向上につなげる。

 コンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴断層撮影装置(MRI)、超音波診断装置は高機能化・高画質化が進んだ。だが、単一の製品だけで患者や医療従事者が満足する価値を見いだしにくくなっている。

 今後の課題は機器単体の性能競争から機器を組み合わせて医療現場のアウトカム(成果)に結びつけられるか。ソリューション力の発揮に競争の軸足が移りつつある。技術的にも診断機器と治療機器、医療機器と医薬品などの融合も進みつつある。製品構成の拡充に向け他社との連携やM&Aの重要性が増すのも必然だ。

日刊工業新聞2016年12月22日


                   


ロシアでCT生産。販売シェア 19年度20%に


 東芝メディカルシステムズ(栃木県大田原市、瀧口登志夫社長)は、ロシアでコンピューター断層撮影装置(CT)の現地生産を始める。現在、許認可取得に向けた最終手続き中で、2017年初頭の製造開始を目指す。現地生産により同国でのCT販売シェアを19年度までに10ポイント増の約20%に高める。

 ロシアの医療機器製造・販売を手がけるレントゲンプロム(モスクワ市)と東芝メディカル製CTに関するライセンス契約、製造委託契約を結んだ。まず検出器を80列配列した「アクイリオンプライム」を製造する。販売は東芝メディカルの現地子会社が担当する。

 ロシアは医療の高度化や医療インフラの整備を進めており、高度な画像診断装置の需要増が見込まれている。ロシア政府は医療機器の国産品優遇政策を推進しており、現地生産で訴求力を高める。

日刊工業新聞2016年12月19日

村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
世界を見渡せば、医療機器大手の米アボット・ラボラトリーズが、同業の米セント・ジュード・メディカルを250億ドル(約2兆9000億円)で買収を決めるなどメガ再編の動きがある。それに比べて日本の医療機器業界は大きな再編の動きは少なかった。キヤノン参入がこうした流れを変える可能性がある。

編集部のおすすめ