ニュースイッチ

「米国第一主義」の代償は米国以外の世界が払う

トランプ新政権は最もリッチで一般市民とはかけ離れている
「米国第一主義」の代償は米国以外の世界が払う

トランプ公式サイトより

今年は申(さる)年なので「相場が荒れる」と言われていたが、まさに想定外のショックの連続だった。

 2015年12月に米連邦準備制度理事会(FRB)が金利を引き上げ、年明け1月に入ると中国市場が大きく下げ、上海総合指数は15年7月のピーク時から4割以上も下落した。

 中国当局はサーキットブレーカーを作動させ、ボラティリティーを抑制しようとした。そして、2月半ばには原油価格がバレル当たり30ドルを割り込み、底を打ち、3月から世界の株式市場は上昇した。

 次のショックは6月23日に決定した英国の欧州連合(EU)離脱である。ポンドは1・50ドルから離脱決定後1時間で1・3224ドルまで急落し、31年ぶりの日計りにおける最安値となった。

 知人は「ポンド建て資産が目減りした」とがっかりしていたが、海外の通貨に分散して資産を保有していた英国人にとってはざっと10―20%の利益を得たことになる。さらに、英国中央銀行が金利を下げ、おかげで債券価格が上昇した。

 そして、11月8日の米大統領選挙ではまさかのトランプ勝利が起こった。その夜、米国株先物市場ではダウが800ポイントも急落した。

 トランプ氏のアドバイザーでもある大物投資家アイカーン氏はこの夜の祝賀パーティーを一足先に抜け出し、会社に戻ると10億ドルもの株の買い注文を出した。

 他のグローバルマクロ戦略の大手ヘッジファンドも9日の午前4時まで買い注文を出した。そして、彼らは市場が開くと、株価上昇で大きな利益を上げた。ここから「トランプラリー」が始まった。

 このように、いくつものショックやサプライズに素早く対応できたヘッジファンド・マネジャーにとって今年は実り多かった。そして、トランプ次期政権下、国際金融に関わる重要なポストには多くのヘッジファンド経験者が就任する予定である。

 まず、財務長官就任予定のムニューチン氏はゴールドマン・サックスでトレーダーの経験を持ち、その後自らヘッジファンドを起こした。商務長官に就任予定のロス氏も、ヘッジファンド・サークルの中で輝く存在である。経験と実力を備えた彼らが総力を挙げて米国の国益を最大化すべく国際金融のかじを取ろうとしている。

 その意味でも、トランプ新政権は最もリッチで一般市民とはかけ離れた人々が権力を行使することになる。

 リーマン・ショックの時のように金融資本主義が国家としてのモラルハザード(倫理観の欠如)を起こすとき、例えば「アメリカ第一主義」のウラで下落するメキシコ通貨ペソ、その国の貧困問題など、多くの代償を米国以外の世界が払うことになるだろう。
日刊工業新聞2016年12月23日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
代償というか、これまでも大概の国が米国の政治経済と密接に連動していた。GDP1位の国なので当然といえば当然だが。問題は政治の安定という変数がどうなるか。政権と担う顔ぶれを見る限り、その振れ幅はネガティブに振れやすいと感じる。

編集部のおすすめ